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7『あるはずのないif』
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****side■唯野(課長)
「どうかしましたか?」
リビングのソファーでクッションを抱え、唯野がぼんやりとしていると耳元で優しい恋人の声。
唯野が首を捻り板井を見上げれば、彼の髪はまだ濡れていた。
「髪、ちゃんと乾かせよ」
「はい」
ニコッと笑った彼にちゅっと口づけられて心が跳ねる。
自分は板井のことがとても好きだ。最高の恋人だと思っているし、相性も良いと思う。
『もし結婚していなかったなら、俺にもチャンスはあったのか?』
ふと黒岩の言葉が頭を過る。
それはあり得ない現実だ。
何故黒岩が急に結婚したのか知らない。もっとも、来るもの拒まずで誰とでも寝るような男だ。相手はいくらだっていただろう。
──でも、そこに女性は含まれていなかった気がするんだよな。
唯野は、節操のない黒岩に見かねて言及したことはある。
しかし彼は、
『女とはしない。できたら困るだろ、避妊率は100パーじゃないんだから』
と、めんどくさそうに言ったのだ。
一応その辺の責任はあるのかと思った半面、彼には愛という概念はないのだろうか? とも思ったものだ。
そんな彼と交際?
あり得ない。
確かに黒岩は入社当時とは変わったとは思う。
結婚する以前、何度かつき合おうと言われ、
『誰とでもヤるようなやつとはつき合いたくない』
と言ったこともある。
あれ以来、派手な噂はなくなったが隠れて何をしているのか分かったものではない。
そう言えば……
『枕営業はダメだからね、黒岩君』
と営業部の部長に言われ、
『そんなことはしてません!』
と本気で返事をしていたことを思い出す。
粘りと根気で営業成績を上げてきた黒岩。下半身に関しては乱れまくっていたが、仕事に関しては真面目だったように思う。
いつか仇にならなければいいが、とは思っている。
『お前に本気になってからは誰ともしてないよ』
”まあ、妻は……”と言葉を濁しながら、彼は言った。
結局そういう男なのだ、彼は。
唯野に好きだと言いながら、恋愛と性交は別のところにある。
自分にだけ向けて欲しいと願う唯野とは合わない。
──つき合ったところで……喧嘩ばかりしてそうだしなあ。
穏やかを好む唯野は争いごとが嫌いだ。
だからこそ、唯野に当たる社長に対しても嫌味を言う程度に留めている。
社長のしていることを明るみにすることはきっと簡単だろう。しかし、揉めたり争ったりすることを自分は望んでいない。
「おかえり」
髪を乾かしホットミルクを二つ持った板井が静かに隣に腰かけるのを見て、唯野は声をかける。
「ただいま?」
語尾に疑問符をつけながらホットミルクの入ったカップの一つを唯野の前に置く彼。
「最近、よく眠れなかったようなので」
板井は世話焼きでマメだと思う。人を良く観察しているし。
至れり尽くせりに甘え過ぎないように気をつけてはいるが、やはり二人きりでしかも自宅にいると気が緩んでしまう。
「ありがとう」
微笑んで見せれば彼がとても嬉しそうな顔をする。
──眠れなかったのは緊張していたせいだけれど。
お付き合いをしたことがないわけではないが、こんなに人を好きになったのは初めてなのだ。それなのに早々に一緒に暮らし始めた。緊張しないわけがない。
その上、毎晩でもしたいと言えば彼は律儀にそれを叶えてくれようとする。
正直、寝付けなかったわけではない。睡眠時間を削るようなことをしているからだともいえる。
自分はへとへとなのに、彼は毎日元気だ。
歳の差のせいなのか、それとも鍛え方の違いなのかは分からないが。
「たまには早く寝ましょうか」
「え」
「お疲れなんでしょう?」
「そんな顔してるか?」
”少し”といって眉を寄せる彼。
「まあ。体力を消耗するようなこと、してますしね」
