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5*運命の代償
5 プライドと葛藤
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****♡side・圭一(兄)
圭一はため息をつきデスクに寄りかかり、腕を組んだ。
落とした視線の先には磨き抜かれたフローリングの床。
「圭一さん、いつまでここに居られる気ですか?」
「都筑こそ、何故ここに居る?」
チラリと目だけで彼を捉え。
「社長からの指示です」
「ふうん」
彼、都筑は”他に何もなければ業務を遂行します”といい放ち、再び書類棚に向かう。
ここは大崎邸にある父の書斎だ。
「圭一さんこそ、私に何か用ですか?」
都筑はこちらを見ようともせず、事務的に問う。
「いや」
「では何故そこに?」
つくづく蹂躙させたくなる男だな、などと圭一は思っていた。
「俺の家なのだから、何処にいようと俺の勝手だろ?」
「そうですね」
都筑は動じない。それが圭一には気に入らなかった。
──親父の魂胆なんてわかっている。
都筑だってそれは分かっているはずなのに。何故そんなに冷静でいられるんだ。
鼻先を掠める彼の良い香り。凄く落ち着く。
それなのに都筑は圭一に対し何も感じていないように振舞う。
自分にとって彼は同じ悩みを抱えるもの同士だと思っていたのに、だ。
「何かお話があるのなら、どうぞお気遣いなく」
「別に」
都筑は圭一の態度にため息をつくと肩を竦める。
「気が散ります」
「へえ」
やっと欲しい反応を得たと言わんばかりに都筑に目を向けると何故かクスッと笑われ、圭一はムッとした。
彼はツカツカと近づいてくると、圭一の耳元で、
「可愛い」
と囁く。
「なッ……!」
まるで子供だと言われているように感じ、都筑の瞳を見つめ返せば、
「ちょっ……」
キスされそうになって、その胸を押し返す。
都筑はクスッと笑った。
馬鹿にされているのかと眉を潜めれば、
「まだここに居る気ですか?」
と、問われる。
「なんでそんなに追い出したいんだよ」
圭一も負けてはいない。張り合うこと自体が馬鹿だなとは思いつつも。
「それは……」
”傍にいると、襲いたくなるから”と都筑に耳元で悪戯っぽく言われ、驚いて彼に目を向けると、
「冗談ですよ」
と、彼は真面目で穏やかな声で続けた。
「もう、部屋にお戻りになってください」
「何故」
「弟さんが……久隆様が心配されるので」
久隆に”様”をつけるのは、今の都筑にとって久隆が特別な立場にあるからだ。
父は上司、圭一は仕事上の先輩。久隆は……。
──まさか、俺たちの関係に気付いてる?
「それとも、力づくで部屋に追い返されたいのですか?」
「は?」
圭一は力で負けるとは思っていない。背は自分の方があるし、トレーニングである程度は鍛えている。
都筑は余裕そうな顔をしてじっと圭一を見つめていた。
その瞳は”邪魔だから早く行け”といっているようにしか見えないが。
子供扱いされているようで悔しい。
まだ何か言い返してやろうと考えていると、
「好きに……なりたくないんですよ」
ポツリと都筑は溢す。
「え?」
「あなたを」
彼は瞬きを一つすると書斎のドアまで静かに歩いていき、
「さあ、行って」
と、ドアを開け圭一を促す。
「断ると言ったら?」
「いい加減にしないと怒りますよ」
「怒ってみろよ」
自分でも何故ここまで都筑に突っかかりたいのかわからない。
「圭一さんは一体、何が気に入らないのです?」
──気に入らない?
俺が都筑を……?
ちがう……そうじゃない。
俺が裏切ったのに都筑が平然としていることがイヤなんだ。
「なんで……責めないんだ」
「はい?」
ドアを押さえたままの都筑は驚いた表情をした。
「大崎一族と姫川一族の間で交わされている約束を俺は……」
その言葉に彼はドアから手を放すと圭一の胸倉を掴む。
「じゃあ、あなたは……」
圭一は初めて感情を露にする彼を見つめ返す。
ドアがパタンと閉まる音がした。
「私が責めたら好きになってくれるんですか?」
「それは……」
「自分が楽になりたいからといって無責任なことやめてください。私の気もしらないで」
何か言い返そうとしたら唇を塞がれる。
「なにすん……」
そっと離れた彼に文句を言おうとするが、都筑の頬を伝う涙を見て何もいえなくなってしまう。
「迷惑料です」
「……」
「初めては好きな人と。これくらい、いいでしょう? さあ、もう行って」
圭一はなんともいえない気持ちになって部屋を出るとドアの前にズルズルと座り込んだ。
──自業自得だ、都筑を傷つけた。
そんなこと望んでいたわけじゃないのに。
「お兄ちゃん」
頭を抱えていると、声をかけられ圭一は顔を上げた。
「探したよ、ここにいたんだ」
「ん、ごめん」
久隆の腕を掴み胸に抱き寄せる。優しい体温、愛しい。
「どうしたの? お部屋に行こうよ」
「そうだな」
「んッ」
先ほどの都筑とのキスを無かったことにしたくて久隆に口づける。自分を責めながら。
久隆は不思議そうな顔をして圭一を見ていた。
「部屋行こうか」
「うん、何かあった?」
久隆を放し立ち上がると、彼が圭一に問う。
「いや、何も」
言えるわけなどなかった、他の人とキスしたなんて。
それが不意打ちだったとしても悪いのは自分だから。
圭一はため息をつきデスクに寄りかかり、腕を組んだ。
落とした視線の先には磨き抜かれたフローリングの床。
「圭一さん、いつまでここに居られる気ですか?」
「都筑こそ、何故ここに居る?」
チラリと目だけで彼を捉え。
「社長からの指示です」
「ふうん」
彼、都筑は”他に何もなければ業務を遂行します”といい放ち、再び書類棚に向かう。
ここは大崎邸にある父の書斎だ。
「圭一さんこそ、私に何か用ですか?」
都筑はこちらを見ようともせず、事務的に問う。
「いや」
「では何故そこに?」
つくづく蹂躙させたくなる男だな、などと圭一は思っていた。
「俺の家なのだから、何処にいようと俺の勝手だろ?」
「そうですね」
都筑は動じない。それが圭一には気に入らなかった。
──親父の魂胆なんてわかっている。
都筑だってそれは分かっているはずなのに。何故そんなに冷静でいられるんだ。
鼻先を掠める彼の良い香り。凄く落ち着く。
それなのに都筑は圭一に対し何も感じていないように振舞う。
自分にとって彼は同じ悩みを抱えるもの同士だと思っていたのに、だ。
「何かお話があるのなら、どうぞお気遣いなく」
「別に」
都筑は圭一の態度にため息をつくと肩を竦める。
「気が散ります」
「へえ」
やっと欲しい反応を得たと言わんばかりに都筑に目を向けると何故かクスッと笑われ、圭一はムッとした。
彼はツカツカと近づいてくると、圭一の耳元で、
「可愛い」
と囁く。
「なッ……!」
まるで子供だと言われているように感じ、都筑の瞳を見つめ返せば、
「ちょっ……」
キスされそうになって、その胸を押し返す。
都筑はクスッと笑った。
馬鹿にされているのかと眉を潜めれば、
「まだここに居る気ですか?」
と、問われる。
「なんでそんなに追い出したいんだよ」
圭一も負けてはいない。張り合うこと自体が馬鹿だなとは思いつつも。
「それは……」
”傍にいると、襲いたくなるから”と都筑に耳元で悪戯っぽく言われ、驚いて彼に目を向けると、
「冗談ですよ」
と、彼は真面目で穏やかな声で続けた。
「もう、部屋にお戻りになってください」
「何故」
「弟さんが……久隆様が心配されるので」
久隆に”様”をつけるのは、今の都筑にとって久隆が特別な立場にあるからだ。
父は上司、圭一は仕事上の先輩。久隆は……。
──まさか、俺たちの関係に気付いてる?
「それとも、力づくで部屋に追い返されたいのですか?」
「は?」
圭一は力で負けるとは思っていない。背は自分の方があるし、トレーニングである程度は鍛えている。
都筑は余裕そうな顔をしてじっと圭一を見つめていた。
その瞳は”邪魔だから早く行け”といっているようにしか見えないが。
子供扱いされているようで悔しい。
まだ何か言い返してやろうと考えていると、
「好きに……なりたくないんですよ」
ポツリと都筑は溢す。
「え?」
「あなたを」
彼は瞬きを一つすると書斎のドアまで静かに歩いていき、
「さあ、行って」
と、ドアを開け圭一を促す。
「断ると言ったら?」
「いい加減にしないと怒りますよ」
「怒ってみろよ」
自分でも何故ここまで都筑に突っかかりたいのかわからない。
「圭一さんは一体、何が気に入らないのです?」
──気に入らない?
俺が都筑を……?
ちがう……そうじゃない。
俺が裏切ったのに都筑が平然としていることがイヤなんだ。
「なんで……責めないんだ」
「はい?」
ドアを押さえたままの都筑は驚いた表情をした。
「大崎一族と姫川一族の間で交わされている約束を俺は……」
その言葉に彼はドアから手を放すと圭一の胸倉を掴む。
「じゃあ、あなたは……」
圭一は初めて感情を露にする彼を見つめ返す。
ドアがパタンと閉まる音がした。
「私が責めたら好きになってくれるんですか?」
「それは……」
「自分が楽になりたいからといって無責任なことやめてください。私の気もしらないで」
何か言い返そうとしたら唇を塞がれる。
「なにすん……」
そっと離れた彼に文句を言おうとするが、都筑の頬を伝う涙を見て何もいえなくなってしまう。
「迷惑料です」
「……」
「初めては好きな人と。これくらい、いいでしょう? さあ、もう行って」
圭一はなんともいえない気持ちになって部屋を出るとドアの前にズルズルと座り込んだ。
──自業自得だ、都筑を傷つけた。
そんなこと望んでいたわけじゃないのに。
「お兄ちゃん」
頭を抱えていると、声をかけられ圭一は顔を上げた。
「探したよ、ここにいたんだ」
「ん、ごめん」
久隆の腕を掴み胸に抱き寄せる。優しい体温、愛しい。
「どうしたの? お部屋に行こうよ」
「そうだな」
「んッ」
先ほどの都筑とのキスを無かったことにしたくて久隆に口づける。自分を責めながら。
久隆は不思議そうな顔をして圭一を見ていた。
「部屋行こうか」
「うん、何かあった?」
久隆を放し立ち上がると、彼が圭一に問う。
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