44 / 45
5話『翻弄される俺たちの運命』
7 納得いかない婚約
しおりを挟む
****♡Side・久隆
久隆たちは、大崎邸二階のリビングルームに居た。
今、自分たちは家族会議と言っても良い状態にある。ソファーに腰かけた久隆と咲夜。向かい側には葵がちょこんと腰かけている。葵の後ろに立つ奏。久隆が座る三人掛けのソファーの後ろには圭一と聖が立っており、人避けをするために真咲は廊下へ続くリビングのドアの前に立っていた。
都筑は簡易キッチンでお茶の準備をしている。
「で?」
と圭一。
大学生でありながら大崎一族の中では大崎グループの会長よりも発言力を持っていた。久隆の兄、圭一は秘書として父の仕事を学んでいる最中であるが社内では社長の奏よりも注目もされているし、尊敬もされている。
「お兄ちゃんには、まだ話していなかったけれど」
久隆の父、奏は長男である圭一を”お兄ちゃん”と呼ぶ。
「片倉の奥さんが先日、マンションの方に来たんだ」
片倉は老舗の旅館を経営している会社だが、少しこだわりが過ぎるところがあり近年業績が悪化していた。このままでは倒産してしまうかも知れない、というところまで来ている。
簡潔に言えば、大崎グループに助けを求めて来たという事だ。何故ならば、資金援助を名乗り出た資産家が一人息子である葵を婚約者にという条件を出してきたからである。
葵は久隆の同級生。女の子のように小柄で可愛らしく、相手は二十以上も上だ。どう考えても慰みモノにするつもりにしか思えない。同性婚可能な世の中の落とし穴と言えよう。
とは言え片倉は従業員たちを路頭に迷わせるわけにはいかない。片倉の従業員は職人肌の者が多く、勤続何十年という者が大半だ。再就職ともなれば新しい環境に馴染むまでに時間がかかるであろう、どんなに腕が良くとも。
今、片倉の財政を支えているのは高級旅館でセレブ御用達の”クヌギ旅館”だ。個々の部屋に温泉風呂が設置されており、別館への通路から藤棚が眺めることの出来る、風流な旅館だ。
しかしながら系列の他の旅館は値段などが中途半端な状況。一般人にはリーズナブルとはいいがたく、セレブからは少し高級感が足りない。その為、業績は悪化の一途。改装するにも資金がない。正ににっちもさっちも状態。
片倉の武器と言えば、ワンマン社長にもかかわらず従業員たちの団結力の強さ。しかしそれを持ってもどうにもならないところまできてしまっていた。
奏は片倉の現状を説明し、
「うちが大里グループにも手を貸してもらい、片倉の立て直しに力を貸すことになったんだけど」
そこで都筑が皆に飲み物を配る。
「先方はこの子、葵ちゃんを諦めてはいないみたいなんだよ」
「は?」
圭一の不機嫌な声に奏が肩を竦めた。
「僕としては、そんなことは捨て置けない」
と、奏。
久隆はなんだか嫌な予感がした。
そして、
「久隆と婚約させることにした」
という奏の宣言に事情を知っている真咲、本人である葵以外が、
「えええええええ!」
とムンクの叫び声を上げたのは言うまでもない。
───何がどうなってるの⁉
****♡Side・聖(恋人)
確かに恋人は自分だったはずだ。
しかし今、久隆は婚約した。
さっきまでは彼の義理の弟が拉致されどこかに連れていかれ、彼の兄が救出したところなのに。
何がどうなって、今度は久隆が婚約することになったのかと思うと聖は頭痛がした。
「そう言う事だから」
と久隆の父がまとめようとしている。
──まて、それで済ませるつもりか⁈
他人の家の事情だ。口を出す方がオカシイのかもしれないが納得いかない。もちろん事情は理解したが。
ちらりと久隆の方に目を向けると何か考え込んでいるようだった。
「おい、親父。それで済ませるつもりじゃないだろうな」
久隆の兄、圭一が父の奏に詰め寄る。
そちらの方は任せるとこにして、自分たちで話し合いたいと思った。
