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5*運命の代償
7 運命なんていらない【微R】
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彼は久隆の言葉にとても驚いた顔をした。
いつの間にか自分が思っていたよりも大人になったから……ではない。
「なあ、久隆」
「うん?」
「もし、俺がどんなに汚いやつでも……俺のこと好きでいてくれる?」
──汚い?
久隆には兄の言う意味が理解できないでいた。
汚いとは、いったい何を指しているのか。まだ人生経験の浅い久隆には、想像が難しかった。
「どんなお兄ちゃんでも、好きなのは変わらないけど……犯罪はダメだよ!」
久隆は足りない知識で一生懸命出した答えを告げる。
すると、兄は複雑な表情をし、
「犯罪は……してないはずだ」
「何、はずって」
「いや、してないとは言い切れない」
「そこは言い切ってよ」
兄には、まだ何も知らなかった久隆にした性的なことが脳裏を過ったようだが、久隆はその事を全く念頭に入れていなかった。
久隆の言う犯罪とは、恐喝や殺人など自分以外の誰かに迷惑をかけてしまうモノを指していたから。
しかし兄のいう汚いとはそれらとは関係がないようで、少しホッとする。
兄は久隆共々、いずれ大崎グループをしょって立つ人間だ。
そんな圭一が犯罪に手を染めてしまっては大崎邸で働くファミリーと呼ばれる彼らや、大崎グループ系列で働く従業員たちが路頭に迷ってしまう。
「お兄ちゃんの言う、汚いって何?」
久隆は兄に横抱きにされ、大好きな彼の胸に額を寄せる。兄からはいつも良い匂いがした。心安らぐ香り。
恐らく、香水か柔軟剤だろうが、自分の衣類からする香りと違う。
「それは……」
言いづらそうにしていた兄から、ついに大崎家と姫川家の因縁にまつわることが語られる。
久隆は概要は知ってはいたが、その事のためにした兄の罪は知らなかった。
「俺は、伝承のことを知りながら……久隆から運命の相手と会う機会を奪った」
兄からの告白はとても重いもので、
「俺がこの手で、久隆を幸せにしたいと思った」
久隆はそれの何がいけないことかわからない。
確かに、自分たちは血の繋がった兄弟で、世間一般には許させないものかもしれない。
だが元々近親相姦が許されないのは、遺伝子が近いもの同士から産まれてくる子が奇形となりやすいからのはずだ。
婚姻が出来ずとも、愛し合うこと自体は非難されるべきことではない。後ろ指をさされるのは、日本人が正しき道を踏み外すことに対し、表面的な理由のみで正義を振りかざし攻撃したがる性質があるからだ。
本来結婚とは子を成すことを前提としていた。
つまりそれは互いのためではなく、産まれてくる子のためにあったといっても過言ではない。
だから同性婚は許されないものではなく、子を成さないためにその形が不要だったはずだ。
しかし同性婚が許可されていなかった時代は、同性愛そのものが偏見の目で見られた。
婚姻関係で許されることも明確だったため、偏見の目は一層つよくなったが、性の多様性、人は多種多様で当たり前なのだという事から時代は同性婚可能な世の中と変わる。
だがそもそも法律は人の手で作り出されたものだ。
それは人々がトラブルになることがなく、平等で幸せに暮らすためのルール。
本来の意味をはき違えてはいけない。
「それの何がいけないの?」
自分たちは確かに法律上許されない関係かも知れないが、許されていないのはあくまでも婚姻だ。
同性である自分たちには子を成すことはできない。”愛し合う”こと自体は問題ないはずだ。
「都筑は恐らく……俺の運命の人」
そんなことは、久隆とて気づいている。
だから兄が都筑に奪われるのではないかと恐れているのだ。
けれども兄の苦悩は少し違っていた。
「都筑を前にすると、抑えがたい性衝動に駆られるんだ」
「は?」
そこで久隆は大崎家の伝統のことを思い出す。
一般では考えられない、クレイジーな伝統を。
「AV観る?」
「はい?」
久隆の提案に、今度は圭一が眉を寄せる。
「俺は別に、欲求不満じゃないぞ」
「ふーん」
「なんで疑ってるんだよ。そういうことじゃなくて」
久隆は悪戯のつもりで、ちゅっと鎖骨のあたりに口づけた。
「ちょ……」
彼は欲情したのか、ほんのり赤くなる。
「久隆がもし、運命の人と出逢ってしまったら、こんな風になるのかと思うと心配なんだよ」
兄の手は背中から久隆のズボンの中へと滑り込む。久隆は目を閉じた。
「俺はこの先もずっと、久隆が運命の相手と逢うことを全力で阻止する。久隆は俺のものだ。誰にも渡しはしない」
強い意志と共に、彼の唇が久隆の首筋に触れる。
「僕は……ずっとお兄ちゃんと居たい」
──運命なんていらない。
久隆は、強くて弱い兄の傍にずっと居てあげたいと思っていたのだった。
いつの間にか自分が思っていたよりも大人になったから……ではない。
「なあ、久隆」
「うん?」
「もし、俺がどんなに汚いやつでも……俺のこと好きでいてくれる?」
──汚い?
