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五章 ━━━━【触れたいな】未来編
『可愛い人』8
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****♡side・都筑
「おいで」
翌朝、圭一と共にホテルを出る。手を差し伸べられ都筑はその手を掴んだ。
「本当に来るの?」
彼を見上げ、都筑は問う。身体には愛の証が刻まれている。首筋にも。
「行くって言っただろ」
圭一に優しい笑顔を向けられ、目の前で社用の高級車のドアを圭一が開くのを見ていた。
それは、運転席のすぐ後ろ。運転手の次に生存率の高い席。
圭一はどこまでも、都筑が車に乗ることを怖がった。切なくなるほどに。
「圭一」
思わず、彼の腕に触れる。死んだりしない、大丈夫だよ。と言うように。
すると、圭一は端正な顔を歪めぎゅっと都筑を抱き締める。彼の腕の中で、彼が深呼吸をするのを感じていた。
「家に帰ったらずっと触れていたいよ、都筑」
安心させるように、都筑は彼を抱き締め返した。ずっと、これから何十年も側にいる。嫌だといっても側にいたい。
「早く、仕事を終わらせて帰ろう?」
「そうだな」
圭一は、都筑から離れると乗るように指示をし、自分も反対側に乗り込んだ。運転手はその間無言である。
車に乗り込むと、勝手に走り出す。どうやら行き先は告げてあるようだ。圭一に握られた手が熱く感じた。一緒にいられなかった日々を思い出すとまだ辛い。犯してしまった過ちも忘れられない。
だけど、この手を離すことなんて絶対にできない。
「っ!」
突然ぎゅっと握られて都筑は圭一を見上げた。
「なに考えてる?」
じっと彼はこちらを見つめていた。
**
「何って、特には」
嘘をついているわけではないのに、ドキリとした。圭一は瞬きをひとつすると“なら、いい”と短く言葉を発し窓の外に目を向けた。
次の瞬間、都筑はときめいてしまった、彼のしたことに。
え、何?
圭一、こんなことするの?
繋いだ手をにぎにぎしたり、人差し指でリズムを刻むように都筑の手の甲を優しくぽんぽんと弾いたのだ。不思議に思い圭一の方を見つめると何かを口ずさんでいる。
「圭一さん..?何歌って?」
思わず問いかけてしまってからしまったと思ったが、彼はニコッと微笑む。
「pay phone」
彼が歌の上手いことは知っている。圭一が歌うのを聴くまでは周りで一番上手いのは彼の弟の幼なじみだと思っていた。
無口で、都筑の前だけでは時折饒舌になる圭一。
彼の弟が洋楽が好きなのは、子守唄代わりに彼が唄ってあげていたからだと知った時、都筑はなんだか胸が締め付けられる思いがした。
そして、弟想いの彼が一層好きになったのだ。
「また今度、カラオケ行こうか?」
彼の言うカラオケ先はカラオケハウスなどではなかった。大崎グループ系列の高級ホテルである。
カラオケの機材が部屋にあるのだ。
「遠慮することないよ」
一般家庭で育った都筑は、社長秘書として高給取りの経験はあるものの、いつまでたってもセレブには慣れない。しかし、
「俺の歌声好きなんだろ?」
圭一にそう耳元で囁かれ思わず頷いたのだった。
「おいで」
翌朝、圭一と共にホテルを出る。手を差し伸べられ都筑はその手を掴んだ。
「本当に来るの?」
彼を見上げ、都筑は問う。身体には愛の証が刻まれている。首筋にも。
「行くって言っただろ」
圭一に優しい笑顔を向けられ、目の前で社用の高級車のドアを圭一が開くのを見ていた。
それは、運転席のすぐ後ろ。運転手の次に生存率の高い席。
圭一はどこまでも、都筑が車に乗ることを怖がった。切なくなるほどに。
「圭一」
思わず、彼の腕に触れる。死んだりしない、大丈夫だよ。と言うように。
すると、圭一は端正な顔を歪めぎゅっと都筑を抱き締める。彼の腕の中で、彼が深呼吸をするのを感じていた。
「家に帰ったらずっと触れていたいよ、都筑」
安心させるように、都筑は彼を抱き締め返した。ずっと、これから何十年も側にいる。嫌だといっても側にいたい。
「早く、仕事を終わらせて帰ろう?」
「そうだな」
圭一は、都筑から離れると乗るように指示をし、自分も反対側に乗り込んだ。運転手はその間無言である。
車に乗り込むと、勝手に走り出す。どうやら行き先は告げてあるようだ。圭一に握られた手が熱く感じた。一緒にいられなかった日々を思い出すとまだ辛い。犯してしまった過ちも忘れられない。
だけど、この手を離すことなんて絶対にできない。
「っ!」
突然ぎゅっと握られて都筑は圭一を見上げた。
「なに考えてる?」
じっと彼はこちらを見つめていた。
**
「何って、特には」
嘘をついているわけではないのに、ドキリとした。圭一は瞬きをひとつすると“なら、いい”と短く言葉を発し窓の外に目を向けた。
次の瞬間、都筑はときめいてしまった、彼のしたことに。
え、何?
圭一、こんなことするの?
繋いだ手をにぎにぎしたり、人差し指でリズムを刻むように都筑の手の甲を優しくぽんぽんと弾いたのだ。不思議に思い圭一の方を見つめると何かを口ずさんでいる。
「圭一さん..?何歌って?」
思わず問いかけてしまってからしまったと思ったが、彼はニコッと微笑む。
「pay phone」
彼が歌の上手いことは知っている。圭一が歌うのを聴くまでは周りで一番上手いのは彼の弟の幼なじみだと思っていた。
無口で、都筑の前だけでは時折饒舌になる圭一。
彼の弟が洋楽が好きなのは、子守唄代わりに彼が唄ってあげていたからだと知った時、都筑はなんだか胸が締め付けられる思いがした。
そして、弟想いの彼が一層好きになったのだ。
「また今度、カラオケ行こうか?」
彼の言うカラオケ先はカラオケハウスなどではなかった。大崎グループ系列の高級ホテルである。
カラオケの機材が部屋にあるのだ。
「遠慮することないよ」
一般家庭で育った都筑は、社長秘書として高給取りの経験はあるものの、いつまでたってもセレブには慣れない。しかし、
「俺の歌声好きなんだろ?」
圭一にそう耳元で囁かれ思わず頷いたのだった。
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