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6『返り討ちに』
6 諦めの悪い自分
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****side■黒岩(総括)
「今日も残業ですか? 黒岩さん」
背後から呆れを含んだ声。
黒岩は総括部のある階の自動販売機の前にいた。
「皇も何か飲むか?」
付き合いが長いため声だけで相手が誰かわかる。もっとも、特徴のある声なら付き合いが浅くともわかるだろう。
「なら、俺が出しますよ」
営業部時代に後輩だった皇は現在は上司であり、副社長だ。同じく、あの頃皇の面倒を見ていた同期の唯野は彼が昇進し態度を改めた。
変わらないのは自分だけかと思ったが皇もまたあの頃と変わらない。
「まったく。自分の仕事を放り投げて苦情係にばかり顔を出すから連日残業になるんですよ」
──いや、変わったか。皇も。
「今日は帰るよ。皇は凄いよな、あれだけ苦情係の業務を手伝っているにも関わらず定時で終わるんだもんな」
飲み物を自販機から取り出し、一つを手渡しながら黒岩が皇にチラリと目を向けると、彼は眉を寄せ困った表情を浮かべている。
「俺は別にあそこにいて苦情係の仕事をだけをしているわけではないので」
そもそも苦情係自体、手広く他の部署の手伝いをしているのだ。皇があそこにいて別の仕事をしていたとしても不思議はない。
「そっか」
「大変になることが分かっているのに、どうして苦情係ばかり気にかけるんです?」
彼は近くのベンチに腰掛けると胸ポケットに入れたスマホを取り出しながら。
「そんなの、聞くまでもないだろ」
唯野は自分に会いに来ることはない。自分から会いに行かなければ、何か月経とうが会えることはないだろう。部署のある階も違うわけだから。
「いつまでも自分に気がない相手を追いかけて、むなしくないんですか?」
スマホの画面を見つめたまま皇が言う。
カフェオレのペットボトルに口をつけていた黒岩はむせそうになった。
「お前、随分と酷いこと言うんだな」
先日板井に言ったことに偽りはない。
自分でも最低な奴だったと思っている。
「言ったところで諦めたりしないんでしょう?」
「俺だって自分がバカなことしていることくらい理解している。だが、皇だって相手が塩田だったから努力したし、諦められなかったんだろ」
”お前にならわかるよな”とでも言うように。
「わかりますよ。黒岩さんの言わんとしていることは」
今更本気になったところで無駄なあがきだということは、何よりも自分が一番理解している。
それでも、もっと真面目に迫っていたらとか。
同じ部署だったならとか。
もし結婚なんてしなければなんてifばかり考えてしまう。
「でも、俺には黒岩さんの応援をすることはできません」
「いいさ。皇は板井の味方だもんな」
「そういう意味ではなく」
だが明確にしなくとも彼の言いたいことは予想がつく。黒岩が既婚者だからだ。黒岩はため息を一つ漏らすと、飲み終えたペットボトルをゴミ箱へ捨てる。
「ちゃんとわかってる。さて帰るか」
”待ってるんだろ?”と問えば、彼は小さな笑みを浮かべた。
皇がベンチから立ち上がるのを待ち、連れ立ってエレベーターへ向かう。
「うち、寄っていきます?」
皇は愚痴でも聞いてくれるつもりなのか、吞んでいかないかと誘われる。
「一緒に暮らしてるんだろう? 今日は遠慮しておくよ」
「遠慮なんてしなくても……」
「遠慮と言うよりも、塩田が俺の味方をしてくれるとは考え辛いしな」
”二人から責められるのは目に見えている”と続けると、皇はクスリと笑う。
その後、会社の正面玄関で二人と別れ、黒岩は駅へと向かった。
駅で列車を待っている間に唯野へ電話をすると、非常に不機嫌な声。
「唯野はそんなに俺のことが嫌いなのかよ」
苦笑いと共に飛び出す自虐的な言葉。こんなだから唯野に嫌がられるんだよなと思いながら、電光掲示板を見上げる。
