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* 美月愛美
1 理不尽な待遇
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「はぁ……」
「どうかしたの?」
愛美が手すりに腕を乗せため息をついていると、同じ講義を取っていた”姫川利久”に話しかけられた。
同性婚が可能な世の中になって一世紀以上経つため、偏見を持つ者は稀にしか見かけないが、彼の恋人は同性だ。
その恋人は”大崎海斗”と言って、ここK学園の理事長の長男。
自分が二人と付き合いを持つようになったのは、K学園大学部に入学して少し経ってから。
愛美が同じ講義を取っていた生徒に絡まれていたところを、助けて貰ったのが知り合ったきっかけだ。
「え? ううん」
「美月さんも、一緒に行かない? デパート」
気分転換にさ、と彼は言う。
美月愛美。
それが自分の名前。
初めて出来た恋人にも苗字は言ったことがなかった。きっと自分は、恋人関係が一時的なモノだと思っていたからだと思う。
初めての恋人とは塾で出逢った。モバイル機器を使っての個人授業なので、名前を呼ばれるのは稀。英語なんかはヘッドホンもしているので、仮に呼ばれても気づかない。
だが、今思えば名前くらい言っておけばよかっと後悔している。
「うん、誘ってくれてありがとう。お言葉に甘えても良いかな」
愛美がそう問うと、
「もちろんだよ」
と彼は柔らかく笑う。
『大丈夫?』
助けてくれた時も、彼は優しかった。
一緒に居た彼の恋人は無口であったが。
『君、可愛いから、絡まれやすいんじゃない?』
可愛いと言われ、警戒した。
男性の誉め言葉はそのまま受け取ってはいけないと、言い聞かされてきたから。
しかし、
『友達と一緒に行動した方がいいんじゃないのか?』
と、彼の無口な恋人が発言し、
『あ、誤解しないでね』
と利久の方が何かに気づく。
『俺たち恋人同士だし、君を変な目で見たりしないから』
と、続けた。
男性同士の恋人関係を築いているのならば、少なくとも今は自分に変な目を向けないという言葉が信用出来た。実際、付き合いを続けていると、彼らは愛美を対等な友人として扱ってくれていることに気づく。
「大崎くんは?」
いくら友人とは言え、男性と二人きりで居ることにはためらいを感じる。
もし二人の仲を誤解されたら、彼に迷惑も掛かってしまう。こんなことで貴重な友人を失いたくなかった。
というのも、愛美は高校時代に理不尽なイジメに合っていたからだ。
──どうして人は、容姿だけで勝手に人を決めつけるのだろう。
愛美は自分が可愛いなどと思ったことはなかった。
それは自意識過剰というもの。
だから可愛いと言われても、お世辞だと思っている。
『人の彼氏取らないでよ!』
何度言われたか分からない言葉。
話したこともないのに、取るも何もあったものじゃないと思った。
勝手に好かれて、言いがかりをつけられ、文句を言われるなんて理不尽だ。それは自分が悪いのだろうか。
親の離婚問題で、それどころではないのに。
何処にもぶつけられない不満を自分は違う言葉にして、恋人にぶつけてしまったのかも知れない。
彼は唯一の味方だったのに。
今でも忘れられない人。出来れば、気持ちくらいは伝えたいと願っていたのだが、そんな彼を今日キャンパス内で見かけてしまった。
──構内に居ることは分かっていたけれど。
しかも、女子学生と一緒だったのだ。
「どうかしたの?」
愛美が手すりに腕を乗せため息をついていると、同じ講義を取っていた”姫川利久”に話しかけられた。
同性婚が可能な世の中になって一世紀以上経つため、偏見を持つ者は稀にしか見かけないが、彼の恋人は同性だ。
その恋人は”大崎海斗”と言って、ここK学園の理事長の長男。
自分が二人と付き合いを持つようになったのは、K学園大学部に入学して少し経ってから。
愛美が同じ講義を取っていた生徒に絡まれていたところを、助けて貰ったのが知り合ったきっかけだ。
「え? ううん」
「美月さんも、一緒に行かない? デパート」
気分転換にさ、と彼は言う。
美月愛美。
それが自分の名前。
初めて出来た恋人にも苗字は言ったことがなかった。きっと自分は、恋人関係が一時的なモノだと思っていたからだと思う。
初めての恋人とは塾で出逢った。モバイル機器を使っての個人授業なので、名前を呼ばれるのは稀。英語なんかはヘッドホンもしているので、仮に呼ばれても気づかない。
だが、今思えば名前くらい言っておけばよかっと後悔している。
「うん、誘ってくれてありがとう。お言葉に甘えても良いかな」
愛美がそう問うと、
「もちろんだよ」
と彼は柔らかく笑う。
『大丈夫?』
助けてくれた時も、彼は優しかった。
一緒に居た彼の恋人は無口であったが。
『君、可愛いから、絡まれやすいんじゃない?』
可愛いと言われ、警戒した。
男性の誉め言葉はそのまま受け取ってはいけないと、言い聞かされてきたから。
しかし、
『友達と一緒に行動した方がいいんじゃないのか?』
と、彼の無口な恋人が発言し、
『あ、誤解しないでね』
と利久の方が何かに気づく。
『俺たち恋人同士だし、君を変な目で見たりしないから』
と、続けた。
男性同士の恋人関係を築いているのならば、少なくとも今は自分に変な目を向けないという言葉が信用出来た。実際、付き合いを続けていると、彼らは愛美を対等な友人として扱ってくれていることに気づく。
「大崎くんは?」
いくら友人とは言え、男性と二人きりで居ることにはためらいを感じる。
もし二人の仲を誤解されたら、彼に迷惑も掛かってしまう。こんなことで貴重な友人を失いたくなかった。
というのも、愛美は高校時代に理不尽なイジメに合っていたからだ。
──どうして人は、容姿だけで勝手に人を決めつけるのだろう。
愛美は自分が可愛いなどと思ったことはなかった。
それは自意識過剰というもの。
だから可愛いと言われても、お世辞だと思っている。
『人の彼氏取らないでよ!』
何度言われたか分からない言葉。
話したこともないのに、取るも何もあったものじゃないと思った。
勝手に好かれて、言いがかりをつけられ、文句を言われるなんて理不尽だ。それは自分が悪いのだろうか。
親の離婚問題で、それどころではないのに。
何処にもぶつけられない不満を自分は違う言葉にして、恋人にぶつけてしまったのかも知れない。
彼は唯一の味方だったのに。
今でも忘れられない人。出来れば、気持ちくらいは伝えたいと願っていたのだが、そんな彼を今日キャンパス内で見かけてしまった。
──構内に居ることは分かっていたけれど。
しかも、女子学生と一緒だったのだ。
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