「無理はしてないぞ? したいからしているんだし」
しないと言われるのが嫌でそんな風に言うと、”可愛い”と言われ抱きしめられたのだった。
「どうかしましたか?」
リビングのソファーでクッションを抱え、唯野がぼんやりとしていると耳元で優しい恋人の声。
唯野が首を捻り板井を見上げれば、彼の髪はまだ濡れていた。
「髪、ちゃんと乾かせよ」
「はい」
ニコッと笑った彼にちゅっと口づけられて心が跳ねる。
自分は板井のことがとても好きだ。最高の恋人だと思っているし、相性も良いと思う。
『もし結婚していなかったなら、俺にもチャンスはあったのか?』
ふと黒岩の言葉が頭を過る。
それはあり得ない現実だ。
何故黒岩が急に結婚したのか知らない。もっとも、来るもの拒まずで誰とでも寝るような男だ。相手はいくらだっていただろう。
──でも、そこに女性は含まれていなかった気がするんだよな。
唯野は、節操のない黒岩に見かねて言及したことはある。
しかし彼は、
『女とはしない。できたら困るだろ、避妊率は100パーじゃないんだから』
と、めんどくさそうに言ったのだ。
一応その辺の責任はあるのかと思った半面、彼には愛という概念はないのだろうか? とも思ったものだ。
そんな彼と交際?
あり得ない。
確かに黒岩は入社当時とは変わったとは思う。
結婚する以前、何度かつき合おうと言われ、
『誰とでもヤるようなやつとはつき合いたくない』
と言ったこともある。
あれ以来、派手な噂はなくなったが隠れて何をしているのか分かったものではない。
そう言えば……
『枕営業はダメだからね、黒岩君』
と営業部の部長に言われ、
『そんなことはしてません!』
と本気で返事をしていたことを思い出す。
粘りと根気で営業成績を上げてきた黒岩。下半身に関しては乱れまくっていたが、仕事に関しては真面目だったように思う。
いつか仇にならなければいいが、とは思っている。
『お前に本気になってからは誰ともしてないよ』
”まあ、妻は……”と言葉を濁しながら、彼は言った。
結局そういう男なのだ、彼は。
唯野に好きだと言いながら、恋愛と性交は別のところにある。
自分にだけ向けて欲しいと願う唯野とは合わない。
──つき合ったところで……喧嘩ばかりしてそうだしなあ。
穏やかを好む唯野は争いごとが嫌いだ。
だからこそ、唯野に当たる社長に対しても嫌味を言う程度に留めている。
社長のしていることを明るみにすることはきっと簡単だろう。しかし、揉めたり争ったりすることを自分は望んでいない。
「おかえり」
髪を乾かしホットミルクを二つ持った板井が静かに隣に腰かけるのを見て、唯野は声をかける。
「ただいま?」
語尾に疑問符をつけながらホットミルクの入ったカップの一つを唯野の前に置く彼。
「最近、よく眠れなかったようなので」
板井は世話焼きでマメだと思う。人を良く観察しているし。
至れり尽くせりに甘え過ぎないように気をつけてはいるが、やはり二人きりでしかも自宅にいると気が緩んでしまう。
「ありがとう」
微笑んで見せれば彼がとても嬉しそうな顔をする。
──眠れなかったのは緊張していたせいだけれど。
お付き合いをしたことがないわけではないが、こんなに人を好きになったのは初めてなのだ。それなのに早々に一緒に暮らし始めた。緊張しないわけがない。
その上、毎晩でもしたいと言えば彼は律儀にそれを叶えてくれようとする。
正直、寝付けなかったわけではない。睡眠時間を削るようなことをしているからだともいえる。
自分はへとへとなのに、彼は毎日元気だ。
歳の差のせいなのか、それとも鍛え方の違いなのかは分からないが。
「たまには早く寝ましょうか」
「え」
「お疲れなんでしょう?」
「そんな顔してるか?」
”少し”といって眉を寄せる彼。
「まあ。体力を消耗するようなこと、してますしね」
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