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一章 ━━━━【咎人を愛した漆黒の天使】
0 喪った者と運命の出逢い
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【プロローグ】
side:都筑━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
9月の初め、歳の離れた最愛の兄が交通事故で帰らぬ人となった。
雨の日だった。
兄は、恋人といづれ結婚しようと約束したまま、約束の日からたった二年で彼を残して逝ってしまった。雨はまるで兄の死で心が砕かれた恋人の涙のように、葬儀の日まで僕らを濡らし続けた。まさか葬儀の日に生涯狂おしいほど、恋焦がれることとなった相手と出逢うとは思ってはいなかった。
彼の名は“大崎 圭一”兄の恋人の長男で当時まだ八つ。僕は八年後、彼に再会し恋に落ちることとなった。
『お兄さん大丈夫?』
当時からしっかりとした子ではあった。子供用の喪服を身に纏ったその姿は、まるで“漆黒の天使”。
『姫川 真咲(まさき)さんの弟?』
『都筑』
やっとで告げた自分の名前。
僕は当時、高校二年生。十近くも歳の違う少年はずっと側で僕を慰めてくれていた。彼はそれ以来、黒ばかり身に付けるようになったことを知るのはまだ先のこと。
「圭一さん、どうしていつも黒のスーツばかり身につけているのですか?」
10年後、大学生一年生になった彼に問いかけた時、彼はこう言った。
“それはね、都筑。
あなたに俺のことを
忘れないでいて欲しかったからだよ”
と。
****
side:奏 【望まない試練】
━━━━━━八年前。
愛した人を失った“大崎 奏(かなで)”は、その日社長室で一人頭を抱えていた。真咲を失った悲しみは海よりも深かったが、それ以上に後悔に押し潰されそうになっていた。
大崎一族と姫川一族の因縁は深い。
そして長い。だから、大崎家には代々言い伝えられてきたのだ。
“大崎一族の者と姫川一族の者は惹かれ合いながらも結ばれない運命”なのだと。
自分もまたその一人であった。だから二人の息子たちには同じ運命を辿らせたくなくてなるべく会わせないように配慮してきた。かといって、葬儀に連れていかないわけにはいかない。何故なら、息子たちは幼いときに母親を喪っており片親だったからだ。
自分が良い親だとは思わないが、なるべく子供たちの傍にいるべきだとおもったし、将来結婚の約束をした相手でもあるから連れていったのだ。参列者はそれなりにいたので、彼らが出会してしまうとは思っていなかったのである。
まだ下の子はいい。
お互い五つだから、忘れてしまうことがあるかも知れないし、まだまだこれからだ。しかし、上の子は八つだ。そして相手は高校生。
歳の差がありすぎるから、あの子が追いつく前に恋人が出来てしまうかもしれない。
奏は、頭を抱えた。
長男の名は圭一。弟の面倒をよく見てくれるしっかりした子だが、あまり人に関心のない子であった。その理由はきっと、病床の妻に“圭一、私がいなくなったら久隆のことお願いね”と言われていたからに違いない。
妻は圭一を一人前として扱い、良くできた子に育てた。その事にはとても感謝しているのだが、大人びているためか同級生の友人が出来にくかった。心配していた矢先に今回の出来事が重なったのだ。
圭一が真咲の弟を見る目はまさに“恋”のそれであった。久隆以外で自分から興味を持ち、寄り添い慰めるなど初めてのことであった。確かに、大崎邸の従業員に対しても思いやりはあるのだが、それは身内と変わらない。どうしたものか、奏は頭を悩ませていた。
もし、あの子の気持ちがこの先も変わることがなければ...。自分に出来ることがあるのなら、何かしてあげたい。
奏はそんな事を思っていたのだった。
side:都筑━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
9月の初め、歳の離れた最愛の兄が交通事故で帰らぬ人となった。
雨の日だった。
兄は、恋人といづれ結婚しようと約束したまま、約束の日からたった二年で彼を残して逝ってしまった。雨はまるで兄の死で心が砕かれた恋人の涙のように、葬儀の日まで僕らを濡らし続けた。まさか葬儀の日に生涯狂おしいほど、恋焦がれることとなった相手と出逢うとは思ってはいなかった。
彼の名は“大崎 圭一”兄の恋人の長男で当時まだ八つ。僕は八年後、彼に再会し恋に落ちることとなった。
『お兄さん大丈夫?』
当時からしっかりとした子ではあった。子供用の喪服を身に纏ったその姿は、まるで“漆黒の天使”。
『姫川 真咲(まさき)さんの弟?』
『都筑』
やっとで告げた自分の名前。
僕は当時、高校二年生。十近くも歳の違う少年はずっと側で僕を慰めてくれていた。彼はそれ以来、黒ばかり身に付けるようになったことを知るのはまだ先のこと。
「圭一さん、どうしていつも黒のスーツばかり身につけているのですか?」
10年後、大学生一年生になった彼に問いかけた時、彼はこう言った。
“それはね、都筑。
あなたに俺のことを
忘れないでいて欲しかったからだよ”
と。
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side:奏 【望まない試練】
━━━━━━八年前。
愛した人を失った“大崎 奏(かなで)”は、その日社長室で一人頭を抱えていた。真咲を失った悲しみは海よりも深かったが、それ以上に後悔に押し潰されそうになっていた。
大崎一族と姫川一族の因縁は深い。
そして長い。だから、大崎家には代々言い伝えられてきたのだ。
“大崎一族の者と姫川一族の者は惹かれ合いながらも結ばれない運命”なのだと。
自分もまたその一人であった。だから二人の息子たちには同じ運命を辿らせたくなくてなるべく会わせないように配慮してきた。かといって、葬儀に連れていかないわけにはいかない。何故なら、息子たちは幼いときに母親を喪っており片親だったからだ。
自分が良い親だとは思わないが、なるべく子供たちの傍にいるべきだとおもったし、将来結婚の約束をした相手でもあるから連れていったのだ。参列者はそれなりにいたので、彼らが出会してしまうとは思っていなかったのである。
まだ下の子はいい。
お互い五つだから、忘れてしまうことがあるかも知れないし、まだまだこれからだ。しかし、上の子は八つだ。そして相手は高校生。
歳の差がありすぎるから、あの子が追いつく前に恋人が出来てしまうかもしれない。
奏は、頭を抱えた。
長男の名は圭一。弟の面倒をよく見てくれるしっかりした子だが、あまり人に関心のない子であった。その理由はきっと、病床の妻に“圭一、私がいなくなったら久隆のことお願いね”と言われていたからに違いない。
妻は圭一を一人前として扱い、良くできた子に育てた。その事にはとても感謝しているのだが、大人びているためか同級生の友人が出来にくかった。心配していた矢先に今回の出来事が重なったのだ。
圭一が真咲の弟を見る目はまさに“恋”のそれであった。久隆以外で自分から興味を持ち、寄り添い慰めるなど初めてのことであった。確かに、大崎邸の従業員に対しても思いやりはあるのだが、それは身内と変わらない。どうしたものか、奏は頭を悩ませていた。
もし、あの子の気持ちがこの先も変わることがなければ...。自分に出来ることがあるのなら、何かしてあげたい。
奏はそんな事を思っていたのだった。
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