6 / 47
1『変化する想いと日常』
2 特別になれなくても
しおりを挟む
****side■板井(部下)
入社して二週間。
板井の所属する苦情係は多忙を極めていた。自分たちが入社した年に新設された部署であり、まだマニュアルもない。
そんな中、唯一の上司である課長、唯野修二はしょっちゅう社長に呼ばれていた。
この時板井は”できたばかりの部署だから”唯野が社長に呼ばれているのだと思っていたが、のちにその理由が判明する。
「板井、課長は?」
入り口の方から問いかけられ、板井はそちらに面を向けた。副社長の皇である。
課長である唯野が不在がちな為、代わりに皇が自主的に手伝いに来ていた。
「社長に呼ばれたみたいです」
「またか」
と肩を竦める皇。
「まあいい。俺様が業務を手伝ってやろう。……って電車は?」
「遅れるとさ」
と答えたのは板井の同僚の塩田。
皇はやれやれと言って彼の隣に腰かけると、PCを立ち上げた。
苦情係は上司である課長の唯野、新人の板井、塩田、電車の四人だけの部署。
わが社(株)原始人には、かなりの数の部署があり、その分役職もあるが、どういうわけか苦情係は特殊な位置にあった。
──課長の上が副社長というのは、大企業にしては変だよな。
板井はため息をつき、チラリと皇の方に視線を移す。彼は若くして副社長となった、唯野の営業部時代の元後輩である。
彼が優秀なのは誰の目から見ても明らかではあったが、全身ブランドで固められており一部の人間からは”キラキラ副社長”というあだ名をつけられていた。
そんな皇は、どうやら塩田に気があるらしく何かと彼に構う。そのお陰で何とか部署が回っているわけだが。
──しかし、変わった趣味だな。
塩田はどちらかというと、愛想のいい方ではない。上司だろうが客だろうが忖度なしの塩対応。見目は良く、黙っていればモテそうだが。
しかし、変に言葉を飾らない彼の言葉には嘘がない。
駆け引きなどが苦手な板井にとって塩田は、恋愛対象にはならないが居心地の良い相手だった。彼と休憩が重なり話をするようになって、急激に仲良くなった。
それでも皇の好みは変わっていると思ってしまう。
「悪い、遅くなった」
と、そこへ唯野が苦情係に入ってくる。
「お帰りなさい」
こんな時、なんと返したら正解なのか迷ってしまう。
いつものように無難な言葉を返し、彼の胸ポケットに視線が止まった。
「ん? どうかしたのか」
「いえ、素敵な万年筆ですね」
唯野は既婚者。てっきり妻からの贈り物だと思っていたのだが。
「これ、塩田から貰ったんだ。昇進祝いって」
と嬉しそうに微笑む彼。
なんだか胸がチクリと痛んだ。
「板井?」
こちらから聞いておいて反応を示さない板井に、不思議そうな顔をした唯野。
「昇進祝いですか」
板井はなんとか声を絞り出し、会話を繋いだ。
昨日の帰り道、愚痴をこぼしていたら塩田が昇進祝いと称してプレゼントしてくれたらしい。粋なことをするなあと、板井は塩田の方に視線を移す。
正直、塩田が唯野のお気に入りなことは気づいていた。
だが、唯野は既婚者であり塩田は皇と仲が良い。どうこうなることはないと思っていた。
「俺も、何かプレゼントしますよ」
「え?」
報われない恋なのは承知の上。二番煎じでも、自分も彼の中に何かを残したかった。
断られる可能性もあったが、
「ありがとう。あんまり気を遣うなよ?」
と何故か彼は板井の好意をそのまま受け入れた。
この時、板井はそれをとても意外に感じた。
「じゃあ、ネクタイでも」
と板井。
「それは嬉しいな」
こうして板井は後日、唯野にネクタイとネクタイピンを贈ったのだった。
入社して二週間。
板井の所属する苦情係は多忙を極めていた。自分たちが入社した年に新設された部署であり、まだマニュアルもない。
そんな中、唯一の上司である課長、唯野修二はしょっちゅう社長に呼ばれていた。
この時板井は”できたばかりの部署だから”唯野が社長に呼ばれているのだと思っていたが、のちにその理由が判明する。
「板井、課長は?」
入り口の方から問いかけられ、板井はそちらに面を向けた。副社長の皇である。
課長である唯野が不在がちな為、代わりに皇が自主的に手伝いに来ていた。
「社長に呼ばれたみたいです」
「またか」
と肩を竦める皇。
「まあいい。俺様が業務を手伝ってやろう。……って電車は?」
「遅れるとさ」
と答えたのは板井の同僚の塩田。
皇はやれやれと言って彼の隣に腰かけると、PCを立ち上げた。
苦情係は上司である課長の唯野、新人の板井、塩田、電車の四人だけの部署。
わが社(株)原始人には、かなりの数の部署があり、その分役職もあるが、どういうわけか苦情係は特殊な位置にあった。
──課長の上が副社長というのは、大企業にしては変だよな。
板井はため息をつき、チラリと皇の方に視線を移す。彼は若くして副社長となった、唯野の営業部時代の元後輩である。
彼が優秀なのは誰の目から見ても明らかではあったが、全身ブランドで固められており一部の人間からは”キラキラ副社長”というあだ名をつけられていた。
そんな皇は、どうやら塩田に気があるらしく何かと彼に構う。そのお陰で何とか部署が回っているわけだが。
──しかし、変わった趣味だな。
塩田はどちらかというと、愛想のいい方ではない。上司だろうが客だろうが忖度なしの塩対応。見目は良く、黙っていればモテそうだが。
しかし、変に言葉を飾らない彼の言葉には嘘がない。
駆け引きなどが苦手な板井にとって塩田は、恋愛対象にはならないが居心地の良い相手だった。彼と休憩が重なり話をするようになって、急激に仲良くなった。
それでも皇の好みは変わっていると思ってしまう。
「悪い、遅くなった」
と、そこへ唯野が苦情係に入ってくる。
「お帰りなさい」
こんな時、なんと返したら正解なのか迷ってしまう。
いつものように無難な言葉を返し、彼の胸ポケットに視線が止まった。
「ん? どうかしたのか」
「いえ、素敵な万年筆ですね」
唯野は既婚者。てっきり妻からの贈り物だと思っていたのだが。
「これ、塩田から貰ったんだ。昇進祝いって」
と嬉しそうに微笑む彼。
なんだか胸がチクリと痛んだ。
「板井?」
こちらから聞いておいて反応を示さない板井に、不思議そうな顔をした唯野。
「昇進祝いですか」
板井はなんとか声を絞り出し、会話を繋いだ。
昨日の帰り道、愚痴をこぼしていたら塩田が昇進祝いと称してプレゼントしてくれたらしい。粋なことをするなあと、板井は塩田の方に視線を移す。
正直、塩田が唯野のお気に入りなことは気づいていた。
だが、唯野は既婚者であり塩田は皇と仲が良い。どうこうなることはないと思っていた。
「俺も、何かプレゼントしますよ」
「え?」
報われない恋なのは承知の上。二番煎じでも、自分も彼の中に何かを残したかった。
断られる可能性もあったが、
「ありがとう。あんまり気を遣うなよ?」
と何故か彼は板井の好意をそのまま受け入れた。
この時、板井はそれをとても意外に感じた。
「じゃあ、ネクタイでも」
と板井。
「それは嬉しいな」
こうして板井は後日、唯野にネクタイとネクタイピンを贈ったのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる