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3話『慣れない日々と愛しい君』

4 変化していく環境

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****♡Side・副社長(皇)

「なあ、表情硬くないか?」
「え?」
 手土産を買うために途中デパートへ寄ると地下で菓子折りを選ぶ。
 手元を覗き込みながら言葉をかけてきた塩田に驚く皇。
「そんなに怖いのか? 皇の親」
「いや、怖くはない。ただ人の話を聞かないし、仲が悪いだけだ」
 ”人の話をを聞かないんじゃ、うちと同じだな”と笑う彼。

──いや、塩田の両親は特殊だと思う。

 菓子を選び終えると再び駐車場へ。
 車に乗り込んだ彼に、
「俺の親父は子供を子供だと思わない人だったんだよな」
と告げる皇。
「大人扱いされたということか?」
「違う」
 皇の父は子供たちをただの皇家の一員という扱いしかしなかった。家族の温かさを父に感じたことがなかったのだ。
「それでも子供だったから、がんばったら認めてもらえると思っていたんだ」
 父は皇がどんなに頑張ろうとも変わらなかった。それが嫌で大学に入学すると同時に家を出たのである。

「そんなことがあったのか」
「うん」
 そのせいもあって自分は承認欲求の塊のようになってしまった。
 どんなに頑張っても親から認められることがないというのは、心を蝕む。社会に出て仮に認められたとしても、相手の言葉を信じるのが難しい。
 賞賛の声は空虚に感じた。
 株原の社長呉崎は形あるもので認めてくれたが、それとて周りに羨望されるばかりで満たされることはない。気にいられているだけだと言われたら、そうなのかもしれないと思ってしまうほどに、自分が自分を認めることが出来なくなっていた。
 塩田はそんな自分を唯一救ってくれたのだ。

 何にも興味を持たないからこそ、彼の好きは特別だと思える。
 塩田の意識が自分に向くことに優越感を持ち、満たされた。彼の特別になることこそが自分にとって唯一無二の場所。

 自分とは逆に親に干渉ばかりされていた塩田。
 何に興味を持っても取り上げられるなら、いっそ何も求めない。それが塩田だった。そんな彼が自分だけは手放さないというのなら、それ以上の特別はない。

「お互いロクでもない人生だったな」
と彼。
「まだ先は長いよ」
 二十代半ばにして終わってたまるかと笑いながら、彼に口づける。
 自分たちはまだスタート地点からほど近い場所にいるのだ。この先の人生が少しでも明るく、ハッピーになるようにこうやって互いの両親に挨拶を済ませようとしている。
「まだまだこれからだ」
「じゃあ、そんな暗い顔はやめろよ」
 彼は皇にそう言うと車のシートに身を沈めクスリと笑う。
「ああ、うん。そうだな」

 再び目的地へと進み始めた車内で、これからのことを考える。
 父に会うのは非常に気は重いが、これが済めば自由が待っていると思えた。

「どれくらい会ってないんだ?」
「親父?」
 デパ地下で購入した茄子漬を摘まんでいた塩田に突然質問され、思わず聞き返す皇。
「そう、親父さん」
「八年近くになるのかな……」
「じゃあ少しは変化があるかもしれないな」
 もし子供が自分のせいでいなくなったとしたら……。

──だが親父にはなんの期待もできない。
 十八年変わらなかった奴がその後の八年で変わるだろうか?

 そう思っていた皇だったが、家に帰って驚くのだった。

「優一!」
 実家に帰り、一番に出迎えてくれたのは懸念していた父。いきなり殴られるのかと身構える。
 一方、塩田は皇の後ろでスラックスのポケットに両手を突っ込み、のんびりと二人の様子を眺めていた。
 父の後から慌てて玄関に集まる妹弟に母。
「えっと、ただいま。久しぶり」
 皇はぎこちなく家族へ挨拶をする。
 その間、父はじっとこちらを見ていたが、
「すまなかった」
と突然、頭を下げたのである。

「何があったの」
 とりあえず中で話そうということになり、菓子折りを母へ渡すと五人はひとますリビングへ。母がキッチンに立つのに続き、皇はその後を追った。
「優一が出ていったあと、お父さんねお祖父ちゃんに酷く怒られたのよ」
 その年の親戚の集まりでは、親戚中から責められたらしい。
「お父さんの子供への接し方は、みんな何か思うことがあったみたいなの。お祖父ちゃんが怒ったことを皮切りにみんなも声をあげてくれたってわけ」
 それまでは、親戚であっても他人の家のことに口出しすべきではないという考え方だったようだ。
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