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1『変化する想いと日常』
4 優しい部下に戸惑う
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****side■唯野(課長)
ため息をつきながら苦情係へ向かうと、商品部の入り口で板井と再び出くわした。
「どうかしましたか?」
と、彼。
手には他部署からのファイルを抱えている。データが全てPCで共有はできるが、紙には紙の良さと役割があった。
「板井か」
唯野は彼を見上げ、微笑んで見せる。なんでもないよと言うように。しかしそれが通用しないことも分かっていた。
「そんな浮かない顔をして、何もないとか言いませんよね?」
苦情係が稼働し始めて数か月。
初めの頃は彼が不愛想で真面目な青年だと思っていた。だが毎日一緒に仕事をするうちに、彼への印象は変わった。
「板井は、なんでもお見通しなんだな」
そう言って唯野が肩を竦めると、板井は驚いた表情をする。それが唯野にとっては意外だった。
「総括から何か言われたんですか?」
「うーん。呑みに行こうと誘われた」
板井の質問に答えながら、商品部のドアを開ける唯野。苦情係は商品部の奥にあるため、商品部を通り抜けなければならない。
「は?」
「うん?」
唯野の言葉に眉を寄せる彼に、”どうした?”と言うように視線を向けると、
「それでどうして浮かない顔をしてるんです?」
”総括と仲良かったですよね?”と続ける板井。
「悪くはないよ」
唯野は最後に黒岩総括と呑みに行った時のことを思い出し、ぎゅっと拳を握り締める。
板井は何か言いたそうにしていたが、苦情係に着いてしまった為、その話はそこまでとなった。
『やめろって……』
呑みに行ったあの日のことを翌日、黒岩は覚えてはいなかった。
『別に減るもんじゃないし、いいだろ?』
『バカ言うな、結婚してるんだぞ? 自覚を持てよ』
唯野が彼を睨みつけようとすると、そのまま後ろから抱きしめられた。
『なあ、唯野。なんであの時、すぐ結婚したんだよ』
『……!』
確かに不自然な結婚ではあった。しかし当時、疑ってくるような人物はおらず、二人は熱愛関係にあったとまことしやかに噂され、カタがついたはずだ。
──黒岩は自分がした質問も、俺に何をしようとしたかも一切覚えていなかった。あの時は一旦安心したが、後から考えると”黒岩はずっと疑問に思っていた”と言う事実に気づく。
「課長?」
考え事をしながらPCモニターに向かっていると、隣の席の板井に声をかけられ、唯野はそちらに視線を向ける。
「そこ、間違ってますけど」
と板井。
唯野は再びモニターに視線を戻す。
「ああ。そうだな」
「課長」
目を泳がす唯野の手に板井が手を添える。
「そんなに嫌なら、断ればいいのではないですか?」
”口実が必要なら”と彼は続けて。
「俺と呑みに行く約束をしていたことにすればいいですよ」
「ありがとう」
──何故、板井はいつも……。
ここ数か月で彼に助けられたことは一度や二度ではない。そうして一年後には、すっかり彼に好意を寄せている自分がいたのだった。
ため息をつきながら苦情係へ向かうと、商品部の入り口で板井と再び出くわした。
「どうかしましたか?」
と、彼。
手には他部署からのファイルを抱えている。データが全てPCで共有はできるが、紙には紙の良さと役割があった。
「板井か」
唯野は彼を見上げ、微笑んで見せる。なんでもないよと言うように。しかしそれが通用しないことも分かっていた。
「そんな浮かない顔をして、何もないとか言いませんよね?」
苦情係が稼働し始めて数か月。
初めの頃は彼が不愛想で真面目な青年だと思っていた。だが毎日一緒に仕事をするうちに、彼への印象は変わった。
「板井は、なんでもお見通しなんだな」
そう言って唯野が肩を竦めると、板井は驚いた表情をする。それが唯野にとっては意外だった。
「総括から何か言われたんですか?」
「うーん。呑みに行こうと誘われた」
板井の質問に答えながら、商品部のドアを開ける唯野。苦情係は商品部の奥にあるため、商品部を通り抜けなければならない。
「は?」
「うん?」
唯野の言葉に眉を寄せる彼に、”どうした?”と言うように視線を向けると、
「それでどうして浮かない顔をしてるんです?」
”総括と仲良かったですよね?”と続ける板井。
「悪くはないよ」
唯野は最後に黒岩総括と呑みに行った時のことを思い出し、ぎゅっと拳を握り締める。
板井は何か言いたそうにしていたが、苦情係に着いてしまった為、その話はそこまでとなった。
『やめろって……』
呑みに行ったあの日のことを翌日、黒岩は覚えてはいなかった。
『別に減るもんじゃないし、いいだろ?』
『バカ言うな、結婚してるんだぞ? 自覚を持てよ』
唯野が彼を睨みつけようとすると、そのまま後ろから抱きしめられた。
『なあ、唯野。なんであの時、すぐ結婚したんだよ』
『……!』
確かに不自然な結婚ではあった。しかし当時、疑ってくるような人物はおらず、二人は熱愛関係にあったとまことしやかに噂され、カタがついたはずだ。
──黒岩は自分がした質問も、俺に何をしようとしたかも一切覚えていなかった。あの時は一旦安心したが、後から考えると”黒岩はずっと疑問に思っていた”と言う事実に気づく。
「課長?」
考え事をしながらPCモニターに向かっていると、隣の席の板井に声をかけられ、唯野はそちらに視線を向ける。
「そこ、間違ってますけど」
と板井。
唯野は再びモニターに視線を戻す。
「ああ。そうだな」
「課長」
目を泳がす唯野の手に板井が手を添える。
「そんなに嫌なら、断ればいいのではないですか?」
”口実が必要なら”と彼は続けて。
「俺と呑みに行く約束をしていたことにすればいいですよ」
「ありがとう」
──何故、板井はいつも……。
ここ数か月で彼に助けられたことは一度や二度ではない。そうして一年後には、すっかり彼に好意を寄せている自分がいたのだった。
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