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4*運命への責任

2 拗ねないでよ

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 今日はロクな日ではない。

 圭一はそう思っていた。
 無理矢理”姫川 都筑”と逢わされるし、愛する恋人でもある弟には浮気を疑われるし。
 なんて日だ! と思いながら都筑に声をかける。

「ちょっと一階のカフェに行ってくるよ」
と。
 自社ビルである大崎グループ本社一階には有名なシェフがいるカフェが併設されている。紅茶の種類が豊富でデザート美味しいと誰かがいっていた。紅茶好きの弟のご機嫌取りである。

「機嫌直してくれよ」
 エレベーター内で愛しい恋人を前に圭一はため息をつき情けない声を出した。
 彼は圭一の手を両手で掴みながらぷくっと膨れ俯いている。
「久隆。可愛い顔が台無しだぞ」
 ふくれっつらも可愛いが、こんな表情をした彼を連れては歩けない。
 何せ父が社長を勤める会社の本社であり、久隆は次期社長なのだ。
 長男の圭一を社長にという声も多い中、こんな子供っぽい態度の彼を連れて歩けば何を言われることか。

「なあ、久隆」
「!」
 圭一は手を放すと彼をひょいっと抱き上げる。
「いつまでも拗ねてないで、お話しようよ」
「子供扱い……イヤッ」
 圭一は再びため息をついた。久隆をおろすと次の階のボタンを押し久隆と共に箱を降りる。
 そこで、怒られると思った久隆が圭一を見上げた。
 しかし圭一は微笑んで再び久隆を抱き上げるとドアの並ぶ廊下を真っ直ぐ奥へ向かって歩いていく。

「お兄ちゃん?」
「なんだ」
「どこ行くの?」
「さてね」
 そこで、どこかに置いていかれるのではと怯えた久隆が圭一の首に自分の腕をシッカと巻きつけた。
 その様子があまりにも可愛いので、圭一は笑ってしまう。
「空いてるみたいだな。さて、着いたよ」
「ヤダ! 怖い。おりない」
「しょうがないな、じゃあドア開けて」
 久隆は嫌そうな顔をしながら腕を伸ばすと、しぶしぶドアを開けたのだった。
「ここは?」
「泊まれるとこ」
 そこはビル内の宿泊施設。社員なら誰でも利用できる。もちろん無料だ。夜は夜景が綺麗で、簡易キッチンと家電がある。何らかの事情で家に帰れないものがよく利用している場所だ。

 久隆が降りたがらないので、圭一は仕方なく久隆を抱いたままベットに腰掛けた。
 大きな窓から見える街並みは夕焼けに照らされて煌いている。
「怒ってないよ」
 ぎゅっとしがみついている彼の髪を撫でた。
「浮気もしてないし」
 久隆はただ口を真一文字まいちもんじに結び黙っている。
「久隆だけだよ。機嫌直してくれよ」
 頬を撫でると泣き出しそうな顔をして圭一を見上げる。
「愛してるよ」
 そんな彼にそっと口づけると、彼の瞳からポロリと涙が落ちる。

「どうしたんだよ」
 圭一は三度みたびため息をつく。
「だって、あの人は姫川の人なんでしょ?」
 それだけで全てを察した。久隆も伝承のことは一応知ってはいる。
「久隆は何か感じたのか?」
 久隆は首を横に振った。感じるほど近くに行っていないだけかもしれないが。
「でも、良い匂いしたの」
「匂い?」
「うん」

 大崎一族と姫川一族の惹かれ合う二人は互いの匂いが好きらしい。なんでも落ち着くとか。
「俺、伝承について少し調べてみようと思う」
 圭一はふと、結ばれなかった運命の話はよく聞くが”運命に逆らった者”の話を聞いたことがない、ということに気付く。運命に逆らうと決めたときからその必要性はあったのに、おざなりにしていた。今こそ向き合う時である。
「僕も一緒に調べる」
 久隆は少しだけ緊張を解いて。
「わかった。一緒に調べよう」
 圭一が微笑むと、久隆はやっと笑顔になる。
 しかしその笑顔は圭一には毒だった。

「久隆、触りたい」
「うん?」
 圭一は、『ぎゅってしてるよね?』と言うように首を傾げる久隆の顎を取り、強引に唇を奪う。
「んんんッ」
「エッチなお触りしたい」
 圭一は久隆の耳元でそっと強請る。
「!……えっ?!」
「なあ、いいだろ?」
 久隆の制服のタイを引き抜くと彼は頬を染めた。
「浮気、されたらイヤだろ?」
「お兄ちゃんッ……ずるいっ」
「なんのことかな?」
 圭一はすっとぼけたのだった。
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