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5話『翻弄される俺たちの運命』
8 慣れていく異常な日常
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****♡Side・葵(婚約者)
──久隆くんには恋人が二人。
久隆は魅力的。二股より三股のほうが、諦めから嫉妬しないかもしれないと思った。
聖は背が高くてスタイルの良いイケメン。
咲夜は頭脳明晰で容姿端麗な中性的美人。
自分はよく女の子に間違えられてしまう小柄で女顔。タイプも違う。
「うん、いいよ」
言って、久隆にむぎゅっと抱きつく。
それに、自分には”甘え上手”という武器がある。直ぐに久隆を虜にする自信があった。二人には負けないよ、と。
「葵ちゃん、可愛い」
頭をなでなでしてくれる。子供扱いされるのは嫌ではなかった。
自分が特別扱いされる自信はあったが、こうもすんなりいくと逆に不安だ。
久隆にべったり甘え、咲夜に睨まれていると聖が、
「俺もここに住む」
と言い出した。
「え、ちょっ……聖?」
「二人に抜け駆けされたら、癪だし。部屋ならいっぱいあるんだろ? 久隆」
「それはまあ」
【大里聖】は大里グループの次期総裁となる人物。まだ高校生だが、いずれはそうなる。そんな彼が大崎グループの次期社長と恋人で、しかも同居となるとスキャンダルだ。両家が仲のいいことは身近な者なら知っている。
大崎グループの現社長の妹が大里グループ社長の妻と親友な上、その兄と短いながらも婚姻関係にあったのだから。
だが世間一般ではライバル会社。それなのに次期トップと社長(大崎グループのトップは会長)がそんなことになっているとなったら、好奇心の餌食となるのは免れない。
しかも久隆の婚約者は”倒産しかけた会社”の社長の一人息子。何を言われるかわかったもんじゃない。
「ならいだろ。久隆は三人を平等に回る。異論はないだろ? 姫川」
「うん、俺はいいよ。それで」
どうやら、二人は既に協定を結んでいるようだ。
葵は後れを取ったわけである。
「そう、じゃあ順番に一緒に寝たらいい?」
と困りながらも承諾する久隆。
聖は徐に立ち上がると、
「身の回り品、取ってくる」
と言って、ポケットからスマホを取り出す。
「俺も手伝おうか?」
と咲夜。
久隆は気づかなかったが、二人きりで話がしたいのだろうと葵は感じた。
「じゃあ、俺も」
と進言する久隆を、
「片倉は不慣れなんだ、一緒にいてやれよ」
と聖。
一見優しさに思えるが葵は予想が的中したと思っている。
「うん、じゃあ気を付けて」
と、久隆。
「いってらっしゃい」
と、葵。
二人は軽く手を挙ると部屋を出て行った。
「寂しいの? 久隆くん」
「ちょっとね。おいで、抱っこしてあげる。寂しいのは葵ちゃんも一緒でしょ」
彼はそう言って笑うと葵を膝の上に招く。葵は彼の膝に跨ると、親に甘える子供のように彼の首に両腕を回す。
「暖かいね」
と、彼。
「うん」
人の温もりは、寂しさを簡単に癒せるものなのかもしれないと葵は思っていたのだった。
****♡Side・咲夜(義弟)
「面倒なことになったな」
聖の荷物を取りに行くのを手伝うといった咲夜は、そう声をかけられ頷いた。
「そうだね」
大崎邸一階に着くと、
「あの子は純情そうだけど、したたかだよ」
と咲夜は思っていることを彼に告げる。
聖はエントランスを屋敷の出入り口ドアに向かいながら、スマホの画面を見た。
「何故、そう思う? 何かしたのか?」
と、聖が画面を見ながら。
「しようとしたけど、失敗した」
咲夜はあの日のことを思い出す。
『だめッ』
『キスはイヤ?』
顎をとり、口づけようとすると拒まれた。
