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1話『君の気持ちがわからない』

7・君の一番でいるために

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****♡Side・副社長(皇)

「皇は、何着てもお洒落だな」
 普段は無口な塩田が、積極的に会話をし自分を褒めてくれるのは、彼が浮かれているからだと気づく。感情表現が豊かとは言い難い彼を理解するまで、大変だったことを思い出す。
「ありがと」
 そして彼のことを知れば知るほど、のめりこんでいく自分がいる。
 

『塩田はねえ、話しかければいっぱい話してくれるんだよ』
 塩田の家にしょっちゅう寝泊まりしている電車でんま
『塩田は結構、話しやすいですよ』
 休憩時には、塩田とよく一緒に屋上へ行く板井。
 二人が羨ましいなと思っていたあの頃。初めは自分の方を見向きもしない塩田に関心を持って欲しかっただけだった。
 それがいつしか独占欲に変わる頃、自分は彼に恋をしているのだと気づいた。

「塩田は俺に合わせて、お洒落してくれたの?」
「お洒落……」
 皇の言葉に彼は、自分のシャツを指先でつまむとじっと見つめ、コクリと頷く。シンプルなカッコだが、彼にとってはお洒落。きっとドレスコードとにらめっこし、検索した服装を参考に一所懸命考えてくれたのだ。
「あまり服を持ってないし、何着て良いのか分からなかった」
 塩田は困った顔をしてこちらをチラリと見る。彼の普段着はプリントTシャツにスウェットというスタイルが多く、シャツには”塩対応”や”〇多の塩”などと書かれていて、どこで買うんだそれ! とツッコミたくなるデザインのものが多い。ちなみに〇多の塩はパチモンだということに彼は、気づいていないようである。

──そういえば、ボスのパチモンなども出回っていたなあ。

 自分と出かけるとなると、着る服にも困るだろうと皇は思い、
「今度一緒に、服を買いに行こうか」
と提案すると、
「一緒に?」
と彼。
「俺が塩田に似合う服を見立ててやるよ」
 皇の言葉に驚いていた彼は、嬉しそうな表情をする。 

──気が重いけれど、そろそろあのことを話さないとな。

「塩田」
「うん?」
 目的地はもうすぐ目の前というところで、皇は言いづらかったことを切り出す。
「ご機嫌なところ申し訳ないんだが、言わなきゃならないことがある」
 皇のその切り出し方に誤解をしたのか、途端に不機嫌になる彼。
「なんだよ。約束したのに、やっぱりしないとか無しだからな。それとも、腹でも壊してるのか?」
 ”体調が悪いなら仕方ないけど”と俯いた彼は涙目だった。ほんとに楽しみにしてくれていたんだと、胸が痛む。
 ロータリーで車を預けることもできるが、皇は自分で駐車場に向かう。日本ではそういう習慣がない人も数多くいるため、セレブ御用達のこのホテルでは、好きな方を選ぶことができた。

 駐車の場所を案内され指定の位置に車を停めると、皇は心の中で深呼吸をする。そしてシートベルトを外すと、塩田の方を向いた。
「そんなんじゃないよ。でも、大事なこと」
 彼の頬に手を伸ばし優しく撫でれば、彼はその手に手を添える。
「実は俺……」
 こんな恥ずかしいことを、彼に告げる日が来るとは思ってもいなかった。

『はい? 何を言ってらして?』
 塩田を迎えに行く前、元恋人に助言を求めた皇。彼女は呆れ声で応対してくれた。
『恋人が男性なら、あなたの方が詳しいでしょう?』
 下手と言われていても、少しでも塩田を満足させたかったから藁にも縋る想いでアドバイスを受けようとしたのである。返事を聞いた皇は、自分がバカだったことに気づく。
『男性同士なんだから自分の良いところや、して欲しいことをしてあげればいいのよ』

 それでも自信のない皇は、過剰に期待されることを恐れた。今までなんでもスマートにこなしてきたのだ。
「俺、エッチが下手って言われたことがあってトラウマなんだ。もし上手くできなかったらって思うと……」
 彼がどんな顔をしてこちらを見ているのかとても気になるが、恥かしくて顔を上げられない。すると塩田は皇にぎゅっと抱きついた。
「いいよ、そんなの気にしなくて。俺は皇とだからしたいの」

──可愛い。きゅん死しそう。

 皇は彼のあまりの可愛さに悶絶したのだった。
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