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3話『慣れない日々と愛しい君』
5 戸惑いと日常
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****♡Side・塩田
「なんか、ごめん」
皇に謝られ、塩田は”何がだ?”という表情をした。
家族の一泊していけという言葉を断った皇。
「ちゃんと話はできたのか?」
「それは、まあ」
市街地でホテルを取った。夜景が綺麗な展望レストランのあるホテルである。
「長年の確執から解放されたんだから、もっと嬉しそうな顔したらどうだ?」
「いや、嬉しいよ。うん」
何だか要領を得ない返答をする皇に塩田は眉を寄せた。
「どうかしたのか?」
「いや、なんというか……その……。俺は家族といるよりも塩田といる方が落ち着くみたいだ」
「それは落ち着いてるというのか? 動揺しているように見えるが」
いつもはどっしりと構えている彼。だが、二人の時を思い出してみると、これもまた普通だなと思いなおす塩田。
「別に気にしてない。ただ、もっと家族と一緒に居たかったんじゃないかと思っただけだ」
皇の父は、彼が連れてきた恋人が同性でも反対はしなかった。
それどころか”末な長く仲良くしてやってくれ”とお願いされたくらいだ。妹弟からは皇には理解者がいなかったとも聞かされた。
それに関しては塩田も複雑な気持ちになる。果たして彼を理解しているかと問われたら自信はない。
だが、それで良いとも思っていた。
人はみな違う生き物。わからないからわかりたいと思う。歩み寄る。それでいいのではないかと。
「いや。正直、長く離れていると居心地が悪くなるものだなと思った」
知らない場所ではないだろうが、その気持ちは分からなくもない。
恐らく新しい職場へ行った時と同じような気持ちなのだろう。明らかにそこには自分がいなかった空間や空気があるのだから。
「他社訪問が多い皇でもそんなこと思うものなんだな」
親近感が湧いてふっと笑うと、皇が何故かホッとした表情を浮かべる。
「俺だってただの人間だから」
と彼。
「いや、人間だとは思ってたぞ?」
「は?」
励まそうとした塩田は思ったままを述べたつもりだったが、おかしな発言になってしまったようだ。
「さて、飯行こうよ」
誤魔化すように話を変える塩田。
どういうことだ? と首を傾げる皇。
「深く考えると飯が不味くなるぞ」
「え?」
腑に落ちないという表情をしつつも塩田に続きエレベーターに乗り込む皇。目指すは最上階。
エレベーターに乗り込むと、彼はガラス張りの箱の中から階下を見下ろしていた。キラキラと光を反射するその瞳は愁いに満ちていて、まるで吸い込まれそうになる。
「どうかした?」
黙って皇を見つめていた塩田に気づいた彼がそっと微笑む。
「いや」
こんな時、なんと声をかけるのが正しいのだろうか?
それとも、そっとしておくべきなのか。わからないままエレベーターの箱は目的の階で止まる。
その後は穏やかな笑みを浮かべる彼と食事を楽しんだ。
「皇は昼間と夜、どっちが好きなんだ?」
部屋に戻ると風呂を済ませ窓際のカウンターでワインを嗜む皇。
皇の隣に腰かけた塩田は片腕で頬杖をつき、スマホの画面をスクロールしながら問う。
「やっぱり夜かな」
「なんで?」
「夜の空気とか音が好きかな」
「音?」
塩田はスクロールしていた指を止め、彼を見上げる。
「そう。独特の音がするだろ?」
虫の音でもなく風の音でも雨の音でもなく、夜独特の音。
塩田にはそれがどんなものなのかピンとこなかった。
「静かなんだけれど、独特のパリッとした音がするんだよ」
「それは家電が冷えたピキッとした音とかではなく?」
温度差による不思議な音を思い浮かべてみたが、それとも違うらしい。
「この音がなんの音なのかはわからないが、たぶん人間の活動音なんだと思うよ。ほら、耳を塞ぐと血管の音が聞こえるっていうだろ?」
頬に触れる彼の指先。
「じゃあ、静かになったら皇の活動音が聞こえるのか?」