『こんなことしちゃダメだよ」
怯えた声ではあったがはっきりとした拒絶だった。
『何故?』
『だって、久隆くんのこと好きなんでしょ?』
『だから?』
『誰とでもこんなことするのはダメだと思う』
「姫川さ。久隆のこと好きなの分かるけど、ちょっと手段を選ばなすぎる」
あの日のことを説明すると、聖は肩を竦めた。
「さすがに俺も、それはダメだと思うぞ?」
「は?」
ドアを開け外に出ると彼が呼んだのか車が待機していた。聖が車のドアを開け、どうぞと言うように咲夜を促す。咲夜は後部座席に乗り込んだ。
「俺にあんなことして置いて、大里が言うのか?」
咲夜は旅館で彼が自分にしようとしたことを思い出し、赤くなって悪態をつく。
自慰を手伝うと言ったのは何処のドイツだよ、と思いながら。
「あれはあれ」
──なんて奴だ。
「四人で上手くやっていけると思うか?」
と、聖。
「さあねえ。未知の世界だし」
「片倉はかなり空気読める奴だから、問題ないと思うが」
その言葉に、咲夜はムッとした。
「俺は空気読まないんじゃなくて、あえて空気読まないのッ」
「ふーん?」
彼は笑っている。
「どっちにしても、賑やかになりそうだな」
と、彼は窓の外に視線を移す。
──片倉葵は見た目からして可愛い。
小柄だし女の子みたいな容姿だし。
これじゃもう、甘える作戦は使えないかもしれない。
だが自分は久隆のにとって必要不可欠な存在のはずだ。自分がいなくなれば彼は壊れてしまう。それが運命の恋人の力。彼の快感を助長するのも、依存させるのも。自分無しではどうにもならない。
「大里は、どうするの?」
「どうもこうもないだろ?」
聖は大人だ。自分が初めから恋人であったはずなのに運命を受け入れ、婚約者も受け入れようとしている。
───違う。それでも久隆を失いたくないんだ。
ならば自分は?
三人の中でも一番有利な立場のはず。
本音を言えば抜け駆けしたいと思っている。自分の立場を揺るぎないものにしようと。
──久隆くんには恋人が二人。
久隆は魅力的。二股より三股のほうが、諦めから嫉妬しないかもしれないと思った。
聖は背が高くてスタイルの良いイケメン。
咲夜は頭脳明晰で容姿端麗な中性的美人。
自分はよく女の子に間違えられてしまう小柄で女顔。タイプも違う。
「うん、いいよ」
言って、久隆にむぎゅっと抱きつく。
それに、自分には”甘え上手”という武器がある。直ぐに久隆を虜にする自信があった。二人には負けないよ、と。
「葵ちゃん、可愛い」
頭をなでなでしてくれる。子供扱いされるのは嫌ではなかった。
自分が特別扱いされる自信はあったが、こうもすんなりいくと逆に不安だ。
久隆にべったり甘え、咲夜に睨まれていると聖が、
「俺もここに住む」
と言い出した。
「え、ちょっ……聖?」
「二人に抜け駆けされたら、癪だし。部屋ならいっぱいあるんだろ? 久隆」
「それはまあ」
【大里聖】は大里グループの次期総裁となる人物。まだ高校生だが、いずれはそうなる。そんな彼が大崎グループの次期社長と恋人で、しかも同居となるとスキャンダルだ。両家が仲のいいことは身近な者なら知っている。
大崎グループの現社長の妹が大里グループ社長の妻と親友な上、その兄と短いながらも婚姻関係にあったのだから。
だが世間一般ではライバル会社。それなのに次期トップと社長(大崎グループのトップは会長)がそんなことになっているとなったら、好奇心の餌食となるのは免れない。
しかも久隆の婚約者は”倒産しかけた会社”の社長の一人息子。何を言われるかわかったもんじゃない。
「ならいだろ。久隆は三人を平等に回る。異論はないだろ? 姫川」
「うん、俺はいいよ。それで」
どうやら、二人は既に協定を結んでいるようだ。
葵は後れを取ったわけである。
「そう、じゃあ順番に一緒に寝たらいい?」
と困りながらも承諾する久隆。
聖は徐に立ち上がると、
「身の回り品、取ってくる」
と言って、ポケットからスマホを取り出す。
「俺も手伝おうか?」
と咲夜。
久隆は気づかなかったが、二人きりで話がしたいのだろうと葵は感じた。
「じゃあ、俺も」
と進言する久隆を、
「片倉は不慣れなんだ、一緒にいてやれよ」
と聖。
一見優しさに思えるが葵は予想が的中したと思っている。
「うん、じゃあ気を付けて」
と、久隆。
「いってらっしゃい」
と、葵。
二人は軽く手を挙ると部屋を出て行った。
「寂しいの? 久隆くん」
「ちょっとね。おいで、抱っこしてあげる。寂しいのは葵ちゃんも一緒でしょ」
彼はそう言って笑うと葵を膝の上に招く。葵は彼の膝に跨ると、親に甘える子供のように彼の首に両腕を回す。
「暖かいね」
と、彼。
「うん」
人の温もりは、寂しさを簡単に癒せるものなのかもしれないと葵は思っていたのだった。
****♡Side・咲夜(義弟)
「面倒なことになったな」
聖の荷物を取りに行くのを手伝うといった咲夜は、そう声をかけられ頷いた。
「そうだね」
大崎邸一階に着くと、
「あの子は純情そうだけど、したたかだよ」
と咲夜は思っていることを彼に告げる。
聖はエントランスを屋敷の出入り口ドアに向かいながら、スマホの画面を見た。
「何故、そう思う? 何かしたのか?」
と、聖が画面を見ながら。
「しようとしたけど、失敗した」
咲夜はあの日のことを思い出す。
『だめッ』
『キスはイヤ?』
顎をとり、口づけようとすると拒まれた。
『こんなことしちゃダメだよ」
怯えた声ではあったがはっきりとした拒絶だった。
『何故?』
『だって、久隆くんのこと好きなんでしょ?』
『だから?』
『誰とでもこんなことするのはダメだと思う』
「姫川さ。久隆のこと好きなの分かるけど、ちょっと手段を選ばなすぎる」
あの日のことを説明すると、聖は肩を竦めた。
「さすがに俺も、それはダメだと思うぞ?」
「は?」
ドアを開け外に出ると彼が呼んだのか車が待機していた。聖が車のドアを開け、どうぞと言うように咲夜を促す。咲夜は後部座席に乗り込んだ。
「俺にあんなことして置いて、大里が言うのか?」
咲夜は旅館で彼が自分にしようとしたことを思い出し、赤くなって悪態をつく。
自慰を手伝うと言ったのは何処のドイツだよ、と思いながら。
「あれはあれ」
──なんて奴だ。
「四人で上手くやっていけると思うか?」
と、聖。
「さあねえ。未知の世界だし」
「片倉はかなり空気読める奴だから、問題ないと思うが」
その言葉に、咲夜はムッとした。
「俺は空気読まないんじゃなくて、あえて空気読まないのッ」
「ふーん?」
彼は笑っている。
「どっちにしても、賑やかになりそうだな」
と、彼は窓の外に視線を移す。
──片倉葵は見た目からして可愛い。
小柄だし女の子みたいな容姿だし。
これじゃもう、甘える作戦は使えないかもしれない。
だが自分は久隆のにとって必要不可欠な存在のはずだ。自分がいなくなれば彼は壊れてしまう。それが運命の恋人の力。彼の快感を助長するのも、依存させるのも。自分無しではどうにもならない。
「大里は、どうするの?」
「どうもこうもないだろ?」
聖は大人だ。自分が初めから恋人であったはずなのに運命を受け入れ、婚約者も受け入れようとしている。
───違う。それでも久隆を失いたくないんだ。
ならば自分は?
三人の中でも一番有利な立場のはず。
本音を言えば抜け駆けしたいと思っている。自分の立場を揺るぎないものにしようと。
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