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3話『慣れない日々と愛しい君』
3・俺は十分幸せですよ
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****♡Side・塩田
「ろくでもない目に遭ったな」
塩田が車の中でふんぞり返り、そのような一言を漏らすと皇がこちらを二度見した。
「なんだよ?」
と塩田。
「あ、いや。ろくでもない目に遭ったのは主に塩田の発言が原因なんじゃないかと……」
それは正論だ。
「塩田の父母は想像以上だった」
「想像したのか」
「え?」
いまいち話がかみ合っていないなと思いつつも、皇は実家を目指すことにしたもよう。一泊するはずが予定を変更したのは、このまま挨拶を済ませてしまった方が楽だと思った為だ。
「手土産何にするんだ?」
会話がかみ合っていないことなど、大して気にしていない塩田が皇に問う。
「ああ、うん。オーソドックスに菓子折りでも」
緊張するなといいながら、高速に乗る。特に何も言っていないのに、一区間だけだからと笑う彼。
塩田の実家とは反対方向な為、時短は必要だろう。
「なあ、皇」
「ん?」
「両親に承諾されたら、どうするんだ? すぐに籍を入れるのか?」
塩田はカーナビに手を伸ばし、家から持ってきたDVDを再生する。
「いくらなんでも、何の準備もなくそれは出来ないだろう」
「そっか」
少しがっかりしたように言う塩田の頭を皇が撫でた。
「お前は、ほんと可愛い」
危ないからちゃんとハンドル握れよというように彼の手をポンポンと叩くと、彼の手が離れる。
塩田は座席を少し倒しながらカーナビに目をやった。
母の奨めてくれた映画である。
「可愛いねえ……まあ、皇がそういうならそうなんだろ」
隣のをチラリと見やれば彼はご機嫌のようだった。
いつもだったらそう簡単に折れることのない両親。彼らが簡単に折れたのは、もうあきらめているからなのかも知れないと思う。
今の会社に入社し、一人暮らしを始めた。我が子はもう、自分たちの手を離れたのだ。元々いうことなど聞かなかった息子が今更、いうことなど聞きはしない。
『でも、ママ驚いたの。以往ちゃんに好きな人が出来るなんて』
──そりゃ俺も驚いたさ。
恋なんてしないと思っていたし、ましてや恋人なんて。
この先もずっと一人だと思っていたから。
「で、何を観てるんだ?」
「母お奨めのラブロマンス」
塩田の回答に皇が吹いた。その反応は正しい。
塩田はパッケージの裏に目をやる。一応ラブロマンスではあるらしいがアクションコメディでもあるようだ。
「どんな、話なんだよ」
「んー」
皇の言葉にパッケージの裏に書かれている文面を読み上げた。
カーナビからは軽快なメタルロックが流れている。どう見ても場所は戦場。
主人公の青年は隣国の女性と結婚することになったのだが、結婚式が執り行われたその日、敵国からミサイルが。結婚式どころではなくなる。
主人公の国と彼女の国は同盟を結んでいたため、共に戦うことに。
主人公も彼女も軍人だったため、否応なしに戦場へ。
果たして二人は無事に生き残れるのか?
