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4話『自覚と協定』

5 聖の交渉【微R】

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 ****♡side・聖

「咲夜っ」
 部屋に戻るとドアを開けるのに反応したのか、土間からの上がり口で久隆は待っていた。咲夜一人だけだと思ったらしく彼にぎゅっと抱きつき、鍵をかける音で聖に気付く。
 聖が二人の横を通り過ぎようとすると久隆は聖の浴衣の袖を掴んだ。
「一緒だったの?」
「んー。たまたま自販機の前で逢ってな」
 ぽんぽんと久隆の頭を撫でるとペットボトルを軽く掲げる。久隆はそこで手を放す。聖がグラスを取りに行こうとしていることを察してのことだった。
 聖が座卓に三つのグラスを並べるのを見て、咲夜が久隆を中に促す。
 聖は居心地の悪さを感じ、テレビのスイッチへ手を伸ばしたのだった。

「ん? ここ座るのか?」
 久隆が迷わず自分の膝の上に座るのに聖は驚いて彼を見つめる。咲夜は気にせず飲み物をグラスに注いでいた。とても不思議な感じだ。
「なんだよ、眠い?」
「んーん」
 聖の膝に横すわりをして胸に頭を預ける彼が可愛らしい。咲夜が傍にいるというのに遠慮なく甘えてくるのが優越感だ。
「どうした、甘えて」
「だって、聖……今日ずっと他の人とばかり話してたから」
「ヤキモチ?」
「寂しい」

 久隆は電話をかけてきたあの日以来、とても素直だ。
 ずっと我慢していたのかなと思うと甘やかしたくなる。咲夜はというと、向かい側でテレビを観ていた。
 彼は対抗意識を燃やしてきたかと思えば、クールに振舞ったりと見ていて飽きない。恐らく咲夜は久隆の前では余裕なフリをする。聖は彼に対し、とてもプライドの高い奴だという印象を持った。

 ──俺様って感じだな。
  そういうの、嫌いじゃないけど。
  でも、そのポーカーフェイスを崩してやりたくなる。

「ん? 何か?」
 黒塗りの座卓に片肘を置き頬杖をついてテレビを眺めていた彼が聖の視線に気付く。
「いや、美人だなと思って」
「は?」
 ”バカにしてるの?”という反応が面白い。彼は中性的な美人だ、嘘は言っていない。
 しかし聖をライバルだと思っている為か、あたりが強い。
「もっと柔らかくした方がいいんじゃないのか?」
 久隆の髪を撫でながら、そう進言すると思いっきり嫌な顔をされた。聖は思わず肩で笑ってしまう。
「必要ない」
「へーへー」
 ”余計なこと言ってすまなかったな”と言えば、彼は殴るフリをして片手を振り上げたのだった。

   **・**

「寝ちゃったの?」
「ん」
 疲れたのか聖の腕の中で眠ってしまった久隆を布団まで連れて行くと、咲夜が後から隣の部屋にやってきて彼の顔を覗き込む。ふわりといい香りがして聖は思わず口元を押さえた。
 それは姫川一族特有の欲情の香。残念なことに大里一族にとってはそれほど毒ではないのだが。

 ──どちらかというとあの声がダメだ。
  恐らく、嗅覚より聴覚のほうが利くんだろう。

 あれから聖は大崎一族と姫川一族間の伝承について父の秘書に調べさせ、概要は学んだ。とはいえ、彼らの間でも深くは調べられてはいないらしく、表面的なことしか分からなかったが。
 その中で分かったのは大里一族は以前より二つの一族と交流があったものの、姫川一族の人間に惹かれた者はいなかったということである。

 仮に大崎一族と姫川一族が遺伝子的に遠いという理由で惹かれあっていたとしたならば、大里一族は姫川一族とはそこまで遠いわけではないという仮説が立てられた。

 ──もしくは、嗅覚がそんなに良くないということかも知れない。
  好きな匂いというのは環境で決まるものなのだろうか?
  個人個人で好きな匂いというものは違う。
  単に不一致なのかもしれない。
  しかし……。