「とりあえず、話しようか。葵ちゃん」
久隆も同じことを考えているのか、立ち上がると葵の元へ。
咲夜が久隆と相部屋をしているため、元咲夜に宛がわれた部屋が葵のものとなった。
「お部屋、ひろーい」
片倉の屋敷は純和風。ふかふかのベッドが気に入ったのか、彼はベッドに寝そべっている。
大里はウオークインクローゼットに葵のキャリーケースを一旦しまうと、彼らの元に戻る。
ベッドに腰かける久隆。一人用のソファーに膝を抱える咲夜。聖は咲夜の向かい側にある一人掛けのソファーに腰をおろした。
「えっと、どうして俺? 葵ちゃんって聖と……大里と仲良っかたよね」
確かにそれは聖も知りたいところである。葵には久隆と直接的な接点はなかったはずだ。
葵は身を起こすと、
「大里がね。すっごく嬉しそうに久隆くんの話ばかりするの」
と葵。
聖には身に覚えがある。とは言えそれがどう繋がるのか。
「写真見せてもらったら、すっごく可愛くて。話しを聞いているうちに自分も好きになっちゃった」
それは、小説やTVドラマで言うところの、主人公になり切る共感性ということか。あたかも自分が体験しているような気持ちといえばいいだろうか。
「そっか」
久隆は彼の気持ちを疑似体験だと否定はしなかった。恐らく自分の恋人に惚れられてしまうよりはマシだと思ったのだろう。
「葵ちゃんはお家が恋しくない?」
女の子のように華奢で可愛らしく、小柄な葵。
久隆は彼の強かさには気づかない。
「ちょっと寂しいけど、平気ッ」
父の決定を素直に受け入れたわけではなさそうだが。久隆は恋人がいる今、もし好きでもない、知りもしないオヤジと結婚させられそうになったならと自分に置き換えて考えているのだろう。
「俺には恋人も義弟もいて、どっちとも恋愛関係なんだけど。葵ちゃんはそういうの平気?」
久隆は彼を受け入れようとしていた。
その為のカミングアウト。今度は葵が驚く番だったのである。
久隆たちは、大崎邸二階のリビングルームに居た。
今、自分たちは家族会議と言っても良い状態にある。ソファーに腰かけた久隆と咲夜。向かい側には葵がちょこんと腰かけている。葵の後ろに立つ奏。久隆が座る三人掛けのソファーの後ろには圭一と聖が立っており、人避けをするために真咲は廊下へ続くリビングのドアの前に立っていた。
都筑は簡易キッチンでお茶の準備をしている。
「で?」
と圭一。
大学生でありながら大崎一族の中では大崎グループの会長よりも発言力を持っていた。久隆の兄、圭一は秘書として父の仕事を学んでいる最中であるが社内では社長の奏よりも注目もされているし、尊敬もされている。
「お兄ちゃんには、まだ話していなかったけれど」
久隆の父、奏は長男である圭一を”お兄ちゃん”と呼ぶ。
「片倉の奥さんが先日、マンションの方に来たんだ」
片倉は老舗の旅館を経営している会社だが、少しこだわりが過ぎるところがあり近年業績が悪化していた。このままでは倒産してしまうかも知れない、というところまで来ている。
簡潔に言えば、大崎グループに助けを求めて来たという事だ。何故ならば、資金援助を名乗り出た資産家が一人息子である葵を婚約者にという条件を出してきたからである。
葵は久隆の同級生。女の子のように小柄で可愛らしく、相手は二十以上も上だ。どう考えても慰みモノにするつもりにしか思えない。同性婚可能な世の中の落とし穴と言えよう。
とは言え片倉は従業員たちを路頭に迷わせるわけにはいかない。片倉の従業員は職人肌の者が多く、勤続何十年という者が大半だ。再就職ともなれば新しい環境に馴染むまでに時間がかかるであろう、どんなに腕が良くとも。
今、片倉の財政を支えているのは高級旅館でセレブ御用達の”クヌギ旅館”だ。個々の部屋に温泉風呂が設置されており、別館への通路から藤棚が眺めることの出来る、風流な旅館だ。
