23 / 32
3話『慣れない日々と愛しい君』
4 変化していく環境
しおりを挟む
****♡Side・副社長(皇)
「なあ、表情硬くないか?」
「え?」
手土産を買うために途中デパートへ寄ると地下で菓子折りを選ぶ。
手元を覗き込みながら言葉をかけてきた塩田に驚く皇。
「そんなに怖いのか? 皇の親」
「いや、怖くはない。ただ人の話を聞かないし、仲が悪いだけだ」
”人の話をを聞かないんじゃ、うちと同じだな”と笑う彼。
──いや、塩田の両親は特殊だと思う。
菓子を選び終えると再び駐車場へ。
車に乗り込んだ彼に、
「俺の親父は子供を子供だと思わない人だったんだよな」
と告げる皇。
「大人扱いされたということか?」
「違う」
皇の父は子供たちをただの皇家の一員という扱いしかしなかった。家族の温かさを父に感じたことがなかったのだ。
「それでも子供だったから、がんばったら認めてもらえると思っていたんだ」
父は皇がどんなに頑張ろうとも変わらなかった。それが嫌で大学に入学すると同時に家を出たのである。
「そんなことがあったのか」
「うん」
そのせいもあって自分は承認欲求の塊のようになってしまった。
どんなに頑張っても親から認められることがないというのは、心を蝕む。社会に出て仮に認められたとしても、相手の言葉を信じるのが難しい。
賞賛の声は空虚に感じた。
株原の社長呉崎は形あるもので認めてくれたが、それとて周りに羨望されるばかりで満たされることはない。気にいられているだけだと言われたら、そうなのかもしれないと思ってしまうほどに、自分が自分を認めることが出来なくなっていた。
塩田はそんな自分を唯一救ってくれたのだ。
何にも興味を持たないからこそ、彼の好きは特別だと思える。
塩田の意識が自分に向くことに優越感を持ち、満たされた。彼の特別になることこそが自分にとって唯一無二の場所。
自分とは逆に親に干渉ばかりされていた塩田。
何に興味を持っても取り上げられるなら、いっそ何も求めない。それが塩田だった。そんな彼が自分だけは手放さないというのなら、それ以上の特別はない。
「お互いロクでもない人生だったな」
と彼。
「まだ先は長いよ」
二十代半ばにして終わってたまるかと笑いながら、彼に口づける。
自分たちはまだスタート地点からほど近い場所にいるのだ。この先の人生が少しでも明るく、ハッピーになるようにこうやって互いの両親に挨拶を済ませようとしている。
「まだまだこれからだ」
「じゃあ、そんな暗い顔はやめろよ」
彼は皇にそう言うと車のシートに身を沈めクスリと笑う。
「ああ、うん。そうだな」
再び目的地へと進み始めた車内で、これからのことを考える。
父に会うのは非常に気は重いが、これが済めば自由が待っていると思えた。
「どれくらい会ってないんだ?」
「親父?」
デパ地下で購入した茄子漬を摘まんでいた塩田に突然質問され、思わず聞き返す皇。
「そう、親父さん」
「八年近くになるのかな……」
「じゃあ少しは変化があるかもしれないな」
もし子供が自分のせいでいなくなったとしたら……。
──だが親父にはなんの期待もできない。
十八年変わらなかった奴がその後の八年で変わるだろうか?
