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2話『手探りで進む二人の初恋』
4・未来のために
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****♡Side・副社長(皇)
悪戯が過ぎて逆上せた塩田は、ベッドに横になり傍らに腰かける皇を見上げていた。皇が冷たい濡れタオルを額にのせてやるとそっとその手に自分の手を伸ばす。
すまなそうな顔をする彼に、皇は大丈夫だよというように微笑みかける。
そして、
「なあ、塩田」
と風呂に入っている間に考えていたことを告げようと口を開く。
「ご両親に来週末、挨拶に伺おうと思うのだが」
「挨拶?」
不思議そうな顔をする彼。
「お付き合いして、一年経つし。ほら今日はその……深い関係になるわけだし」
言葉を選びながら伝える皇に、塩田は眉を寄せる。それは皇が両親に会うことを嫌がってのことでないことくらいは、分かっているつもりだ。
塩田の所属する苦情係の課長こと唯野曰く、塩田の両親は難攻不落の魔王城のような存在らしい。その家も、何を間違ったのかアラブの宮殿のような建物という。
BGMなのか、ゲームのボス戦のような曲が流れていたのが印象的だったと唯野は言っていた。
そんな両親にお付き合いの承諾を得られるのか不安ではあるが、皇は一度我が社のロビーで塩田の母親に会ったことがある。
『副社長さん? ステキねえ』
塩田に会いに来たという彼女は、一目で皇のことを気に入ったらしい。皇は副社長でもあるが良家のお坊ちゃんでもあった。社内では社長の意向で尊大な態度を取ってはいるものの、社外ではその容姿と立ち居振る舞いで他社の社長らを魅了している。
そのため、対人関係には少しだけ自信はあった。
だが、お付き合いをしている相手の両親へ挨拶に行くのでは、また違う。
「反対しかされないと思うが」
と塩田。
「それを説得しに行くんだろう?」
「説得ねえ……」
塩田はあまり乗り気ではないようだ。
「いつかは挨拶に行くのだし、結婚の段になって揉めるよりいいだろう?」
利き手の人差し指と中指を軽く握るように包んだ彼の手が、ゆるゆると動く。やがて口元へ引き寄せられ、人差し指の付け根に口づけされた。
それをじっと見つめていると、塩田と視線が絡まり、
「じゃあ俺も皇の家に挨拶に行く」
と告げられる。
そこで皇も眉を寄せた。別に塩田が挨拶に来るのが嫌というわけではない。
頑固で人を人とも思わない父親のことを思い出したからである。
皇の家は土地で財を成した名家であり、長男である皇は家を継ぐはずだった。しかし父と合わず、大学を卒業後現在の会社へ就職。皇には弟と妹がおり、弟が家を継ぐことになった。
そんな経緯もあり、父とは出来得限り顔を顔を合わせたくないというのが本音だ。
だが、嫌なことは早く済ませておくに限る。
「そうだな。塩田のご両親を説得できたら、家族を紹介するよ」
皇は心の中でため息をつきつつ、塩田に覆いかぶさるとその瞼に口づけを落とす。
「具合は良くなったかい? 俺の愛しい人」
皇は塩田にロマンチックな言葉を投げかけたが、ムードのムの字もない彼は変な顔をした。
「もう大丈夫。早くしよう」
──やはり、塩田にムードを求めるのは無謀なのか?
ぎゅっと皇の首に腕を巻き付ける彼を見つめつつ、心の中ではガックリと項垂れる皇であった。
悪戯が過ぎて逆上せた塩田は、ベッドに横になり傍らに腰かける皇を見上げていた。皇が冷たい濡れタオルを額にのせてやるとそっとその手に自分の手を伸ばす。
すまなそうな顔をする彼に、皇は大丈夫だよというように微笑みかける。
そして、
「なあ、塩田」
と風呂に入っている間に考えていたことを告げようと口を開く。
「ご両親に来週末、挨拶に伺おうと思うのだが」
「挨拶?」
不思議そうな顔をする彼。
「お付き合いして、一年経つし。ほら今日はその……深い関係になるわけだし」
言葉を選びながら伝える皇に、塩田は眉を寄せる。それは皇が両親に会うことを嫌がってのことでないことくらいは、分かっているつもりだ。
塩田の所属する苦情係の課長こと唯野曰く、塩田の両親は難攻不落の魔王城のような存在らしい。その家も、何を間違ったのかアラブの宮殿のような建物という。
BGMなのか、ゲームのボス戦のような曲が流れていたのが印象的だったと唯野は言っていた。
そんな両親にお付き合いの承諾を得られるのか不安ではあるが、皇は一度我が社のロビーで塩田の母親に会ったことがある。
『副社長さん? ステキねえ』
塩田に会いに来たという彼女は、一目で皇のことを気に入ったらしい。皇は副社長でもあるが良家のお坊ちゃんでもあった。社内では社長の意向で尊大な態度を取ってはいるものの、社外ではその容姿と立ち居振る舞いで他社の社長らを魅了している。
そのため、対人関係には少しだけ自信はあった。
だが、お付き合いをしている相手の両親へ挨拶に行くのでは、また違う。
「反対しかされないと思うが」
と塩田。
「それを説得しに行くんだろう?」
「説得ねえ……」
塩田はあまり乗り気ではないようだ。
「いつかは挨拶に行くのだし、結婚の段になって揉めるよりいいだろう?」
利き手の人差し指と中指を軽く握るように包んだ彼の手が、ゆるゆると動く。やがて口元へ引き寄せられ、人差し指の付け根に口づけされた。
それをじっと見つめていると、塩田と視線が絡まり、
「じゃあ俺も皇の家に挨拶に行く」
と告げられる。
そこで皇も眉を寄せた。別に塩田が挨拶に来るのが嫌というわけではない。
頑固で人を人とも思わない父親のことを思い出したからである。
皇の家は土地で財を成した名家であり、長男である皇は家を継ぐはずだった。しかし父と合わず、大学を卒業後現在の会社へ就職。皇には弟と妹がおり、弟が家を継ぐことになった。
そんな経緯もあり、父とは出来得限り顔を顔を合わせたくないというのが本音だ。
だが、嫌なことは早く済ませておくに限る。
「そうだな。塩田のご両親を説得できたら、家族を紹介するよ」
皇は心の中でため息をつきつつ、塩田に覆いかぶさるとその瞼に口づけを落とす。
「具合は良くなったかい? 俺の愛しい人」
皇は塩田にロマンチックな言葉を投げかけたが、ムードのムの字もない彼は変な顔をした。
「もう大丈夫。早くしよう」
──やはり、塩田にムードを求めるのは無謀なのか?
ぎゅっと皇の首に腕を巻き付ける彼を見つめつつ、心の中ではガックリと項垂れる皇であった。
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