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3話『慣れない日々と愛しい君』
1・面倒な挨拶
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****♡Side・塩田
──両親に挨拶ねえ。
塩田は皇の運転する車の助手席で、ぼんやりと外を眺めていた。実家に帰ること自体が憂鬱でならないが、恋人の願いは叶えてやるべきだと思っている。
果たしてあの両親がすんなりと交際を許してくれるのだろうか?
運よく承諾してくれたとして、皇の両親はどうなのだろう。自分は一人っ子だが、皇には妹弟がいる。彼らにも挨拶をする必要がでてくるはずだ。
今まで忖度なしの塩対応で突き進んできた自分。
一般的な挨拶なんて出来やしない。
だが一緒にいたければ、乗り越えないといけないのだ。
そのくらいは自分にも分かっている。
「塩田、どうした? 元気がないぞ」
赤信号で車を停めた皇が優しく塩田の頭に触れる。
「俺がかつて、元気はつらつだったことがあったか?」
いい子いい子されるのは嫌いじゃない。
悪くないなと思いながら、そんなことを言うと、
「あ、まあ。そうだけれども」
と彼は口ごもった。
皇がそんな構い方をするのは恐らく、緊張しているからなのだと思う。
塩田の自宅マンションから実家までは車で一時間以上かかる。鉄道を利用すれば格段に速いが、わざわざ自家用車を利用するのにはいろんな理由があるのだと思う。
──良い車乗っているしな、皇。
賛成だろうが反対だろうが、お構いなく反対してくる両親。何にでも反対するのは”我が息子が他人様に迷惑をかけないように”ただそれだけ。
可愛すぎて旅をさせる気がないのか、世間が塩だらけになるのを避けたいのか。その辺は定かではない。
難攻不落の魔王城と呼ばれた塩田家を、わが社がで魔王と呼ばれている男が攻略しようとしているなんて。
余談だが、塩田の両親を二時間演説で黙らせた塩田の直属の上司である課長唯野は勇者と呼ばれている。
──相手をするのは面倒だが、母は皇のことを気に入っているし。
何とかなるだろう。
塩田の母は、わが社に一度来たことがあった。
その時、応対してくれたのが皇。
立ち居振る舞いが優雅で気品あふれ、王子様のような副社長皇を気に入ったのだとか。勝手に皇の写真を使った団扇を作り『推し』ているイカレタ母である。
今日も”皇を連れていく”とだけ言ってあるが、狂喜乱舞しているに違いない。先が思いやらる。
一時間半の距離を順調に走り続け、途中で手土産を購入し、住宅街へ入ったころ、
「で、どの辺?」
と皇。
わが社の社長と課長は来たことがあるが彼は初めてである。
「たぶん目立つ。アラブの宮殿みたいなデザインの家だから」
家の前まで行って、彼はわが家を見上げると納得という表情を見せた。
「なかなか趣のある建物じゃないか」
それは褒めているのだろうか?
両手を広げ肩を竦めていると、
「以往ちゃん!」
と母の声。
相変わらずかしましい母である。
楽しみにしていたのか、
「いらっしゃい、皇さん」
と母はすぐにキラキラとした目を皇に向けた。
彼は母に挨拶をすると、手土産を渡す。
「中にお入りになって」
母に導かれ、皇はそれに従った。
塩田の家はスケールの小さいアラブ宮殿風建築。
建物はコの字型。正面からは見え辛い。
門をくぐればまずガレージが死角にある。家屋までそこそこの距離があり、中央には長方形の噴水が。
母が出迎えてくれたのは、ガレージ近くの入り口だった。
正面玄関は遠いので、あまり使用していない。
ガレージ付近の入り口から屋内に入ると、透明感のあるタイルが敷き詰められている。まるで水の中にでもいる様な、不思議な廊下だ。
「素敵なところだな」
前を歩いていた皇が廊下の床や壁を観ながら感嘆する。
「観光地には向いているが、生活には不向きだ」
と塩田。
美的センスは磨かれるかもしれない。だが、こんな環境で育った塩田の美的センスは破壊的。どうやら何も得られなかったようだ。
重大なミッションをこなさなければならないため、今はそれどころではない。
──両親に挨拶ねえ。
塩田は皇の運転する車の助手席で、ぼんやりと外を眺めていた。実家に帰ること自体が憂鬱でならないが、恋人の願いは叶えてやるべきだと思っている。
果たしてあの両親がすんなりと交際を許してくれるのだろうか?
運よく承諾してくれたとして、皇の両親はどうなのだろう。自分は一人っ子だが、皇には妹弟がいる。彼らにも挨拶をする必要がでてくるはずだ。
今まで忖度なしの塩対応で突き進んできた自分。
一般的な挨拶なんて出来やしない。
だが一緒にいたければ、乗り越えないといけないのだ。
そのくらいは自分にも分かっている。
「塩田、どうした? 元気がないぞ」
赤信号で車を停めた皇が優しく塩田の頭に触れる。
「俺がかつて、元気はつらつだったことがあったか?」
いい子いい子されるのは嫌いじゃない。
悪くないなと思いながら、そんなことを言うと、
「あ、まあ。そうだけれども」
と彼は口ごもった。
皇がそんな構い方をするのは恐らく、緊張しているからなのだと思う。
塩田の自宅マンションから実家までは車で一時間以上かかる。鉄道を利用すれば格段に速いが、わざわざ自家用車を利用するのにはいろんな理由があるのだと思う。
──良い車乗っているしな、皇。
賛成だろうが反対だろうが、お構いなく反対してくる両親。何にでも反対するのは”我が息子が他人様に迷惑をかけないように”ただそれだけ。
可愛すぎて旅をさせる気がないのか、世間が塩だらけになるのを避けたいのか。その辺は定かではない。
難攻不落の魔王城と呼ばれた塩田家を、わが社がで魔王と呼ばれている男が攻略しようとしているなんて。
余談だが、塩田の両親を二時間演説で黙らせた塩田の直属の上司である課長唯野は勇者と呼ばれている。
──相手をするのは面倒だが、母は皇のことを気に入っているし。
何とかなるだろう。
塩田の母は、わが社に一度来たことがあった。
その時、応対してくれたのが皇。
立ち居振る舞いが優雅で気品あふれ、王子様のような副社長皇を気に入ったのだとか。勝手に皇の写真を使った団扇を作り『推し』ているイカレタ母である。
今日も”皇を連れていく”とだけ言ってあるが、狂喜乱舞しているに違いない。先が思いやらる。
一時間半の距離を順調に走り続け、途中で手土産を購入し、住宅街へ入ったころ、
「で、どの辺?」
と皇。
わが社の社長と課長は来たことがあるが彼は初めてである。
「たぶん目立つ。アラブの宮殿みたいなデザインの家だから」
家の前まで行って、彼はわが家を見上げると納得という表情を見せた。
「なかなか趣のある建物じゃないか」
それは褒めているのだろうか?
両手を広げ肩を竦めていると、
「以往ちゃん!」
と母の声。
相変わらずかしましい母である。
楽しみにしていたのか、
「いらっしゃい、皇さん」
と母はすぐにキラキラとした目を皇に向けた。
彼は母に挨拶をすると、手土産を渡す。
「中にお入りになって」
母に導かれ、皇はそれに従った。
塩田の家はスケールの小さいアラブ宮殿風建築。
建物はコの字型。正面からは見え辛い。
門をくぐればまずガレージが死角にある。家屋までそこそこの距離があり、中央には長方形の噴水が。
母が出迎えてくれたのは、ガレージ近くの入り口だった。
正面玄関は遠いので、あまり使用していない。
ガレージ付近の入り口から屋内に入ると、透明感のあるタイルが敷き詰められている。まるで水の中にでもいる様な、不思議な廊下だ。
「素敵なところだな」
前を歩いていた皇が廊下の床や壁を観ながら感嘆する。
「観光地には向いているが、生活には不向きだ」
と塩田。
美的センスは磨かれるかもしれない。だが、こんな環境で育った塩田の美的センスは破壊的。どうやら何も得られなかったようだ。
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