そう思っていた皇だったが、家に帰って驚くのだった。
「優一!」
実家に帰り、一番に出迎えてくれたのは懸念していた父。いきなり殴られるのかと身構える。
一方、塩田は皇の後ろでスラックスのポケットに両手を突っ込み、のんびりと二人の様子を眺めていた。
父の後から慌てて玄関に集まる妹弟に母。
「えっと、ただいま。久しぶり」
皇はぎこちなく家族へ挨拶をする。
その間、父はじっとこちらを見ていたが、
「すまなかった」
と突然、頭を下げたのである。
「何があったの」
とりあえず中で話そうということになり、菓子折りを母へ渡すと五人はひとますリビングへ。母がキッチンに立つのに続き、皇はその後を追った。
「優一が出ていったあと、お父さんねお祖父ちゃんに酷く怒られたのよ」
その年の親戚の集まりでは、親戚中から責められたらしい。
「お父さんの子供への接し方は、みんな何か思うことがあったみたいなの。お祖父ちゃんが怒ったことを皮切りにみんなも声をあげてくれたってわけ」
それまでは、親戚であっても他人の家のことに口出しすべきではないという考え方だったようだ。
「なあ、表情硬くないか?」
「え?」
手土産を買うために途中デパートへ寄ると地下で菓子折りを選ぶ。
手元を覗き込みながら言葉をかけてきた塩田に驚く皇。
「そんなに怖いのか? 皇の親」
「いや、怖くはない。ただ人の話を聞かないし、仲が悪いだけだ」
”人の話をを聞かないんじゃ、うちと同じだな”と笑う彼。
──いや、塩田の両親は特殊だと思う。
菓子を選び終えると再び駐車場へ。
車に乗り込んだ彼に、
「俺の親父は子供を子供だと思わない人だったんだよな」
と告げる皇。
「大人扱いされたということか?」
「違う」
皇の父は子供たちをただの皇家の一員という扱いしかしなかった。家族の温かさを父に感じたことがなかったのだ。
「それでも子供だったから、がんばったら認めてもらえると思っていたんだ」
父は皇がどんなに頑張ろうとも変わらなかった。それが嫌で大学に入学すると同時に家を出たのである。
「そんなことがあったのか」
「うん」
そのせいもあって自分は承認欲求の塊のようになってしまった。
どんなに頑張っても親から認められることがないというのは、心を蝕む。社会に出て仮に認められたとしても、相手の言葉を信じるのが難しい。
賞賛の声は空虚に感じた。
株原の社長呉崎は形あるもので認めてくれたが、それとて周りに羨望されるばかりで満たされることはない。気にいられているだけだと言われたら、そうなのかもしれないと思ってしまうほどに、自分が自分を認めることが出来なくなっていた。
塩田はそんな自分を唯一救ってくれたのだ。
何にも興味を持たないからこそ、彼の好きは特別だと思える。
塩田の意識が自分に向くことに優越感を持ち、満たされた。彼の特別になることこそが自分にとって唯一無二の場所。
自分とは逆に親に干渉ばかりされていた塩田。
何に興味を持っても取り上げられるなら、いっそ何も求めない。それが塩田だった。そんな彼が自分だけは手放さないというのなら、それ以上の特別はない。
「お互いロクでもない人生だったな」
と彼。
「まだ先は長いよ」
二十代半ばにして終わってたまるかと笑いながら、彼に口づける。
自分たちはまだスタート地点からほど近い場所にいるのだ。この先の人生が少しでも明るく、ハッピーになるようにこうやって互いの両親に挨拶を済ませようとしている。
「まだまだこれからだ」
「じゃあ、そんな暗い顔はやめろよ」
彼は皇にそう言うと車のシートに身を沈めクスリと笑う。
「ああ、うん。そうだな」
再び目的地へと進み始めた車内で、これからのことを考える。
父に会うのは非常に気は重いが、これが済めば自由が待っていると思えた。
「どれくらい会ってないんだ?」
「親父?」
デパ地下で購入した茄子漬を摘まんでいた塩田に突然質問され、思わず聞き返す皇。
「そう、親父さん」
「八年近くになるのかな……」
「じゃあ少しは変化があるかもしれないな」
もし子供が自分のせいでいなくなったとしたら……。
──だが親父にはなんの期待もできない。
十八年変わらなかった奴がその後の八年で変わるだろうか?
そう思っていた皇だったが、家に帰って驚くのだった。
「優一!」
実家に帰り、一番に出迎えてくれたのは懸念していた父。いきなり殴られるのかと身構える。
一方、塩田は皇の後ろでスラックスのポケットに両手を突っ込み、のんびりと二人の様子を眺めていた。
父の後から慌てて玄関に集まる妹弟に母。
「えっと、ただいま。久しぶり」
皇はぎこちなく家族へ挨拶をする。
その間、父はじっとこちらを見ていたが、
「すまなかった」
と突然、頭を下げたのである。
「何があったの」
とりあえず中で話そうということになり、菓子折りを母へ渡すと五人はひとますリビングへ。母がキッチンに立つのに続き、皇はその後を追った。
「優一が出ていったあと、お父さんねお祖父ちゃんに酷く怒られたのよ」
その年の親戚の集まりでは、親戚中から責められたらしい。
「お父さんの子供への接し方は、みんな何か思うことがあったみたいなの。お祖父ちゃんが怒ったことを皮切りにみんなも声をあげてくれたってわけ」
それまでは、親戚であっても他人の家のことに口出しすべきではないという考え方だったようだ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる