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2*俺の弟

3 欲望と戦うデート

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 服を見立ててやり外出すると、久隆は嬉しそうに圭一の腕に自分の手を絡めた。
 似ていない為、まるで恋人に見える。
 その事が久隆にとってとても嬉しいことのように感じた。先ほどの質問に『したい』と恥ずかしそうに答える久隆のことを思い出しつい、にやけてしまう。


「お兄ちゃん」
「ん?」
「ペンギン可愛いね」
 ニコニコしながら見上げてくる久隆に圭一は、
 ”久隆のほうがよっぽど可愛いよ”
と囁くと一瞬驚いた顔をしたが頬を染め、
 “もうッ”
と脇をつついた。

 ずっと望んできたこと。
 守りたいという気持ちはいつしか家族愛ではなく愛情となった。
 あの日、遊園地でこの手を離してしまったことを深く後悔している。
『おにぃちゃんッ……僕ッ』
『ごめんな、怖かったよな』
『一人に……』
 大好きな母を失い、父は自分のことで手一杯。
 傍にいてあげられるのは自分だけなのに。
『一人にしないでぇ……怖いのッ』
『久隆、もう大丈夫だよ』
『おにぃちゃんッ』
 ぎゅっとしがみつく弟には自分しか頼りにできる人間がいない。
 学校ではイジメにあって他人に心を開くことが出来なくなってしまった。
 彼にとっては自分だけが頼りだったのに。それをあの日改めて感じたのだ。

「何かお土産買ってもいい?」
「何が欲しいんだ?」
「初めてのデートでしょ? だからお兄ちゃんとおそろいのストラップ欲しいな」
 スマホにはつけるところがない。そのことを話せば、学生カバンにつけると言い出した。
 しかしそれには良い思い出がない。
「うーん、じゃあマグカップ」
 お土産屋にたどり着くとイルカのイラストの描いてあるペアのマグカップを差して。
 並べるとイルカがキスをするようにデザインされていた。
「お部屋用にするの」


 些細なことがとても可愛くて愛しいと感じてしまうのは、やはり恋だからか?
 実の弟に恋をするというのはおかしいのだろうか?
 天使のように可愛らしいベビーフェイスにまだ大人になりきらない声。そして品のある仕草。華奢でまだ低い背丈。ネコっ毛に、艶やかな肌。全てが可愛らしく思えてしまう。
 甘えられれば顔にこそ出さないが心中デレデレしっぱなしだ。

──俺の弟は世界一可愛い。
 断言できる。

「持ってやるよ」
 レジで会計を済ませた品物を受け取ると左手で手を繋ぐ。
 恋人らしいことは兄らしいことと大して変わらないなと思いながら。
「お兄ちゃんの手、好き」
 嬉しそうに手を掴む久隆に、圭一は我慢できなくなりその身を引き寄せて口づける。
「んんッ……お兄ちゃんッ……人前だよ」
「悪い」
「恥ずかしいよ」
 顔を真っ赤にして上目遣いで抗議する久隆が可愛くて仕方ない。
 末期だなと額に手を充てているとその手に久隆が腕を伸ばす。彼は手を離されるのが怖いようで、反省した。

「お昼何が良い?」
 耳元で優しく問うと、すぐに機嫌を直して”うーん”と唸る。
 今すぐイケナイ事をしてしまいたい。そんな欲望を抑えつつ久隆の手を引き水族館の出口に向かう。
「ステーキ食べたい」
 魚を見た後ではさすがに魚は食べ辛いのか、そう口にした。
「よし、行こうか」
 水族館を出ると迎えの車が待っている、大崎家専属の。
 まずは久隆のために後部座席のドアを開けてやる。運転手が降りるのを制止して。
 どんな時も恋人らしく振舞いたい、久隆に紳士的でありたい、それが圭一の願いである。
 運転手に行き先を告げると、久隆を見つめた。今夜はホテルに予約を取ってある。
 綺麗な夜景と食事を堪能するためにスイートを。それまではこの欲望を我慢しなければならないと思っていた。

「お昼の後は映画に行きたいんだよな?」
「うん」
 コクリと頷く久隆の髪をそっと撫でた。
 少しでも愛しいという気持ちが伝わればいいなと思いながら。
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