メッセすると言いながら、送る暇がなかった。だから電話をしたのだと言えば、”別に嫌いじゃない”と言われ黒岩は思わずスマホを落としそうになったのだった。
「今日も残業ですか? 黒岩さん」
背後から呆れを含んだ声。
黒岩は総括部のある階の自動販売機の前にいた。
「皇も何か飲むか?」
付き合いが長いため声だけで相手が誰かわかる。もっとも、特徴のある声なら付き合いが浅くともわかるだろう。
「なら、俺が出しますよ」
営業部時代に後輩だった皇は現在は上司であり、副社長だ。同じく、あの頃皇の面倒を見ていた同期の唯野は彼が昇進し態度を改めた。
変わらないのは自分だけかと思ったが皇もまたあの頃と変わらない。
「まったく。自分の仕事を放り投げて苦情係にばかり顔を出すから連日残業になるんですよ」
──いや、変わったか。皇も。
「今日は帰るよ。皇は凄いよな、あれだけ苦情係の業務を手伝っているにも関わらず定時で終わるんだもんな」
飲み物を自販機から取り出し、一つを手渡しながら黒岩が皇にチラリと目を向けると、彼は眉を寄せ困った表情を浮かべている。
「俺は別にあそこにいて苦情係の仕事をだけをしているわけではないので」
そもそも苦情係自体、手広く他の部署の手伝いをしているのだ。皇があそこにいて別の仕事をしていたとしても不思議はない。
「そっか」
「大変になることが分かっているのに、どうして苦情係ばかり気にかけるんです?」
彼は近くのベンチに腰掛けると胸ポケットに入れたスマホを取り出しながら。
「そんなの、聞くまでもないだろ」
唯野は自分に会いに来ることはない。自分から会いに行かなければ、何か月経とうが会えることはないだろう。部署のある階も違うわけだから。
「いつまでも自分に気がない相手を追いかけて、むなしくないんですか?」
スマホの画面を見つめたまま皇が言う。
カフェオレのペットボトルに口をつけていた黒岩はむせそうになった。
「お前、随分と酷いこと言うんだな」
先日板井に言ったことに偽りはない。
自分でも最低な奴だったと思っている。
「言ったところで諦めたりしないんでしょう?」
「俺だって自分がバカなことしていることくらい理解している。だが、皇だって相手が塩田だったから努力したし、諦められなかったんだろ」
”お前にならわかるよな”とでも言うように。
「わかりますよ。黒岩さんの言わんとしていることは」
今更本気になったところで無駄なあがきだということは、何よりも自分が一番理解している。
それでも、もっと真面目に迫っていたらとか。
同じ部署だったならとか。
もし結婚なんてしなければなんてifばかり考えてしまう。
「でも、俺には黒岩さんの応援をすることはできません」
「いいさ。皇は板井の味方だもんな」
「そういう意味ではなく」
だが明確にしなくとも彼の言いたいことは予想がつく。黒岩が既婚者だからだ。黒岩はため息を一つ漏らすと、飲み終えたペットボトルをゴミ箱へ捨てる。
「ちゃんとわかってる。さて帰るか」
”待ってるんだろ?”と問えば、彼は小さな笑みを浮かべた。
皇がベンチから立ち上がるのを待ち、連れ立ってエレベーターへ向かう。
「うち、寄っていきます?」
皇は愚痴でも聞いてくれるつもりなのか、吞んでいかないかと誘われる。
「一緒に暮らしてるんだろう? 今日は遠慮しておくよ」
「遠慮なんてしなくても……」
「遠慮と言うよりも、塩田が俺の味方をしてくれるとは考え辛いしな」
”二人から責められるのは目に見えている”と続けると、皇はクスリと笑う。
その後、会社の正面玄関で二人と別れ、黒岩は駅へと向かった。
駅で列車を待っている間に唯野へ電話をすると、非常に不機嫌な声。
「唯野はそんなに俺のことが嫌いなのかよ」
苦笑いと共に飛び出す自虐的な言葉。こんなだから唯野に嫌がられるんだよなと思いながら、電光掲示板を見上げる。
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