上 下
25 / 29
4 和解と深い愛

2 君と一緒がいい

しおりを挟む
 ****♡Side・聖

『自分が作ったゲームから忖度で一番に抜けたと思われるのは、嫌だろ』
 情事の後、久隆はベッドから降りながら聖を”名前”で呼ばなかった理由について、そう語った。
『それじゃ、まるで……』
 と、彼が言いかけたのはその事だったのかと納得し聖は彼の後に続く。

「聖」
「ん?」
「俺はちゃんと先の事まで考えてるし、お前が悪く言われるのはイヤだよ」
 シャワーを浴びながら眉を寄せ、聖を見上げる彼。
 どうしてこんなに自分は彼のこととなると周りが見えなくなってしまうのだろう、とぼんやり思う聖。嫉妬ばかりして不安になって。彼の”好き”という言葉に違和感を持ち、自分を追い詰めてしまう。思い込みで溝を作り、もっとこっちを見て欲しいとまるで駄々っ子のようだ。
「好きだよ、お前のこと」
 悲しそうに怒っている、その表情。
「もう少しさ、冷静になれよ」
「うん。ごめん」
 彼を優しく抱きしめる。触れ合う肌と肌。
 確かに彼を手に入れたのは自分なのに、どうしてこんなに不安なのだろう。

「咲夜と葵ちゃんは、今窮地に立たされてる」
 聖が落ち着いたのを確認すると、シャワーのコックを捻りお湯を止めた。聖は黙って話を聞きながら脱衣場に出るとバスタオルを一枚、久隆にかけてやり、リビングへ続く廊下のドアを開ける。少し、冷えた空気が熱い肌に心地よい。
「救えるのは、俺しかいないという父の判断だ。サポートはしてくれるというが、聖にも手伝って欲しい」
 どうやら、話は社長秘書の都筑から伝わって来たらしい。
「久隆が望むなら、なんだってするよ」
 もう、聖に迷いはない。
 彼たっての願いならば恋人である自分が聞かなくてどうする、と思っていた。

「具体的には?」
 リビングを抜けベッドルームへ。Tシャツとズボンを彼に渡してやると、下着一枚だった彼が受け取り着替え始める。
「うちの部屋。二人に提供しようと思うんだ」
 と、彼。
「住まわせるのか?」
「うちには二十名からの従業員……通称ファミリーが住み込みで働いている。二人暮らしをさせておくより安心だろ?」
「まあ、それは」
 久隆の傍に【霧島咲夜】と【片倉葵】が常に一緒に居るという状況を想像し、やっとで鎮めた嫉妬心が再び頭を擡げ始めた。
「なあ、俺も久隆と一緒に暮らしたい」
 そして、その想いは言葉となって飛び出す。
 彼は一瞬、埴輪顔をする。

「あのなあ。世間では一応、大崎グループと大里グループはライバル会社なんだぞ」
 と、彼。
「でも、週刊誌には俺たちが婚約するって、デマ流されたこともある」
 と、聖も負けてはいない。
 ここで暮らす分には問題ないが、大崎邸で一緒に暮らしたいという意味合いだから彼は困った顔をしているのだろう。
「それに夏海さんがうちの母さんの兄と一時期結婚していたんだから、親戚同然だろ」
 夏海は、久隆の父の妹である。
「それを言われるとなあ。とりあえず、父に許可取ってみるよ」
 彼は肩を竦めると、渋々承諾したのだった。


 聖は車を降りると、運転手からキャリーケースを受け取る。
 運転手は再び車を発進させ、聖の元から走り去った。
 目の前には、大崎邸。

「聖」
 屋敷から出てきた久隆が、聖のもとにやってくる。
「良かったね、許可貰えて」
 彼は一緒に荷物を中に運ぶ手伝いをしてくれた。
 エントランスから真っ直ぐ大食堂の手前にあるエレベーターに乗り込む。食事や荷物を運ぶのによく使われるエレベーターだ。三階につくと久隆の部屋に向かう。
 久隆の隣の部屋を咲夜と葵に貸すと言っていた。
「俺と一緒で良いよね?」
 他にもたくさん部屋はあるらしいが大崎邸は一人一人の部屋が広い。
 結婚したのちも一緒に暮らせるように、そう設計したらしいが。

 部屋のドアを開けるとまずはリビング。ここを久隆は書斎として使っていた。
 左奥にベッドルーム。右奥には水回りと簡易キッチン。
 書斎としている部屋の右の壁にはカウンター。そこには三人くらい座れる長椅子。正面奥にも二人くらい座れるカウンターが設置されている。
 その他にリクライニングチェアーにテレビ、本棚にデスクがあった。全体にアンティーク調で、お洒落な作りだ。
「聖のマンションはどうするの?」
 と、荷物をベッドルームに運んだ久隆はウオークインクローゼットへの折り畳みの白い扉を引く。
 フローリングの床は何処もピカピカだ。
「たまに戻るよ」
「必要なの、これだけ?」
「当座はね。久隆の家ってなんでもあるし」
「まあ、そうだね」

 久隆の父に相談したところ、聖の両親がOKならば良いとのこと。
 聖の母は久隆の叔母の親友。ダメとは言われるはずがなかった。特に子供をのびのび育てたいという父からは、快い返事が貰えた。
 ただし、迷惑をかけないことと強く注意を受けたが。

「へへ。ずっと聖と一緒だね」
 と珍しく、久隆が子供らしい笑顔を見せる。
 久隆の家は父子家庭。小学生の頃は兄も家に居たが、彼は高校に上がり忙しく不在がちになった。
 口には出さないものの久隆は寂しい想いをしているに違いない。
「そうだな」
 服をハンガーにかけキャリーケースをしまうと、久隆を抱き寄せる。
 こんな日が来るなんて思いもしなかった。

「二人はいつ来るんだ?」
「休みの日」
 久隆は咲夜と中庭で逢った日の放課後、葵にも話をつけている。行動が早い。
 葵の母からは”葵を宜しくお願いします”と丁寧なあいさつをされた。咲夜のほうは血が繋がった父ではない。そのため久隆の父が話をつけてくれたらしい。
「賑やかになるね」
 と、久隆。
「そうだな」
 と返事をすると、
「喧嘩しないでよ?」
 と言われてしまう。

 ──どんだけ、信用ないんだ。俺は。

 聖は一抹の不安を感じずにはいられなかったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

処理中です...