9 / 32
1話『君の気持ちがわからない』
5・皇のコンプレックス
しおりを挟む
****♡Side・副社長(皇)
ホテルの予約は取ったものの、皇は気が重かった。
決して愛しい恋人塩田と”愛の営み”をしたくないというわけではない。副社長室の椅子に身を沈め、元婚約者との情事に想いを馳せる。
正しくは、情事の後の彼女との会話に。
『ダーリンは、見た目も良いし、仕事もできるし良い身体をしているけれど。致命的な欠陥があるわ』
『ん?』
ワイシャツの袖に腕を通し袖口のボタンを留めていた皇は、下着を身に着ける彼女に視線を移す。
『エッチが下手!』
その瞬間、めまいがしそうなほど脳に衝撃を感じた。行為の最中、彼女が眉間に皺を寄せていたことを思い出す。
『独りよがりすぎるのよ』
ワンピースを身に着けた彼女は、びしっと皇に人差し指を向けて。
『な……』
皇は言葉を失った。今までなんでも完璧にこなしてきたはずの自分。だがこういうことは、イメージトレーニングか実践、もしくは参考になるものを観るしかない。しかも相手の気持ちを体感することは難しい。
例えば部下の気持ちを体感することならできるだろうし、仕事を実際に自分がやってみて、ダメな部分を改善することもそう難しいことではないだろう。
しかし男性と女性は身体の構造が違う。何処をどうしたら良いのかは、本人の言葉を信じるしかない。
『男ってすぐにAVを真に受けるけど、あんなのはただのフィクションであり、男の妄想でしかないのよ。参考になるとしても女性同士のものね』
それは男女間の行為についての助言である。
『そんなものよりも、ロマンチックな洋画でもご覧あそばせ』
彼女はやれやれというように両手を広げ、肩をすくめる。
皇の元婚約者は、恋人ではなくどちらかというとビジネスパートナーと言う方が近い。身体の交わりも、情愛があってのものではなかった。女性経験のなかった皇に、手ほどきをするためという方がしっくりくる。それは皇が副社長として堂々としているために、必要だと彼女が判断したからだ。
このような関係になったきっかけは、皇が営業部時代に先輩たちからリンチされそうになったこと。彼女からの申し出だった。
彼女とは婚約解消してからも、ビジネスパートナーとして良い関係を築いていると思う。
──レクチャーを受けたはいいけれど、塩田は女性じゃないし。
どうしたものか。
『下手だから別れたい』
と言われた日には、生きていけない。
少しずつ信頼関係を築き、やっとのことで振り向いてもらえた恋人なのだ。皇は塩田のことを溺愛していた。
「言えばいいんじゃない?」
悶々としていた皇。苦情係の課長からのお使いで副社長室にやってきた、塩田の同僚の電車紀夫。彼が塩田と仲が良いのを知っている皇は思い切って電車に相談してみた。
噂では彼女がいるらしい。そんな彼なら塩田の性格も知っているだろうし、恋愛相談に乗ってくれるのではないかと思ったからである。
「言えばって……」
「正直に塩田に話したらいいじゃない」
何とも目から鱗が落ちる言葉が返ってきたのだ。
「誰だって、コンプレックスの一つや二つあるでしょ。完璧な人に魅力なんて感じないと思うよ?」
社内で人気がある彼。なんだか、電車がモテるという理由が分かった気がしたのだった。
──いうのはいいけれど、塩田はどんな反応するんだろうか。
考えただけで、胃もたれしそうだな。
ホテルの予約は取ったものの、皇は気が重かった。
決して愛しい恋人塩田と”愛の営み”をしたくないというわけではない。副社長室の椅子に身を沈め、元婚約者との情事に想いを馳せる。
正しくは、情事の後の彼女との会話に。
『ダーリンは、見た目も良いし、仕事もできるし良い身体をしているけれど。致命的な欠陥があるわ』
『ん?』
ワイシャツの袖に腕を通し袖口のボタンを留めていた皇は、下着を身に着ける彼女に視線を移す。
『エッチが下手!』
その瞬間、めまいがしそうなほど脳に衝撃を感じた。行為の最中、彼女が眉間に皺を寄せていたことを思い出す。
『独りよがりすぎるのよ』
ワンピースを身に着けた彼女は、びしっと皇に人差し指を向けて。
『な……』
皇は言葉を失った。今までなんでも完璧にこなしてきたはずの自分。だがこういうことは、イメージトレーニングか実践、もしくは参考になるものを観るしかない。しかも相手の気持ちを体感することは難しい。
例えば部下の気持ちを体感することならできるだろうし、仕事を実際に自分がやってみて、ダメな部分を改善することもそう難しいことではないだろう。
しかし男性と女性は身体の構造が違う。何処をどうしたら良いのかは、本人の言葉を信じるしかない。
『男ってすぐにAVを真に受けるけど、あんなのはただのフィクションであり、男の妄想でしかないのよ。参考になるとしても女性同士のものね』
それは男女間の行為についての助言である。
『そんなものよりも、ロマンチックな洋画でもご覧あそばせ』
彼女はやれやれというように両手を広げ、肩をすくめる。
皇の元婚約者は、恋人ではなくどちらかというとビジネスパートナーと言う方が近い。身体の交わりも、情愛があってのものではなかった。女性経験のなかった皇に、手ほどきをするためという方がしっくりくる。それは皇が副社長として堂々としているために、必要だと彼女が判断したからだ。
このような関係になったきっかけは、皇が営業部時代に先輩たちからリンチされそうになったこと。彼女からの申し出だった。
彼女とは婚約解消してからも、ビジネスパートナーとして良い関係を築いていると思う。
──レクチャーを受けたはいいけれど、塩田は女性じゃないし。
どうしたものか。
『下手だから別れたい』
と言われた日には、生きていけない。
少しずつ信頼関係を築き、やっとのことで振り向いてもらえた恋人なのだ。皇は塩田のことを溺愛していた。
「言えばいいんじゃない?」
悶々としていた皇。苦情係の課長からのお使いで副社長室にやってきた、塩田の同僚の電車紀夫。彼が塩田と仲が良いのを知っている皇は思い切って電車に相談してみた。
噂では彼女がいるらしい。そんな彼なら塩田の性格も知っているだろうし、恋愛相談に乗ってくれるのではないかと思ったからである。
「言えばって……」
「正直に塩田に話したらいいじゃない」
何とも目から鱗が落ちる言葉が返ってきたのだ。
「誰だって、コンプレックスの一つや二つあるでしょ。完璧な人に魅力なんて感じないと思うよ?」
社内で人気がある彼。なんだか、電車がモテるという理由が分かった気がしたのだった。
──いうのはいいけれど、塩田はどんな反応するんだろうか。
考えただけで、胃もたれしそうだな。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
出産は一番の快楽
及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。
とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。
【注意事項】
*受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。
*寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め
*倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意
*軽く出産シーン有り
*ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り
続編)
*近親相姦・母子相姦要素有り
*奇形発言注意
*カニバリズム発言有り
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる