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2話『手探りで進む二人の初恋』

1・ずっと一緒に居たいから

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****♡Side・塩田

 恋人から”エッチが下手なんだ”と宣言されたら、なんと答えるのが正しいのだろうか?

 いつもは何でも、どストレートに言葉にしてしまう塩田が一瞬、答えに窮した。
 皇はプライドが高く、自分を溺愛してくれ、その上勘違いで物騒なことまで口にする。そんな彼が、勇気を出してカミングアウトしてくれたことなのだ。
 下手なことを言って傷つけたくないと思ったから困ったのである。
 しかし自分の選択は間違っていなかったようだ。
『いいよ、そんなの気にしなくて。俺は皇とだからしたいの』
と思ったままを口にすると、彼はほっとしたような表情を浮かべ、その後何故か鼻を抑え悶絶していた。

──わさび?

 謎の行動に塩田は首を傾げる。
『いや、塩田が可愛くて』
『は?』
『な、何でもない。行こうか』

 そこで塩田は思った。
 今まで何もしてこなかったのも、塩田からエッチが下手と言われるのを恐れてのことだったとしたら? もちろん初めてを大切にしてくれようとしたからだと思うが。
 塩田に対してはいつも一所懸命で一途で優しい皇だが、実のところ……。

──尊大で俺様な皇が、上手いとは思ってないんだよなあ。
 
 とても失礼な話だが、なんでもこなせる皇は努力だが自信家でもある。そういうタイプの人物というのは、独り善がりなことも多い。だから塩田は初めから彼が”エッチが上手い”とは思っていなかったのである。
 しかも彼の意外性に惹かれたのも事実。彼は字は達筆、車の運転はとても丁寧であった。イメージ通りなら字は下手で運転は雑だろうと思っていたからだ。

──社内でのおかしな言動は、社長の趣味趣向……もとい、指示だと知ってなるほどと納得はしたけれど。

 見目が良く、仕事もでき、立ち居振る舞いが優美。その上若くして副社長とは完璧すぎる。そんな彼に苦手なことがあることを知り、嬉しくなったのも事実。彼も人間だったのだなと思った。

──下手なのはエッチだけか。

 彼に抱き着いた時、とてもいい香りがした。塩田は彼の香りがとても好きである。きっと多少エッチが下手でもなんとかなるだろう、と塩田は思っていた。
「部屋とレストラン。どちらで夕食にしようか?」
 見上げたホテルはとてもシックでエレガントな雰囲気を醸し出している。彼に何度か夕食にホテルへと誘われたことはあるが、今日のホテルは奮発したことが塩田にもわかるほどであった。

『初めては素敵な場所で。思い出にしたい』
 それは彼の希望。塩田は自分がどれほど彼に愛されているのか再確認した。彼の気持ちを汲んであげたいと思う。きっと夜景の見える素敵な部屋に違いない。

「部屋を見てからにしよう」
 そう塩田が提案すると、彼が塩田の手に指を絡めた。言葉にしなくても嬉しいのが伝わってくる動作。自分から恋人繋ぎをする彼がどれほど塩田を好きか全身でアピールしているのだ。

──俺のこと大好きなんだなあ。
 俺も好きだけど。

 カウンターでチェックインを済ませると、案内係の案内を断りエレベーターに乗り込む。高いところはあまり得意ではないが、暗闇に光がライトアップされ、まるで宝石箱を覗いているような気分にさせた。
「綺麗だな」
と塩田が呟けば、そうだろと言うように優しい笑みを浮かべる彼。
 全て自分のためにしてくれたことなんだと思うと、皇に対し愛しさを感じた。そして昼間、彼を傷つけたことを思い出し心が痛む。

──こんなに大切にされているのに、別れたいなんて安易に言ってしまった。
 泣かせたかったわけじゃないのに。

「皇」
 彼の名を呼び、ぎゅっとその手を握る。
「うん?」
「昼間は別れたいなんて言って、ごめん」
 塩田の言葉に驚きの表情を見せる彼。
 じっと彼を見つめていると、
「俺こそごめん、気づいてあげられなくて」
と言われる。
 そこで塩田は少し複雑な気持ちになった。
「それは俺の、欲求不満に?」
「え。ああ、えっと……そういうこと言わないの!」
 おおよそロマンチックとは無縁な塩田に、彼はちゅっと口づけたのだった。
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