久隆には兄の言う意味が理解できないでいた。
汚いとは、いったい何を指しているのか。まだ人生経験の浅い久隆には、想像が難しかった。
「どんなお兄ちゃんでも、好きなのは変わらないけど……犯罪はダメだよ!」
久隆は足りない知識で一生懸命出した答えを告げる。
すると、兄は複雑な表情をし、
「犯罪は……してないはずだ」
「何、はずって」
「いや、してないとは言い切れない」
「そこは言い切ってよ」
兄には、まだ何も知らなかった久隆にした性的なことが脳裏を過ったようだが、久隆はその事を全く念頭に入れていなかった。
久隆の言う犯罪とは、恐喝や殺人など自分以外の誰かに迷惑をかけてしまうモノを指していたから。
しかし兄のいう汚いとはそれらとは関係がないようで、少しホッとする。
兄は久隆共々、いずれ大崎グループをしょって立つ人間だ。
そんな圭一が犯罪に手を染めてしまっては大崎邸で働くファミリーと呼ばれる彼らや、大崎グループ系列で働く従業員たちが路頭に迷ってしまう。
「お兄ちゃんの言う、汚いって何?」
久隆は兄に横抱きにされ、大好きな彼の胸に額を寄せる。兄からはいつも良い匂いがした。心安らぐ香り。
恐らく、香水か柔軟剤だろうが、自分の衣類からする香りと違う。
「それは……」
言いづらそうにしていた兄から、ついに大崎家と姫川家の因縁にまつわることが語られる。
久隆は概要は知ってはいたが、その事のためにした兄の罪は知らなかった。
「俺は、伝承のことを知りながら……久隆から運命の相手と会う機会を奪った」
兄からの告白はとても重いもので、
「俺がこの手で、久隆を幸せにしたいと思った」
久隆はそれの何がいけないことかわからない。
確かに、自分たちは血の繋がった兄弟で、世間一般には許させないものかもしれない。
だが元々近親相姦が許されないのは、遺伝子が近いもの同士から産まれてくる子が奇形となりやすいからのはずだ。
婚姻が出来ずとも、愛し合うこと自体は非難されるべきことではない。後ろ指をさされるのは、日本人が正しき道を踏み外すことに対し、表面的な理由のみで正義を振りかざし攻撃したがる性質があるからだ。
本来結婚とは子を成すことを前提としていた。
つまりそれは互いのためではなく、産まれてくる子のためにあったといっても過言ではない。
だから同性婚は許されないものではなく、子を成さないためにその形が不要だったはずだ。
しかし同性婚が許可されていなかった時代は、同性愛そのものが偏見の目で見られた。
婚姻関係で許されることも明確だったため、偏見の目は一層つよくなったが、性の多様性、人は多種多様で当たり前なのだという事から時代は同性婚可能な世の中と変わる。
だがそもそも法律は人の手で作り出されたものだ。
それは人々がトラブルになることがなく、平等で幸せに暮らすためのルール。
本来の意味をはき違えてはいけない。
「それの何がいけないの?」
自分たちは確かに法律上許されない関係かも知れないが、許されていないのはあくまでも婚姻だ。
同性である自分たちには子を成すことはできない。”愛し合う”こと自体は問題ないはずだ。
「都筑は恐らく……俺の運命の人」
そんなことは、久隆とて気づいている。
だから兄が都筑に奪われるのではないかと恐れているのだ。
けれども兄の苦悩は少し違っていた。
「都筑を前にすると、抑えがたい性衝動に駆られるんだ」
「は?」
そこで久隆は大崎家の伝統のことを思い出す。
一般では考えられない、クレイジーな伝統を。
「AV観る?」
「はい?」
久隆の提案に、今度は圭一が眉を寄せる。
「俺は別に、欲求不満じゃないぞ」
「ふーん」
「なんで疑ってるんだよ。そういうことじゃなくて」
久隆は悪戯のつもりで、ちゅっと鎖骨のあたりに口づけた。
「ちょ……」
彼は欲情したのか、ほんのり赤くなる。
「久隆がもし、運命の人と出逢ってしまったら、こんな風になるのかと思うと心配なんだよ」
兄の手は背中から久隆のズボンの中へと滑り込む。久隆は目を閉じた。
「俺はこの先もずっと、久隆が運命の相手と逢うことを全力で阻止する。久隆は俺のものだ。誰にも渡しはしない」
強い意志と共に、彼の唇が久隆の首筋に触れる。
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