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1話『君の気持ちがわからない』
6・彼との待ち合わせ
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****♡Side・塩田
準備をしなくてはならないことがあるので、終業の鐘と共にさっさと帰宅した塩田は、風呂から上がり身体を拭きながら、帰り際の皇の様子を思い出していた。
──なぜ、浮かない顔をしてたんだろう?
塩田の自宅マンションは会社から五分の距離にあり、同じ課の同僚である電車がよく泊まりに来る。塩田の所属する課の他の三人は皆、電車通勤であり、特に電車は終電の早い路線を使っていた。
課長、唯野は妻子持ちだったが、離婚後は会社の一つ先の駅の近くにマンションを購入し、一人で暮らしているらしい。彼はもう一人の同僚、板井と同じ路線であり一緒に帰ることが多い。
会社から駅までも徒歩五分。塩田のマンションからは徒歩十分程度である。
つまり会社から見て塩田の自宅とは反対方向に駅があるのだ。
たった四人しかいない苦情係。他の部署に比べても仲は良い方だと思う。しょっちゅう課長唯野が部下三人を呑みに誘ってくれる。呑んだ日は会社から近い塩田のマンションに泊まっていくような仲であった。
塩田は独身であり一人暮らし、板井もまた一人で暮らしている。
電車は実家から通っているようだが、家族構成を言いたがらないので彼のことについては良く知らなかった。
『少ししたら迎えに行くけど。都合の良い時間になったら、そっちから連絡くれても良いよ』
副社長の皇は車通勤であった。婚約者がいたこともあったが、大学時代から一人で暮らしているらしく、副社長となってからは郊外の閑静な住宅街にマンションを借りて暮らしている。
何度か連れて行って貰ったことがあるが、ホテルのようなお洒落な造りのマンションで、夜景が綺麗だ。しかし必要最低限のものしか置いておらず、生活感がなかったことを思い出す。
──良いところ予約したのかな?
皇は無駄に贅沢をするようなタイプではないが、恋人のために奮発するロマンチストであった。
「何着ていこう」
ドレスコードはスマートカジュアル。そんなに畏まらなくて大丈夫だよと彼は言っていた。検索してみると襟付きであればノーネクタイで良いらしく、普段からノーネクタイの塩田に合わせてくれたのだと気づく。
わが社、(株)原始人の本社はビジネススーツが基本だが、部署によってはノーネクタイが可となっている。スーツのジャケットを着て通勤はするが、営業部や企画部以外の社員は、社内で上着を着用していないことの方が多い。
同僚の電車などは、社内では動きやすいようにカーディガンを羽織っている。
とりあえず襟付きのシャツにパンツ、ジャケットというスタイルで玄関に向かう。風呂に入る前に予め連絡をしていたので、そろそろ彼が来る頃だ。
家を出ると皇から着信が。ワン切りであるが、下に着いたという知らせである。エレベーターに乗り階下へ向かう。
箱の中の鏡に映る自分。きっと皇はお洒落をして待っているに違いない。お泊りセットをいつでも常備している彼は、その辺も抜かりない。
「うん、いいね」
ロータリーで待っていた彼はすぐに塩田に気づく。車に寄りかかり、片手をポケットに入れていた。童顔で明るい髪色をした皇は、カジュアルでもお洒落に見える。品のある立ち居振る舞いは、良家の坊ちゃんであることを思い出させた。
助手席のドアを開けエスコートしてくれる彼は、少し思いつめたような表情をしている。何かあったのだろうかと心配にはなったが、とりあえず車に乗り込むことにしたのだった。
まさかこれから、彼のコンプレックスについての話をされるとは思わずに。
準備をしなくてはならないことがあるので、終業の鐘と共にさっさと帰宅した塩田は、風呂から上がり身体を拭きながら、帰り際の皇の様子を思い出していた。
──なぜ、浮かない顔をしてたんだろう?
塩田の自宅マンションは会社から五分の距離にあり、同じ課の同僚である電車がよく泊まりに来る。塩田の所属する課の他の三人は皆、電車通勤であり、特に電車は終電の早い路線を使っていた。
課長、唯野は妻子持ちだったが、離婚後は会社の一つ先の駅の近くにマンションを購入し、一人で暮らしているらしい。彼はもう一人の同僚、板井と同じ路線であり一緒に帰ることが多い。
会社から駅までも徒歩五分。塩田のマンションからは徒歩十分程度である。
つまり会社から見て塩田の自宅とは反対方向に駅があるのだ。
たった四人しかいない苦情係。他の部署に比べても仲は良い方だと思う。しょっちゅう課長唯野が部下三人を呑みに誘ってくれる。呑んだ日は会社から近い塩田のマンションに泊まっていくような仲であった。
塩田は独身であり一人暮らし、板井もまた一人で暮らしている。
電車は実家から通っているようだが、家族構成を言いたがらないので彼のことについては良く知らなかった。
『少ししたら迎えに行くけど。都合の良い時間になったら、そっちから連絡くれても良いよ』
副社長の皇は車通勤であった。婚約者がいたこともあったが、大学時代から一人で暮らしているらしく、副社長となってからは郊外の閑静な住宅街にマンションを借りて暮らしている。
何度か連れて行って貰ったことがあるが、ホテルのようなお洒落な造りのマンションで、夜景が綺麗だ。しかし必要最低限のものしか置いておらず、生活感がなかったことを思い出す。
──良いところ予約したのかな?
皇は無駄に贅沢をするようなタイプではないが、恋人のために奮発するロマンチストであった。
「何着ていこう」
ドレスコードはスマートカジュアル。そんなに畏まらなくて大丈夫だよと彼は言っていた。検索してみると襟付きであればノーネクタイで良いらしく、普段からノーネクタイの塩田に合わせてくれたのだと気づく。
わが社、(株)原始人の本社はビジネススーツが基本だが、部署によってはノーネクタイが可となっている。スーツのジャケットを着て通勤はするが、営業部や企画部以外の社員は、社内で上着を着用していないことの方が多い。
同僚の電車などは、社内では動きやすいようにカーディガンを羽織っている。
とりあえず襟付きのシャツにパンツ、ジャケットというスタイルで玄関に向かう。風呂に入る前に予め連絡をしていたので、そろそろ彼が来る頃だ。
家を出ると皇から着信が。ワン切りであるが、下に着いたという知らせである。エレベーターに乗り階下へ向かう。
箱の中の鏡に映る自分。きっと皇はお洒落をして待っているに違いない。お泊りセットをいつでも常備している彼は、その辺も抜かりない。
「うん、いいね」
ロータリーで待っていた彼はすぐに塩田に気づく。車に寄りかかり、片手をポケットに入れていた。童顔で明るい髪色をした皇は、カジュアルでもお洒落に見える。品のある立ち居振る舞いは、良家の坊ちゃんであることを思い出させた。
助手席のドアを開けエスコートしてくれる彼は、少し思いつめたような表情をしている。何かあったのだろうかと心配にはなったが、とりあえず車に乗り込むことにしたのだった。
まさかこれから、彼のコンプレックスについての話をされるとは思わずに。
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