8 / 32
1話『君の気持ちがわからない』
4・二人の心の距離
しおりを挟む
****♡Side・塩田
「まあ、いいけどね」
やっと初エッチだと喜んだのも束の間。
皇は、
『こんなところで初めてはダメだ。お洒落なホテルを取る』
と言い出した。
あんな風に泣かせてしまった手前、要望くらいは聞いてやろうと思う。少しがっかりしたが。
業務に戻り、無表情でモニターに向かう。
いつものように隣に腰かけ、業務を手伝ってくれようとした皇が、
「機嫌悪い?」
と塩田の様子を伺う。
「別に」
「機嫌、悪いじゃんか!」
と小さく叫ぶ皇に、少し驚く塩田。
一体どんな基準で判定をしているんだろうと、彼の方に視線を向けた。
「何故、そう思う?」
「なんとなくわかる」
それを聞いて塩田は、よく観察しているんだなと思った。
「今夜、デートしよう? 美味しいとこ連れて行くから」
とご機嫌取りをしようとする皇。
二人の様子を興味深く観察している板井。
「そんなことより、エッチしたい」
と塩田が言うと、課長の唯野がコーヒーを吹いた。
「何してるんですか、課長」
と板井が唯野にタオルを渡すのが視界の端に見える。
皇は困ったように眉を寄せ、
「うん、わかった」
と答えた。
──ムードもへったくれもないけど。
塩田は片手で頬杖を着くと、ため息をついて再びモニターに視線を戻す。
自分が嫌になる。皇を傷つけて困らせている自覚があるから。
皇は優しい。ずっと優しかったんだと思う。
衝動的にならないからと言って、彼に当たるのは間違っている。しかし行き場のない想いをどうしたらいいのか、塩田には分からない。
ちらりと時計を見ると終業まで三十分を切っていた。早く帰りたいと思うほど、時間を長く感じたことはない。それほどに忙しい部署なのだ。しかし今日は違った。
「塩田、これ頼む」
ファイリングした本日の日報を向かい側の唯野が、塩田に向ける。
「俺、行きましょうか?」
と板井。
唯野は”いいから”と合図した。それは唯野の優しさ。席を外してこいと言う意味なのだ。塩田は立ち上がると、無言で受け取り出口に向かう。
「副社長」
と唯野が皇に、塩田について行くように合図したのが分かった。
「塩田」
資料室に着くなり、皇に後ろから抱きしめられる。心地よい温度と彼の身にまとう香水の良い香りがした。
「機嫌、直して欲しい」
耳元で、優しい声。
「機嫌取りはされたくない」
と言えば、無言で抱きしめる腕に力を入れられた。
どうしていいか分からないという、彼から伝わる空気。
「そんなの、対等じゃないだろ」
塩田の不満。思っていることを言えず、彼を傷つけたのは自分なのに。責めるどころか機嫌を取ろうとするなんて。
「塩田。俺はまた別れたいって言われるんじゃないかと思うと、怖いよ」
皇の言葉に、塩田はその腕を解き身体を反転させた。そしてじっと彼を見つめる。
「もう、言わない」
「ほんとに?」
「約束する。だから……」
”キスして”と小さく言葉を繋ぐ。皇が驚いたようにこちらを伺う。
「塩田。もっと、コミュニケーション取ろう? 言いたいこと言って」
それは懇願。
「努力はする」
と塩田が答えると、顎を掴まれ口づけされた。
ぎゅっと抱き着くと、
「うう……可愛い」
と何故か悶絶されたのだった。
「まあ、いいけどね」
やっと初エッチだと喜んだのも束の間。
皇は、
『こんなところで初めてはダメだ。お洒落なホテルを取る』
と言い出した。
あんな風に泣かせてしまった手前、要望くらいは聞いてやろうと思う。少しがっかりしたが。
業務に戻り、無表情でモニターに向かう。
いつものように隣に腰かけ、業務を手伝ってくれようとした皇が、
「機嫌悪い?」
と塩田の様子を伺う。
「別に」
「機嫌、悪いじゃんか!」
と小さく叫ぶ皇に、少し驚く塩田。
一体どんな基準で判定をしているんだろうと、彼の方に視線を向けた。
「何故、そう思う?」
「なんとなくわかる」
それを聞いて塩田は、よく観察しているんだなと思った。
「今夜、デートしよう? 美味しいとこ連れて行くから」
とご機嫌取りをしようとする皇。
二人の様子を興味深く観察している板井。
「そんなことより、エッチしたい」
と塩田が言うと、課長の唯野がコーヒーを吹いた。
「何してるんですか、課長」
と板井が唯野にタオルを渡すのが視界の端に見える。
皇は困ったように眉を寄せ、
「うん、わかった」
と答えた。
──ムードもへったくれもないけど。
塩田は片手で頬杖を着くと、ため息をついて再びモニターに視線を戻す。
自分が嫌になる。皇を傷つけて困らせている自覚があるから。
皇は優しい。ずっと優しかったんだと思う。
衝動的にならないからと言って、彼に当たるのは間違っている。しかし行き場のない想いをどうしたらいいのか、塩田には分からない。
ちらりと時計を見ると終業まで三十分を切っていた。早く帰りたいと思うほど、時間を長く感じたことはない。それほどに忙しい部署なのだ。しかし今日は違った。
「塩田、これ頼む」
ファイリングした本日の日報を向かい側の唯野が、塩田に向ける。
「俺、行きましょうか?」
と板井。
唯野は”いいから”と合図した。それは唯野の優しさ。席を外してこいと言う意味なのだ。塩田は立ち上がると、無言で受け取り出口に向かう。
「副社長」
と唯野が皇に、塩田について行くように合図したのが分かった。
「塩田」
資料室に着くなり、皇に後ろから抱きしめられる。心地よい温度と彼の身にまとう香水の良い香りがした。
「機嫌、直して欲しい」
耳元で、優しい声。
「機嫌取りはされたくない」
と言えば、無言で抱きしめる腕に力を入れられた。
どうしていいか分からないという、彼から伝わる空気。
「そんなの、対等じゃないだろ」
塩田の不満。思っていることを言えず、彼を傷つけたのは自分なのに。責めるどころか機嫌を取ろうとするなんて。
「塩田。俺はまた別れたいって言われるんじゃないかと思うと、怖いよ」
皇の言葉に、塩田はその腕を解き身体を反転させた。そしてじっと彼を見つめる。
「もう、言わない」
「ほんとに?」
「約束する。だから……」
”キスして”と小さく言葉を繋ぐ。皇が驚いたようにこちらを伺う。
「塩田。もっと、コミュニケーション取ろう? 言いたいこと言って」
それは懇願。
「努力はする」
と塩田が答えると、顎を掴まれ口づけされた。
ぎゅっと抱き着くと、
「うう……可愛い」
と何故か悶絶されたのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる