上 下
25 / 32
3話『慣れない日々と愛しい君』

6・幸せを感じる夜

しおりを挟む
****♡Side・副社長(皇)

「もし、学生時代に塩田に会っていたら」
「うん?」
 じっとこちらを見つめる塩田。
「あ、いや。恋人にはなってなさそうだな」
「なんだそりゃ」
 恐らくすべてが必然なのだろう。父に認められることがなく、常に心が乾いたような感覚に陥っていた皇。そんな自分だからこそ株原に就職した。
 そして認められたくて一生懸命頑張ったのも、承認欲求に飢えていたから。
 学生時代に彼に出会って、もしつき合えたなら。きっと今はない。
 もっと前から彼を独り占めできたなら幸せだったろうと思ったが、そう思うのは今が幸せだからだ。

「塩田は学生時代に好きな人とかいた?」
 それは何気ない会話のつもりだったが、
「いたように見えるのか?」
と逆に聞き返されてしまう。
「”興味を持っても無駄”が”興味を持たない”に変わるまでに時間はかかったよ。でも小学生までだな、あきらめが悪かったのは」
 ナッツを摘まむ塩田。
 彼の両親は一体、彼にどんな理想像を描いていたのだろう?
「中学に上がる頃には完全にボッチだったけど、大して困らなかったな」
 学生時代はグループ活動が多いものだ。だから人は一人になるのを恐れる。
 だがその恐れるは、羞恥とセットだからかもしれない。
「グループ活動はどうしてたんだ?」
「あちこちから誘われたしな」
 普段は我が道をひたすら独走の彼。
 だがこの見た目と優秀さ。仲間外れとは縁遠そうだ。
「どんな学生生活だったんだ?」
「うーん。一応遊びに誘ってくれる奴はいたんだけれど」

『今からゲーセン行くんだけれど、塩田もいかん?』
『俺の両親討伐してくれたら行ける』

「そんな感じなのかよ」
 皇は塩田から学生時代によくしていたやり取りを聞いて吹いた。
「断ったことはないよ。行けなかっただけで」
 塩田はボッチだと言ってはいるが、相手はきっと友人だと思っていたのだろう。今でも我が道行くところは全く変わっていないが、苦情係で浮いているということはない。
 自分から何かをしなくても構われるのは塩田の人徳なのだろうと感じた。
「しかし、塩田が板井や電車でんまと仲が良いのは意外だな」
「そう?」
 
 塩田の同期である板井はどちらかと言うと無口な方だ。だがその無口はコミュニケーションが下手という感じではなく、空気を読み余計なことは言わないと言うタイプの無口。常識人で礼儀を弁えており、優秀な社員だ。
 そしてもう一人の同期、電車でんまはムードメーカーで可愛らしい顔をした優男。ミスは多いが真面目で一所懸命なところに好感が持てる。
 それに対し、塩田は眉目秀麗だが塩で有名な社員だ。上司への態度も塩。だがそこを社長に気に入られて我が社にスカウトされたのである。

 三人とも気質が違う。真面目なのは三人とも変わらないが性格が合わなそうな感じがしていた。だが一年たった今、どこの課よりも同期の仲が良いと評価されている。

「板井も電車も良い奴だよ」
「それは知ってる。そうではなく、性格が合わなそうと思ってたよ」
「人ってのは、似たもの同士よりも違う方が補い合えるから意外と居心地が良い」
「なるほどね」
 言われてみれば、塩田と自分も全く性格が違うなと思う皇。
「苦情係は仲が良くて羨ましいよ」
「ん? 誰かと喧嘩でもしているのか?」
 皇の言葉に不思議そうな顔をする彼。
「いや、俺は部署に所属しているわけじゃないしさ」
と言えば、
「皇も苦情係の一員みたいなもんだろ」
と彼。
 嬉しいことを言ってくれるなあと思いながら、皇は微笑む。

「そう言えば、板井は上手くいっているのか?」
「ん? なんで」
 彼の同僚の板井は、苦情係の課長唯野と交際をしていた。
「先日、唯野さんから年下と上手くつき合うコツを教えて欲しいって言われたから」
「へえ。ま、大丈夫じゃないの? 板井が総括にキレていたけど」
「あの人、まだ諦めてないのか」
 ため息をつく皇に、
「あの人の辞書に『諦める』なんて言葉ないだろ」
と呆れ声で言う塩田であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ガチムチ島のエロヤバい宴

ミクリ21 (新)
BL
エロヤバい宴に大学生が紛れ込んでしまう話。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

処理中です...