涙あり、笑いありのアクションコメディラブロマンスらしい。
「コメディ?」
「間違ってミサイルのボタンを押してしまったところから始まるようだな」
本気で向かって行く同盟軍と誤解ことくことに奔走する敵国。誤情報がSNSにバラまかれたりして、大惨事になるらしい。
「それは……大変だな」
「人間関係ってほんの少しのすれ違いから壊れていくもんだしな」
人間関係とは信頼を築くのは大変だが、壊れるのは一瞬。
人は不安からは逃れられない。そして信じたいものを信じる傾向にもある。
だから悲しい事件は後を絶たない。
「人間は愚かな生き物だ」
通り過ぎていく景色。
明日はどうなっているのかなんて誰にも分かりはしない。
不安な世界の片隅で自分たちは身を寄せ合って生きている。この平穏が壊されないことを願いながら。
きっと誰もそうなはずなのに。
「幸せになろうな、塩田」
彼がチラリとこちらに視線を向ける。
危ないから前を見ろよと言うように塩田は顎で前を指す。
そして、
「俺は十分幸せだ」
と告げたのだった。
「ろくでもない目に遭ったな」
塩田が車の中でふんぞり返り、そのような一言を漏らすと皇がこちらを二度見した。
「なんだよ?」
と塩田。
「あ、いや。ろくでもない目に遭ったのは主に塩田の発言が原因なんじゃないかと……」
それは正論だ。
「塩田の父母は想像以上だった」
「想像したのか」
「え?」
いまいち話がかみ合っていないなと思いつつも、皇は実家を目指すことにしたもよう。一泊するはずが予定を変更したのは、このまま挨拶を済ませてしまった方が楽だと思った為だ。
「手土産何にするんだ?」
会話がかみ合っていないことなど、大して気にしていない塩田が皇に問う。
「ああ、うん。オーソドックスに菓子折りでも」
緊張するなといいながら、高速に乗る。特に何も言っていないのに、一区間だけだからと笑う彼。
塩田の実家とは反対方向な為、時短は必要だろう。
「なあ、皇」
「ん?」
「両親に承諾されたら、どうするんだ? すぐに籍を入れるのか?」
塩田はカーナビに手を伸ばし、家から持ってきたDVDを再生する。
「いくらなんでも、何の準備もなくそれは出来ないだろう」
「そっか」
少しがっかりしたように言う塩田の頭を皇が撫でた。
「お前は、ほんと可愛い」
危ないからちゃんとハンドル握れよというように彼の手をポンポンと叩くと、彼の手が離れる。
塩田は座席を少し倒しながらカーナビに目をやった。
母の奨めてくれた映画である。
「可愛いねえ……まあ、皇がそういうならそうなんだろ」
隣のをチラリと見やれば彼はご機嫌のようだった。
いつもだったらそう簡単に折れることのない両親。彼らが簡単に折れたのは、もうあきらめているからなのかも知れないと思う。
今の会社に入社し、一人暮らしを始めた。我が子はもう、自分たちの手を離れたのだ。元々いうことなど聞かなかった息子が今更、いうことなど聞きはしない。
『でも、ママ驚いたの。以往ちゃんに好きな人が出来るなんて』
──そりゃ俺も驚いたさ。
恋なんてしないと思っていたし、ましてや恋人なんて。
この先もずっと一人だと思っていたから。
「で、何を観てるんだ?」
「母お奨めのラブロマンス」
塩田の回答に皇が吹いた。その反応は正しい。
塩田はパッケージの裏に目をやる。一応ラブロマンスではあるらしいがアクションコメディでもあるようだ。
「どんな、話なんだよ」
「んー」
皇の言葉にパッケージの裏に書かれている文面を読み上げた。
カーナビからは軽快なメタルロックが流れている。どう見ても場所は戦場。
主人公の青年は隣国の女性と結婚することになったのだが、結婚式が執り行われたその日、敵国からミサイルが。結婚式どころではなくなる。
主人公の国と彼女の国は同盟を結んでいたため、共に戦うことに。
主人公も彼女も軍人だったため、否応なしに戦場へ。
果たして二人は無事に生き残れるのか?
涙あり、笑いありのアクションコメディラブロマンスらしい。
「コメディ?」
「間違ってミサイルのボタンを押してしまったところから始まるようだな」
本気で向かって行く同盟軍と誤解ことくことに奔走する敵国。誤情報がSNSにバラまかれたりして、大惨事になるらしい。
「それは……大変だな」
「人間関係ってほんの少しのすれ違いから壊れていくもんだしな」
人間関係とは信頼を築くのは大変だが、壊れるのは一瞬。
人は不安からは逃れられない。そして信じたいものを信じる傾向にもある。
だから悲しい事件は後を絶たない。
「人間は愚かな生き物だ」
通り過ぎていく景色。
明日はどうなっているのかなんて誰にも分かりはしない。
不安な世界の片隅で自分たちは身を寄せ合って生きている。この平穏が壊されないことを願いながら。
きっと誰もそうなはずなのに。
「幸せになろうな、塩田」
彼がチラリとこちらに視線を向ける。
危ないから前を見ろよと言うように塩田は顎で前を指す。
そして、
「俺は十分幸せだ」
と告げたのだった。
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