上 下
7 / 10

6 『平田は正しい』

しおりを挟む
「で、どうなった? 元カノちゃん」
 席に戻ると早速さっそくそう平田に問われ、
「どの、元カノ?」
とアイスティーにストローを差しながら優人は聞き返した。
「どのって……」
 平田は困ったように眉を寄せるとスマホから顔を上げて、
「連絡してたんじゃないかよ」
と言う。
 優人は結愛たちが駐車場へ向かう姿を、ガラス張りの窓から眺めながら、
「ああ……会うよ」
と気のない返答をする。

 ストローに口をつけようとして、呆れ顔の平田の表情が視界に入った。
「なんだよ」
「お前ねえ」
 平田は片ひじをテーブルの上につき、顎を手のひらの上にのせると、
「そういうとこだぞ」
と言う。
 なんのことか分からず、優人は上目遣いで平田を見つめたままアイスティーを吸い込む。
「呼べば来る、便利な男」
 そこで優人はむせた。
「どういう意味だよ」
 抗議するも、
「元カノちゃんと縁が切れない理由、ちゃんと考えたことあるのかよ」
とストローの先端を向けられ、
「ない」
と即答する。

 だが、
「嘘だ」
ときっぱり否定された。
「分かっているなら、聞くなよ」
「だからさ。そういうの止めろって」
 平田が言いたいことは分かっているつもりだ。
 それでも別れた彼女に呼び出されれば会うのは、何か用があるのだろうか? と思うからで、別に未練があるわけじゃない。
 結愛以外には。

──便利な男ねえ。

 呼び出されて言われることと言えば、
『考え直して』
 つまり、別れたくないである。
 そんなに好かれるようなことをした覚えはない。
 だが少なくとも結愛と付き合っていたころに別れては、間に付き合っていた元カノたちは”別れた方がいい”と思って別れた子たちだ。
 結愛が嫌がらせをしていたと知り、罪悪感が芽生えた。
 償いになどならないかもしれないが、会うことで気が済むならそうしたいと思っている。良くないことだとは分かっていても。

「優人のは、間違った優しさだぞ」
「分かってるよ」
「会わないことで次の恋に進めるかも知れないのに、それを阻害しているんだぞ?」
 平田のいうことはもっともだと思う。
「相手に気を持たせて、傷つけているだけなの自覚しろよ」
 平田が怒るのも無理はない。

「まったく、何処が良いのやら……」
 彼の呟きに、
「平田も俺のこと好きじゃん」
と言えば、
「おま……っ」
 彼は言葉を失った。

──後で結愛にも連絡しなきゃいけないのか。

 平田が何を思っているのか分からない。
 テーブルに視線を落とし、なんと言おうか考えているように見えた。
 そんな彼を眺めながら優人は、憂鬱だなあと思うのであった。
しおりを挟む

処理中です...