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卵の中身は本当にたまご?

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早朝五時。買い物にとても適した時間だ。
夏は特に、涼しい。
薄暗い空に浮かぶ雲。なかなか絵になる。

「魔王になったら言ってみたい言葉か」
スマホの画面には今日もアンケート。何処から送られてくるのか、定かではない。宇宙の彼方ならロマンチックだな、と思いながら、おおよそロマンチックとは程遠いフレーズを口ずさむ。
「この、愚民どもめ」
うん、これだな。アンケート送信、と。

鼻歌を唄いながら、コンビニへ向かう。
色んな不満を持ちながらも、日本が一番住みやすいと思えるのは”時間を守る”と言うのが当たり前な社会だからだ。よほどのことがない限り、交通機関も店も定められた時間に稼働する。雑誌や本は定められた発売日には店頭に並ぶものだし、賞味期限が過ぎた商品は商品棚から撤去される。

日本人は一定のルールを守り暮らしており、そこに安心を感じているのだ。

「幸せは、どこからやってくるのだろうな」
ポツリと呟き、ウエストポーチを開けるとマスクを取り出す。装着し、中へ。
「いらっしゃいませー」
ビニールシートの向こう側で店員が笑顔をつくる。スマホを取り出すと挟んでおいたメモを見つつ、籠を手に取った。

───小説とは体験と妄想で出来ている。

非日常がいつしか、日常となり現実で浸透すれば、小説の中の世界も変わる。人生は死ぬまで勉強だ。出逢った全てのモノは自分の中で糧となり、読んだものから言葉が吸収され、自分を育てていく。いつだって他人に差をつけられる。差をつけることが出来る。変わろうとすれば、いくらだって変われるし、堕落することも可能だ。

わたしはメモに従い、卵を手に取った。メモには豆腐と書かれていたが、欲しいのは木綿豆腐。木綿豆腐は絹ごしに比べ賞味期限が短い。明日届くだろう、荷物のことを考え、買うことをやめた。後に後悔するとも知らずに。昔読んだ小説のことを思い出す。面白いエッセイと、心が温まったり、辛くなったりする物語を多く輩出している作家さんのモノだ。懐かしいような、切ないようなそんな物語が好きだった。

エッセイを読むと、この体験を小説にしているのだろうなと想像ができたりして、本屋を梯子したりもした。当時は栄えたところに居たものだから、家に居るよりも、外に居る方が多かった気がする。メモに従い買い物を済ませる。
「かぼちゃか」
わたしは、かぼちゃが嫌いだ。とても体にいいことは分かっているが、どうにも、あの味が苦手である。だが、面白いものを見つけ購入してみた。パッケージにはカボチャの絵が描いてあり、なんたらモコと書いてある。要はカボチャを生クリームに混ぜた、シュークリーム。誘惑に負け、まだ薄暗い道を歩きながらパッケージを開けたら、光に照らされたそれはとんでもなく、黄色かった。

「うわ!まずそう」
思わず呟き、かぶりつく。サツマイモの時も、ピンクの皮が不味そうに見えたものだが。シュークリームの皮はどうして色がついていると不味そうに見えるのか。謎である。
「後味がほんのり、カボチャだけど。カボチャ好きが好きかどうかは分からんな。むしろ、嫌いな人の方が好きかも?」
これは売れそうだなと思いながら、家に向かったのだった。
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