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5話『翻弄される俺たちの運命』
4 ジェイソン大崎と呼ばれた兄
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****♡Side・咲夜
咲夜はベッドを背に膝を抱えていた。どんなにドアを叩いても。大きな声で叫んでもドアが開くことはなく、憔悴しきっている。まるで麻薬を抜くかのように、しばらくここへ閉じ込められるのかと思うと頭がおかしくなりそうだ。
──俺がいけないの?
恋人がいることを知りながらも久隆を求めたことを父は怒っているのだろうか?
自分は、諦めるという選択をするべきだったのだろうか。どんなに考えても諦めるという選択肢を選ぶことは出来なかった。
今だって心も身体も彼を求め、悲鳴を上げているのだ。今すぐ彼の腕に抱かれ、気が狂うほど求められたいと感じている。
「欲しい……久隆が」
先日の温泉旅館でのことを思い出し、ぎゅっと目を閉じた。隣には父たちがいるのだ。熱いこの身を癒すことなどできない。もし気づかれでもして代わりの者を宛がわれた日には、発狂してしまうかもしれない。
それほどまでに、咲夜の父に対する信頼は失墜している。
今は来るかどうかも分からない義兄に賭けるしかないのだ。連れ去られる時の久隆のことを思い出す。冷静さの欠片もなくしていた彼には、義兄に助けを求めると言う判断は出来ないだろう。
しかし聖なら……と咲夜は思う。
とは言え、咲夜がいなくなれば、実質彼は久隆を独り占めできる。
──俺ごと受け止めるといった大里を、俺は信じたい。
大里は気づいているはずだ。久隆は咲夜の【運命の恋人】の力によって体に変化を起こしていることを。
彼は無能でないし、久隆を何よりも優先する。久隆が落胆することを一番望んでいないのは聖だ。
今の自分たちには互いの力が必要に思えた。利害の一致と言えば、冷たい印象を持つかもしれないが、久隆を愛するためには互いが必要だった。
それでも今夜はここで寝ることになるかもしれないとあきらめかけた時、不意に外が騒がしくなる。ハッとして立ち上がる咲夜。
ドアに耳を充て、向こうの部屋の様子を窺う。
それは確かに義兄、圭一の声であった。
『咲夜を何処にやったんだ、答えろ親父!』
『ちょっ……圭一くん、何で斧なんか持って』
不穏な空気であったが、咲夜にとってそれは希望の光。
──お義兄ちゃんだ! 助けに来てくれたんだ。
「圭一さ……おにいちゃん‼‼‼‼」
咲夜はドアを叩きながら、精一杯叫んだ。
『咲夜。咲夜、そこにいるのか?』
「助けてっ。ここから出して!」
圭一の後ろで何やら揉めている声がする。彼が鍵を開けるように言っているようだ。
要領を得ない義父と開けさせまいとする実父。
『ああ、そうかよ』
と投げ捨てるように言う、彼。
もしかしたら、見捨てられるのかもしれないと咲夜は怖くなる。
しかし、次の瞬間。
『咲夜ああああっ! ドアから離れろ‼‼』
と、言う怒鳴り声が聞こえ、
咲夜は慌ててドアから部屋の端まで走った。てっきりドアに体当たりをすると思っていたが、目に入ったのは斧の刃先である。
『圭一くん⁉』
義父の素っ頓狂な声。
圭一は止めるのも聞かずドアを破壊し、咲夜の元へ。
──わ、ワイルド過ぎる。
流石に驚いた咲夜であったが、義兄が両手を拡げ、
「おいで」
と優しい顔をしたので、安堵に涙が零れその胸に飛び込んだのだった。
「もう、大丈夫だ。お家へ帰ろうな」
「おにいちゃんっ」
「久隆も待ってるから」
「うん」
恐らく圭一に連絡したのは聖だろう。
彼は嘘をつかない。信頼に足る人物。
ライバル視していた聖に対して、彼もまた自分にとって大切な存在だと咲夜は感じ始めていた。
咲夜はベッドを背に膝を抱えていた。どんなにドアを叩いても。大きな声で叫んでもドアが開くことはなく、憔悴しきっている。まるで麻薬を抜くかのように、しばらくここへ閉じ込められるのかと思うと頭がおかしくなりそうだ。
──俺がいけないの?
恋人がいることを知りながらも久隆を求めたことを父は怒っているのだろうか?
自分は、諦めるという選択をするべきだったのだろうか。どんなに考えても諦めるという選択肢を選ぶことは出来なかった。
今だって心も身体も彼を求め、悲鳴を上げているのだ。今すぐ彼の腕に抱かれ、気が狂うほど求められたいと感じている。
「欲しい……久隆が」
先日の温泉旅館でのことを思い出し、ぎゅっと目を閉じた。隣には父たちがいるのだ。熱いこの身を癒すことなどできない。もし気づかれでもして代わりの者を宛がわれた日には、発狂してしまうかもしれない。
それほどまでに、咲夜の父に対する信頼は失墜している。
今は来るかどうかも分からない義兄に賭けるしかないのだ。連れ去られる時の久隆のことを思い出す。冷静さの欠片もなくしていた彼には、義兄に助けを求めると言う判断は出来ないだろう。
しかし聖なら……と咲夜は思う。
とは言え、咲夜がいなくなれば、実質彼は久隆を独り占めできる。
──俺ごと受け止めるといった大里を、俺は信じたい。
大里は気づいているはずだ。久隆は咲夜の【運命の恋人】の力によって体に変化を起こしていることを。
彼は無能でないし、久隆を何よりも優先する。久隆が落胆することを一番望んでいないのは聖だ。
今の自分たちには互いの力が必要に思えた。利害の一致と言えば、冷たい印象を持つかもしれないが、久隆を愛するためには互いが必要だった。
それでも今夜はここで寝ることになるかもしれないとあきらめかけた時、不意に外が騒がしくなる。ハッとして立ち上がる咲夜。
ドアに耳を充て、向こうの部屋の様子を窺う。
それは確かに義兄、圭一の声であった。
『咲夜を何処にやったんだ、答えろ親父!』
『ちょっ……圭一くん、何で斧なんか持って』
不穏な空気であったが、咲夜にとってそれは希望の光。
──お義兄ちゃんだ! 助けに来てくれたんだ。
「圭一さ……おにいちゃん‼‼‼‼」
咲夜はドアを叩きながら、精一杯叫んだ。
『咲夜。咲夜、そこにいるのか?』
「助けてっ。ここから出して!」
圭一の後ろで何やら揉めている声がする。彼が鍵を開けるように言っているようだ。
要領を得ない義父と開けさせまいとする実父。
『ああ、そうかよ』
と投げ捨てるように言う、彼。
もしかしたら、見捨てられるのかもしれないと咲夜は怖くなる。
しかし、次の瞬間。
『咲夜ああああっ! ドアから離れろ‼‼』
と、言う怒鳴り声が聞こえ、
咲夜は慌ててドアから部屋の端まで走った。てっきりドアに体当たりをすると思っていたが、目に入ったのは斧の刃先である。
『圭一くん⁉』
義父の素っ頓狂な声。
圭一は止めるのも聞かずドアを破壊し、咲夜の元へ。
──わ、ワイルド過ぎる。
流石に驚いた咲夜であったが、義兄が両手を拡げ、
「おいで」
と優しい顔をしたので、安堵に涙が零れその胸に飛び込んだのだった。
「もう、大丈夫だ。お家へ帰ろうな」
「おにいちゃんっ」
「久隆も待ってるから」
「うん」
恐らく圭一に連絡したのは聖だろう。
彼は嘘をつかない。信頼に足る人物。
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