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2 光と闇と

1 可愛い彼と月夜

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 ****♡side・聖

「もう!限度ってものがあるでしょ」
「ごめん」
 聖は久隆にしつこくエッチを迫って怒られた。素直に謝り立ったままの彼の手を引き胸に抱き寄せれば、大人しく膝の上に座る。そんな彼が可愛くて、ついまた悪戯をしたくなった。
 前を向いて一点を睨みつけている彼は目に涙を溜めている。
「機嫌直してよ」
「知らない」
 彼の声は震えていた
 。聖は調子に乗りすぎたことをまずったなと焦り、彼は横抱きにするとこちらを見上げる。
「痛かった?」
 と問えば、
「痛くは無い」
 と彼は答えるのだが。

 涙が転げ落ちる彼のその頬を撫でると、恨めしそうにじっとこちらをみつめている。聖は徐に彼に口づけた。
「んんッ」
 聖はそっと離れるとその背中を撫でる。彼は黙って聖の胸に頬を寄せた。
「自販機いこうかな」
 空気を換えようと、聖がそう口にすると、
「!」
 ハッと彼が顔を上げるので、
「一緒に行く?」
 と問いかけると彼は返事の代わりに離れたくないというように、むぎゅっと聖に抱きついた。
「じゃあ、行こうか」
 と立ち上がると彼の手を取る。

 ──こういうところが可愛いんだよな。

 聖は片手をポケットに突っ込んで久隆の手を引くと自動販売機を探しにロビーに向かって廊下をゆく。浴衣の上に聖のカーディガンを羽織った彼は袖を折っている。
「その色に合うじゃん」
 機嫌をとろうと彼に声をかけると、
「香水の匂いがする」
 と言われてしまう。
 イヤなのかなと思って黙っていると、
「大里の匂い」
 と久隆は少し頬を染めて小さな声で呟く。

 ──可愛すぎる。
  なにそれ、反則じゃね?

「何がいい?」
 と彼に問う、聖。
「んー」
 悩んでいた彼は自動販売機の前に立つと、紅茶のボタンを押す。
 聖がポケットから小銭を数枚出して投入すると、彼は何故か驚いた顔をした。
「もう一個押してよ」
 と、聖が更に硬貨を投入するのを彼はじっと見ている。
 電子マネーが主流な現在ではあるが、『そんなに珍しいのか?』と不思議に思いながら。二本のペットボトルを受け取ると片手で持ってまた部屋へ引き返す。
「どうかした?」
「なんかカッコいいなと思って」
 彼が何について言っているのか、聖にはわからなかった。

「ほら」
 聖は部屋に着くと一本を冷蔵庫に入れ一本をグラスに分けて注ぎ、グラスの一つを久隆に渡す。聖の動きを小さな子供のようにじっと見ている彼が可愛いらしい。身長差を考えれば無理も無いが。
「ありがとう」
 お礼を言って受け取る彼の髪にちゅっと口づけると、
「これ、美味いよな」
 と聖は言葉を返しグラスを持ったまま移動して奥の障子を開けると外を眺めた。
 今夜はとても月の綺麗な夜だ。

「明日、自由時間があるよ」
 と明日の予定について切り出す聖に、傍まで来た久隆がピトっとくっつく。いつでもベタベタして居たいようだと思ったらそれは勘違いのようで、過去に起きた出来事のトラウマから一人でいるのが怖いのだと後に知った。
「どこか行きたいところあるのか?」
「ううん」
 聖の問いに彼は首を横に振る。

 ──家が恋しいのだろうか?
  それとも兄が?

「眠たいの?」
「うん」
 聖はグラスの残りをぐいっと喉に流し込むと、近くにあったスイッチを押し部屋の明かりを消した。月明かりだけが二人を照らしている。
「飲み終わった?」
 聖の真似をして一生懸命飲んでいる彼の髪を撫でた。とても愛しい。
「うん」
 受け取ったグラスをテーブルに置くとその身体を抱き上げる。
「!」
「抱っこ好きだろ」
 驚く彼の唇を奪うとその唇は冷たかった。
「甘えていいんだよ」
 月明かりに照らさせる久隆の瞳は揺れている。何を思っているのだろうか?
「一緒に寝て」
 やがてポツリと彼は言った。
「いいよ」
 聖はそんなことかと微笑む。
 その夜、聖は彼を胸に抱いて眠った。幸せを噛み締めながら。
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