しかしながら系列の他の旅館は値段などが中途半端な状況。一般人にはリーズナブルとはいいがたく、セレブからは少し高級感が足りない。その為、業績は悪化の一途。改装するにも資金がない。正ににっちもさっちも状態。
片倉の武器と言えば、ワンマン社長にもかかわらず従業員たちの団結力の強さ。しかしそれを持ってもどうにもならないところまできてしまっていた。
奏は片倉の現状を説明し、
「うちが大里グループにも手を貸してもらい、片倉の立て直しに力を貸すことになったんだけど」
そこで都筑が皆に飲み物を配る。
「先方はこの子、葵ちゃんを諦めてはいないみたいなんだよ」
「は?」
圭一の不機嫌な声に奏が肩を竦めた。
「僕としては、そんなことは捨て置けない」
と、奏。
久隆はなんだか嫌な予感がした。
そして、
「久隆と婚約させることにした」
という奏の宣言に事情を知っている真咲、本人である葵以外が、
「えええええええ!」
とムンクの叫び声を上げたのは言うまでもない。
───何がどうなってるの⁉
****♡Side・聖(恋人)
確かに恋人は自分だったはずだ。
しかし今、久隆は婚約した。
さっきまでは彼の義理の弟が拉致されどこかに連れていかれ、彼の兄が救出したところなのに。
何がどうなって、今度は久隆が婚約することになったのかと思うと聖は頭痛がした。
「そう言う事だから」
と久隆の父がまとめようとしている。
──まて、それで済ませるつもりか⁈
他人の家の事情だ。口を出す方がオカシイのかもしれないが納得いかない。もちろん事情は理解したが。
ちらりと久隆の方に目を向けると何か考え込んでいるようだった。
「おい、親父。それで済ませるつもりじゃないだろうな」
久隆の兄、圭一が父の奏に詰め寄る。
そちらの方は任せるとこにして、自分たちで話し合いたいと思った。
「とりあえず、話しようか。葵ちゃん」
久隆も同じことを考えているのか、立ち上がると葵の元へ。
咲夜が久隆と相部屋をしているため、元咲夜に宛がわれた部屋が葵のものとなった。
「お部屋、ひろーい」
片倉の屋敷は純和風。ふかふかのベッドが気に入ったのか、彼はベッドに寝そべっている。
大里はウオークインクローゼットに葵のキャリーケースを一旦しまうと、彼らの元に戻る。
ベッドに腰かける久隆。一人用のソファーに膝を抱える咲夜。聖は咲夜の向かい側にある一人掛けのソファーに腰をおろした。
「えっと、どうして俺? 葵ちゃんって聖と……大里と仲良っかたよね」
確かにそれは聖も知りたいところである。葵には久隆と直接的な接点はなかったはずだ。
葵は身を起こすと、
「大里がね。すっごく嬉しそうに久隆くんの話ばかりするの」
と葵。
聖には身に覚えがある。とは言えそれがどう繋がるのか。
「写真見せてもらったら、すっごく可愛くて。話しを聞いているうちに自分も好きになっちゃった」
それは、小説やTVドラマで言うところの、主人公になり切る共感性ということか。あたかも自分が体験しているような気持ちといえばいいだろうか。
「そっか」
久隆は彼の気持ちを疑似体験だと否定はしなかった。恐らく自分の恋人に惚れられてしまうよりはマシだと思ったのだろう。
「葵ちゃんはお家が恋しくない?」
女の子のように華奢で可愛らしく、小柄な葵。
久隆は彼の強かさには気づかない。
「ちょっと寂しいけど、平気ッ」
父の決定を素直に受け入れたわけではなさそうだが。久隆は恋人がいる今、もし好きでもない、知りもしないオヤジと結婚させられそうになったならと自分に置き換えて考えているのだろう。
「俺には恋人も義弟もいて、どっちとも恋愛関係なんだけど。葵ちゃんはそういうの平気?」
久隆は彼を受け入れようとしていた。
その為のカミングアウト。今度は葵が驚く番だったのである。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる