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3話『慣れない日々と愛しい君』
6・幸せを感じる夜
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****♡Side・副社長(皇)
「もし、学生時代に塩田に会っていたら」
「うん?」
じっとこちらを見つめる塩田。
「あ、いや。恋人にはなってなさそうだな」
「なんだそりゃ」
恐らくすべてが必然なのだろう。父に認められることがなく、常に心が乾いたような感覚に陥っていた皇。そんな自分だからこそ株原に就職した。
そして認められたくて一生懸命頑張ったのも、承認欲求に飢えていたから。
学生時代に彼に出会って、もしつき合えたなら。きっと今はない。
もっと前から彼を独り占めできたなら幸せだったろうと思ったが、そう思うのは今が幸せだからだ。
「塩田は学生時代に好きな人とかいた?」
それは何気ない会話のつもりだったが、
「いたように見えるのか?」
と逆に聞き返されてしまう。
「”興味を持っても無駄”が”興味を持たない”に変わるまでに時間はかかったよ。でも小学生までだな、あきらめが悪かったのは」
ナッツを摘まむ塩田。
彼の両親は一体、彼にどんな理想像を描いていたのだろう?
「中学に上がる頃には完全にボッチだったけど、大して困らなかったな」
学生時代はグループ活動が多いものだ。だから人は一人になるのを恐れる。
だがその恐れるは、羞恥とセットだからかもしれない。
「グループ活動はどうしてたんだ?」
「あちこちから誘われたしな」
普段は我が道をひたすら独走の彼。
だがこの見た目と優秀さ。仲間外れとは縁遠そうだ。
「どんな学生生活だったんだ?」
「うーん。一応遊びに誘ってくれる奴はいたんだけれど」
『今からゲーセン行くんだけれど、塩田もいかん?』
『俺の両親討伐してくれたら行ける』
「そんな感じなのかよ」
皇は塩田から学生時代によくしていたやり取りを聞いて吹いた。
「断ったことはないよ。行けなかっただけで」
塩田はボッチだと言ってはいるが、相手はきっと友人だと思っていたのだろう。今でも我が道行くところは全く変わっていないが、苦情係で浮いているということはない。
自分から何かをしなくても構われるのは塩田の人徳なのだろうと感じた。
「しかし、塩田が板井や電車と仲が良いのは意外だな」
「そう?」
塩田の同期である板井はどちらかと言うと無口な方だ。だがその無口はコミュニケーションが下手という感じではなく、空気を読み余計なことは言わないと言うタイプの無口。常識人で礼儀を弁えており、優秀な社員だ。
そしてもう一人の同期、電車はムードメーカーで可愛らしい顔をした優男。ミスは多いが真面目で一所懸命なところに好感が持てる。
それに対し、塩田は眉目秀麗だが塩で有名な社員だ。上司への態度も塩。だがそこを社長に気に入られて我が社にスカウトされたのである。
三人とも気質が違う。真面目なのは三人とも変わらないが性格が合わなそうな感じがしていた。だが一年たった今、どこの課よりも同期の仲が良いと評価されている。
「板井も電車も良い奴だよ」
「それは知ってる。そうではなく、性格が合わなそうと思ってたよ」
「人ってのは、似たもの同士よりも違う方が補い合えるから意外と居心地が良い」
「なるほどね」
言われてみれば、塩田と自分も全く性格が違うなと思う皇。
「苦情係は仲が良くて羨ましいよ」
「ん? 誰かと喧嘩でもしているのか?」
皇の言葉に不思議そうな顔をする彼。
「いや、俺は部署に所属しているわけじゃないしさ」
と言えば、
「皇も苦情係の一員みたいなもんだろ」
と彼。
嬉しいことを言ってくれるなあと思いながら、皇は微笑む。
「そう言えば、板井は上手くいっているのか?」
「ん? なんで」
彼の同僚の板井は、苦情係の課長唯野と交際をしていた。
「先日、唯野さんから年下と上手くつき合うコツを教えて欲しいって言われたから」
「へえ。ま、大丈夫じゃないの? 板井が総括にキレていたけど」
「あの人、まだ諦めてないのか」
ため息をつく皇に、
「あの人の辞書に『諦める』なんて言葉ないだろ」
と呆れ声で言う塩田であった。
「もし、学生時代に塩田に会っていたら」
「うん?」
じっとこちらを見つめる塩田。
「あ、いや。恋人にはなってなさそうだな」
「なんだそりゃ」
恐らくすべてが必然なのだろう。父に認められることがなく、常に心が乾いたような感覚に陥っていた皇。そんな自分だからこそ株原に就職した。
そして認められたくて一生懸命頑張ったのも、承認欲求に飢えていたから。
学生時代に彼に出会って、もしつき合えたなら。きっと今はない。
もっと前から彼を独り占めできたなら幸せだったろうと思ったが、そう思うのは今が幸せだからだ。
「塩田は学生時代に好きな人とかいた?」
それは何気ない会話のつもりだったが、
「いたように見えるのか?」
と逆に聞き返されてしまう。
「”興味を持っても無駄”が”興味を持たない”に変わるまでに時間はかかったよ。でも小学生までだな、あきらめが悪かったのは」
ナッツを摘まむ塩田。
彼の両親は一体、彼にどんな理想像を描いていたのだろう?
「中学に上がる頃には完全にボッチだったけど、大して困らなかったな」
学生時代はグループ活動が多いものだ。だから人は一人になるのを恐れる。
だがその恐れるは、羞恥とセットだからかもしれない。
「グループ活動はどうしてたんだ?」
「あちこちから誘われたしな」
普段は我が道をひたすら独走の彼。
だがこの見た目と優秀さ。仲間外れとは縁遠そうだ。
「どんな学生生活だったんだ?」
「うーん。一応遊びに誘ってくれる奴はいたんだけれど」
『今からゲーセン行くんだけれど、塩田もいかん?』
『俺の両親討伐してくれたら行ける』
「そんな感じなのかよ」
皇は塩田から学生時代によくしていたやり取りを聞いて吹いた。
「断ったことはないよ。行けなかっただけで」
塩田はボッチだと言ってはいるが、相手はきっと友人だと思っていたのだろう。今でも我が道行くところは全く変わっていないが、苦情係で浮いているということはない。
自分から何かをしなくても構われるのは塩田の人徳なのだろうと感じた。
「しかし、塩田が板井や電車と仲が良いのは意外だな」
「そう?」
塩田の同期である板井はどちらかと言うと無口な方だ。だがその無口はコミュニケーションが下手という感じではなく、空気を読み余計なことは言わないと言うタイプの無口。常識人で礼儀を弁えており、優秀な社員だ。
そしてもう一人の同期、電車はムードメーカーで可愛らしい顔をした優男。ミスは多いが真面目で一所懸命なところに好感が持てる。
それに対し、塩田は眉目秀麗だが塩で有名な社員だ。上司への態度も塩。だがそこを社長に気に入られて我が社にスカウトされたのである。
三人とも気質が違う。真面目なのは三人とも変わらないが性格が合わなそうな感じがしていた。だが一年たった今、どこの課よりも同期の仲が良いと評価されている。
「板井も電車も良い奴だよ」
「それは知ってる。そうではなく、性格が合わなそうと思ってたよ」
「人ってのは、似たもの同士よりも違う方が補い合えるから意外と居心地が良い」
「なるほどね」
言われてみれば、塩田と自分も全く性格が違うなと思う皇。
「苦情係は仲が良くて羨ましいよ」
「ん? 誰かと喧嘩でもしているのか?」
皇の言葉に不思議そうな顔をする彼。
「いや、俺は部署に所属しているわけじゃないしさ」
と言えば、
「皇も苦情係の一員みたいなもんだろ」
と彼。
嬉しいことを言ってくれるなあと思いながら、皇は微笑む。
「そう言えば、板井は上手くいっているのか?」
「ん? なんで」
彼の同僚の板井は、苦情係の課長唯野と交際をしていた。
「先日、唯野さんから年下と上手くつき合うコツを教えて欲しいって言われたから」
「へえ。ま、大丈夫じゃないの? 板井が総括にキレていたけど」
「あの人、まだ諦めてないのか」
ため息をつく皇に、
「あの人の辞書に『諦める』なんて言葉ないだろ」
と呆れ声で言う塩田であった。
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