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3話『慣れない日々と愛しい君』

2・強行突破?!

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****♡Side・副社長(皇)

「お父さん! お父さん! こちらが以往ちゃんの上司で副社長の皇さん。素敵ねえ」
 塩田の母は両手を合わせて握り、うっとりと皇の方を見ている。
「若いねえ」
と塩田父。
 塩田は皇の隣でふんぞり返っていた。
 リビングルームのテーブルにはお菓子と紅茶らしきものが。耐熱ガラスに注がれた琥珀色の液体の上にはピンクの花びらが。
 リビングルームは謎の布が張られキラキラしたシャンデリアが眩しい。
 一体どこの国なんだ? と思いつつ皇は愛想笑いをした。

「お父さんもタイプでしょ?」
と塩田母。
 紅茶らしきものを口に含んだ皇は塩田母の言葉にむせる。
 何をどう切り出していいのかわからない。
 そこでやっと隣に座っていた塩田が口を開いた。
「残念ながら皇は俺のだ」
 お茶を吹きだす皇。慌ててスーツの上着からハンカチを取り出すと何事もなかったかのように口元にあてた。
「やあね。皇さんが以往ちゃんの上司なのは分かっているわよ。うふふ」
「そ、そうだぞ。以往」
 なにがなんだかわからない会話。
 いたたまれなくなり、皇は出された菓子に手を伸ばす。

 塩田母が徐にスマホを取り出すと、皇に向けた。
 アイドルの撮影会じゃないんだよ! と思いながらも皇は愛想笑いを返す。
 一体、課長唯野はこの夫婦にどう立ち向かったというのだろうか?
 そんなことを思っていると、
「そうではない。皇は恋人だ」
と塩田。
 その場の塩田以外の全員が一瞬にして氷の石像に。
 しばしの沈黙が痛い。
「一緒に暮らそうと思っている」
 塩田は空気を読むどころか、殴り込みにかかった。

「なあああああああにいいいいいい?!」
 途端に般若のような顔に変化する美形、塩田の父。
 見る影もない。鬼である。
「ちょ、は? なんか今、空耳が聞こえた気がするわよ? 以往ちゃん」
とムンクの叫びのような顔になる美形、塩田の母。
 もはや三秒前の面影はない。ムンクである。

──地雷どころか、ミサイルぶっ放した?!
 
 皇は固まったまま三人の動向を伺う。
 課長唯野から、塩田の両親は難攻不落の魔王という話は聞いてはいたものの、こんなにリアクションが派手だということは聞いてない。

「だから、つきあっていて恋人で同棲予定だ。俺からは以上」
と塩田。
 その間にも塩田父から繰り出される高速パンチ七発をなんなく避ける。
 どういう親子なんだ! と思いつつも笑うわけにはいかない、皇。
「ちょ、ちょっと待って。あれほどママが人様に迷惑をかけちゃいけませんって言ったのに! どうしていうこと聞かないの? 以往ちゃん」
 塩田母の悲痛な叫び。
 一体どういうことだ。
「俺が言うことを聞いたことが、かつて一度でもあったか?」

──それはどういう切り返しだ! 塩田よ。

「それに、つきあおうとしつこく求愛してきたのは皇の方だ。俺は悪くない。つきあわないと死ぬと言われたらつきあうだろう?」
 そこまでは言ってないぞ! と抗議しようと塩田の方を見た皇。
 しかしテーブルの下で軽く足を踏まれ、黙る。
 どうやら黙ってそういうことにしておけ、ということらしい。
「以往! わしはゆるさーん!」
「パパ、”わし”なんて言ってた?」
 
──そこツッコむのか? 塩田の母よ。

「許されようが、許されまいが俺の知ったことではない。俺はいずれ皇と結婚する」
「結婚だとーー?!」
 そこでやっと塩田父の意識が皇へ向く。
「皇さん、あなた正気ですか?! こんな……何もできない愚息と」
「え? あ、はい。もちろん」
 慌てて返事をする皇に、塩田母が大きなため息をつく。
「皇さん、変わっていらっしゃるのねえ……」
「まあ、覚悟があるというのであれば」
 そこで夫婦は顔を見合わせる。
「以往ちゃんが言うことを聞かないのは今に始まったことじゃないし……嫌になったらいつ別れても結構ですのよ?」
と塩田母。
「いえ、別れるなんてとんでもない」
 皇の言葉に塩田父は、
「物好きな……」
と頭を抱えていたのだった。
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