「久隆、いい匂いがする」
 咲夜は久隆の傍らに座り彼の髪を撫でている。

『大崎一族と姫川一族の間で呼ばれている、惹かれ合う【運命の恋人】というのは互いの匂いがとても好きで、落ち着くのだそうです』

 聖は秘書の言っていた言葉を思い出しながら咲夜の綺麗な横顔を見ていると、悪戯がしたくなってしまった。
「ッ?!」
 聖は咲夜の背後にそっと腰をおろすと彼の腹の辺りに腕を回し引き寄せる。
「な……なに?」
「なあ、姫川」
 甘く鳴かせて、その高いプライドをズタズタにしてやりたい。あの夜のように。

   **・**

「ちょっ……どこ触って……大里ッ。やだっ!」
 咲夜の足の間に手を入れると本気で拒否され、聖は手を引っ込めた。
「なんでこんな意地悪するの……?」
 すすり泣く咲夜にドキリとする。
「酷いよ……。久隆の心独り占めしてるくせに、それだけじゃ足りないの?」
「悪い」

 ──独り占め?
  何言って……。

「俺だって久隆に好かれたい」
 ぽろぽろと涙を溢す咲夜。そこで初めて、彼が聖にツンツンした態度をとるのは強がりなのだと気付く。

 ──なんだよ、可愛いじゃん。

 聖は急に咲夜が可愛く思えてしまった。
「久隆は姫川のこと好きだろ?」
「俺とのエッチが好きなだけでしょ……」
「久隆が言ったのか?」
「久隆はそんなこと言わない……」
 唇を噛み締める彼は震えている。聖はなんだか切なくなってしまう。

 ──俺の勘が正しければ、姫川は久隆との性交に満足はしていないだろう。
  俺の知る限り、姫川が久隆に抱かれたのは一度だけ。
  欲求不満であってもおかしくない。

「久隆としたいんだろ」
「はぁ?!」
 胸に抱えられた咲夜が聖を振り返り眉を潜める。
「久隆に抱かれたいんだろ?」
「何言って……」
「協力してやるからさ、その代わり」
「ちょっと待てよ!」
 隣の部屋の明かりだけで薄暗い室内。胸に抱く彼は聖にもわかるほどいい匂いがして。
「協力ってなに?」
「久隆に姫川を抱かせてやる」
「正気か? 恋人なんだろ?」
 確かに自分でもおかしいのはわかっているが、咲夜が久隆に組しかれ甘い声で喘ぐのが見たかった。

 ****

「なあ、姫川。自慰してみろよ」
「は?」
 急に脈絡のないことを言われ咲夜が聖を見上げる。
「いいから」
 傍にはスヤスヤと眠る久隆がいて、腕の中には困惑する咲夜。
 聖はずっと久隆が咲夜に夢中になって自分のことなんて眼中になくなるのではと不安に感じていた。
 だが今は少し違う。

 ──俺は、姫川ごと全部……久隆を受け入れるよ。
  それが愛だと思うから。

「久隆の気持ち、知りたいんだろ? 協力してやるから」
「何言って……」
「しないなら、俺が代わりにしてやるよ」
 再び彼の足の間に手を伸ばす。
「やだっ……触るなってば」
「ほら、触ってみろよ」
 耳元で優しく囁くと
「おまッ……声良すぎ」
 何故か怒られた。

「すればいいんだろ?」
 咲夜は頬を染め、下着の上から自分自身に触れる。
「ちょ……なにッ」
 聖は咲夜の浴衣の裾をまくりあげると下着に手をかけた。咲夜が慌てる。
「脱げって」
「や……やめっ」
 嫌がる咲夜から下着を剥ぎ取ると彼は更に赤くなった。
「ついてるもの一緒なんだから、恥ずかしがるなよ」
「んんッ」

 ぐいっと咲夜の両股を拡げ、彼の手元を覗き込む。
「ほら」
「そんなじっと見るなよ」
「でも、見られた方が興奮するんだろ?」
 彼の鈴口は透明な滴でテラテラしていた。
「そんな変態じゃないっ……んんッ。やぁッ」
 聖が咲夜の浴衣の合わせから中に手を滑り込ませ、胸の飾りを優しく摘まむ。感度の良い咲夜が甘い声を上げた。

「俺は全部受け止める。だから、お前も覚悟決めろよ。俺は久隆と別れたくない。大崎一族と姫川一族の伝承の話は知っているが、そんなもので久隆を失いたくない」
「大里……」
「ずっと好きだったんだ。絶対に嫌だ。だから俺はお前ごと受け止めるから。姫川も俺を受け入れろ」
「はぁッ……んんッ」
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