「え?」
”それは怖いな”と笑う彼。確かにそれはホラーだなと思う塩田であった。
「なんか、ごめん」
皇に謝られ、塩田は”何がだ?”という表情をした。
家族の一泊していけという言葉を断った皇。
「ちゃんと話はできたのか?」
「それは、まあ」
市街地でホテルを取った。夜景が綺麗な展望レストランのあるホテルである。
「長年の確執から解放されたんだから、もっと嬉しそうな顔したらどうだ?」
「いや、嬉しいよ。うん」
何だか要領を得ない返答をする皇に塩田は眉を寄せた。
「どうかしたのか?」
「いや、なんというか……その……。俺は家族といるよりも塩田といる方が落ち着くみたいだ」
「それは落ち着いてるというのか? 動揺しているように見えるが」
いつもはどっしりと構えている彼。だが、二人の時を思い出してみると、これもまた普通だなと思いなおす塩田。
「別に気にしてない。ただ、もっと家族と一緒に居たかったんじゃないかと思っただけだ」
皇の父は、彼が連れてきた恋人が同性でも反対はしなかった。
それどころか”末な長く仲良くしてやってくれ”とお願いされたくらいだ。妹弟からは皇には理解者がいなかったとも聞かされた。
それに関しては塩田も複雑な気持ちになる。果たして彼を理解しているかと問われたら自信はない。
だが、それで良いとも思っていた。
人はみな違う生き物。わからないからわかりたいと思う。歩み寄る。それでいいのではないかと。
「いや。正直、長く離れていると居心地が悪くなるものだなと思った」
知らない場所ではないだろうが、その気持ちは分からなくもない。
恐らく新しい職場へ行った時と同じような気持ちなのだろう。明らかにそこには自分がいなかった空間や空気があるのだから。
「他社訪問が多い皇でもそんなこと思うものなんだな」
親近感が湧いてふっと笑うと、皇が何故かホッとした表情を浮かべる。
「俺だってただの人間だから」
と彼。
「いや、人間だとは思ってたぞ?」
「は?」
励まそうとした塩田は思ったままを述べたつもりだったが、おかしな発言になってしまったようだ。
「さて、飯行こうよ」
誤魔化すように話を変える塩田。
どういうことだ? と首を傾げる皇。
「深く考えると飯が不味くなるぞ」
「え?」
腑に落ちないという表情をしつつも塩田に続きエレベーターに乗り込む皇。目指すは最上階。
エレベーターに乗り込むと、彼はガラス張りの箱の中から階下を見下ろしていた。キラキラと光を反射するその瞳は愁いに満ちていて、まるで吸い込まれそうになる。
「どうかした?」
黙って皇を見つめていた塩田に気づいた彼がそっと微笑む。
「いや」
こんな時、なんと声をかけるのが正しいのだろうか?
それとも、そっとしておくべきなのか。わからないままエレベーターの箱は目的の階で止まる。
その後は穏やかな笑みを浮かべる彼と食事を楽しんだ。
「皇は昼間と夜、どっちが好きなんだ?」
部屋に戻ると風呂を済ませ窓際のカウンターでワインを嗜む皇。
皇の隣に腰かけた塩田は片腕で頬杖をつき、スマホの画面をスクロールしながら問う。
「やっぱり夜かな」
「なんで?」
「夜の空気とか音が好きかな」
「音?」
塩田はスクロールしていた指を止め、彼を見上げる。
「そう。独特の音がするだろ?」
虫の音でもなく風の音でも雨の音でもなく、夜独特の音。
塩田にはそれがどんなものなのかピンとこなかった。
「静かなんだけれど、独特のパリッとした音がするんだよ」
「それは家電が冷えたピキッとした音とかではなく?」
温度差による不思議な音を思い浮かべてみたが、それとも違うらしい。
「この音がなんの音なのかはわからないが、たぶん人間の活動音なんだと思うよ。ほら、耳を塞ぐと血管の音が聞こえるっていうだろ?」
頬に触れる彼の指先。
「じゃあ、静かになったら皇の活動音が聞こえるのか?」
「え?」
”それは怖いな”と笑う彼。確かにそれはホラーだなと思う塩田であった。
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