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3*恋人の自覚

1 弱気な兄【微R】

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****♡side:久隆(弟)

 久隆は兄が泣くのをはじめて見た。
 いつだって、兄でいようとしていたから。

 頬を伝う兄の涙を指先で拭うとそっと口づけた。泣いている理由は言わない。もとより無口な兄だから、聞いたところで答えて貰えないとは思っている。
 愛しいというように頬を撫でれば、その手に自分の手を重ねる兄。手から伝わる体温に愛しさが増す。

「起こしてごめんな」
 きっと辛いだろうに、何時だって久隆ばかり大切にするのだ。
 もっと自分自身を大切にして欲しいのに。
「甘えても、いいよ?」
 自分がいつも甘えてばかりのクセにそんなことを言ってみる。
「なんだよ、可愛いこと言って」
 兄がクスッと笑うので、少しホッとした。

「なあ、久隆」
「なあに?」
「ずっと、傍にいてくれるか? 俺の」
 どういう意味なのだろうかと、久隆は不思議そうに兄を見つめる。
 すると兄は困った顔をした。
「ダメなのか?」
 兄が普段では考えられないくらい弱気な態度を見せるのでなんだかきゅんとしてしまう。
 久隆はむぎゅっと兄に抱きつくと、
「別れる予定があるの?」
と、わざと意地の悪いことを問う。
「は?」
 兄の反応が面白くてクスクス笑うと、困り果てた兄にぎゅっと抱き締められる。

「お兄ちゃん」
「うん?」
「ずっと、一緒にいてね」
「ああ」
 やっといつも通りの声で。
「あ……」
 兄の手が寝巻きをたくし上げ背中を撫でる。
 ”するの?”
 というように兄を見つめると唇を塞がれた。
 合図に感じた久隆はそっと目を閉じる。全てを兄に任せ。


「んッ」
 首筋を這う舌が気持ちいい。大好きな兄の体温。
 もっと撫でて欲しくてぎゅっとしがみつく。
 いい子と言われるたび安らいだ。自分にとってはずっと兄が一番。

──今は恋人だけど。

「愛しているよ」
と、優しい声。
 兄さえいれば他には何も要らない。そう思ってしまうほどに夢中で。
「お兄ちゃんッ……好き」
 どうして人は人を好きになるのだろうか?
 兄がいない世界はきっと真っ暗闇だ。
「んんッ」

 この時久隆は、兄が悩んでいることを知らなかった。
 二人の将来について。そして、姫川とのつながりについて。
「もっと」
 わき腹を撫でられながら、胸の飾りを舌先で転がす兄にキスを強請る。
「お兄ちゃん……ッ」
 愛されたい。求められたい。兄の全てになりたい。
 人は強欲だ。一つ願いが叶えばもっと欲しくなる。
「おねだり上手になったな」
 クスッと笑う兄の笑顔に心がとろけそうになった。
 ガラス張りの向こうには星がチラつき始めロマンチックである。

「ねえ、綺麗」
 久隆は窓の外を指差して。
「あとで一緒に夜景を楽しもう」
 兄はチラリと外に目を向けると嬉しそうに。
 この夜景を自分に見せるためだけにここを予約したことを知ったのは食事の時。
 大事にされているのだと改めて思う。
「今は俺に夢中になれよ」
「!」
 心臓が高鳴る。なんて破壊力半端ないことをいうのだと思いながら。
「いつだって夢中だよ?」
 兄の手は久隆自身を握り込む。いつの間にか器用に寝巻きを剥ぎ取られ全てを晒している。鮮やかだ。
「はあッ……」
「もっと、夢中になればいい」
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