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4話『自覚と協定』
4 理解できない彼【微R】
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****♡side・咲夜
「んんッ……ああッ」
対面騎乗位で三度ほど熱を放ったところで久隆はぐったりとした。咲夜は優しく抱きしめながらスピーカーに手を伸ばす。
流れ出す”trying Times”。優しい旋律が部屋を包んで、咲夜はため息をついた。久隆の体温は、触れているととても落ち着く。
──何度好きだと言われても、心が満たされない。
ねえ、ホントに俺の事が好き?
性交のうわ言。咲夜はそんな風に解釈して目を閉じた。そっと彼の背中を撫でれば、ちゃんとここに居ることを感じられるのに。
──心が満たされないから寂しい。
髪を撫でれば久隆が顔を上げた。まだ繋がっている部分を引き抜かなければいけないのに動きたくない。久隆が首を傾げた、どうしたの? というように。咲夜はただそっとその唇に口づける。
──どうしたら、君は手に入れられるの?
君が欲しいよ。
ちゅっと軽く、もう一度口づけて彼を見つめた。
「優しい曲。咲夜みたいだね」
ニコッと笑う彼が愛しい。
──ねえ。もし、大里より先に出逢っていたなら……。
君は俺を愛してくれた?
聞けるはずのない問いは沈黙の闇に溶けていく。不意に彼が両手で咲夜の頬を包んだ。そして彼から口づけをくれる。
「どうしてそんな悲しい顔をするの?」
久隆からの問いに答えられるはずなどなかった。彼の肩に顔を埋め苦しげに吐き出す。
「久隆が好きだよ」
と。
「!」
今度は彼が咲夜の後頭部を優しく撫でた。いいこいいこと、言うように。
「大好きだよ、咲夜」
──彼のくれる甘い響き。
どうしたら信じられるのだろう?
どうしたら救われるの?
ずっとグルグル考えてるんだよ。
「咲夜?」
不思議そうに声を掛けてくれる彼を強く強く抱き締めた。
まるで自分のものだというように。
誰にも渡すものかと言うように。
**・**
「久隆」
「うん?」
「ずっとこうしていたい」
頬を撫で、ちゅっ口づけると彼は困った顔をして、
「もっと、する?」
と。
きゅっと奥を締め付けてくる久隆に、咲夜は再び口づけた。
「もう少しこのままで」
「ん……」
久隆の匂いは咲夜を落ち着かせた。彼の髪を何度も撫で久隆の耳を噛む。
「あ……ッ」
「これ以上はしないから、怯えないで?」
「そんなんじゃ……」
久隆はむぎゅっと咲夜に抱きついた。愛しいというように彼の髪に口づける。
「交流会、宿泊の準備した?」
後頭部を撫でながら二泊三日の旅行の準備について問う。
「うん。浴衣とかあるからあまり荷物いらないんだって」
「そっか」
「咲夜も行くんでしょ?」
「うん」
聖と久隆を二人きりにしておきたくはなかった。
──大里は恋人だ。
自分が邪魔なのはわかっている。
でも。独り占めなんて許さない。
久隆は俺のものだ。
両家の者が認めた関係なんだ。
好かれている自信はない、けれども久隆が自分のものだという確信だけはあった。
聖が何を考えているのかまったく分からない状況で不安だけが募っていく。昼間、久隆と買い物中にチラリと見た週刊誌の記事には二人の噂話が載っていた。噂だと断言するのは父たちの話からだ。
しかし、あれを見ていなければここまで不安になることもなかった。
『大崎グループ次男と大里グループの長男は……』
いずれ婚姻する仲であると。二人の様子を見ている限り、付き合っていることを内緒にしているように見えた。まさか二人が交際を家族にカミングアウトするつもりでいるとは、思いもしなかったのである。
**・**
「何怒ってんだよ」
交流会先の旅館で久隆と聖、咲夜は同じ部屋となった。どこでもモテる聖に何故かイラつく。
聖が誰かに親しげに声をかけられるたび久隆が寂しそうな顔をするから。繋いだ手にぎゅっと力を入れ、感情を我慢する彼に咲夜は切なくなる。
咲夜は久隆を一人残して自動販売機に飲み物を買いに来た。
紅茶を二本購入し、腕に収めたところで聖に声をかけられる。
「怒ってないよ。もともとこういう顔なんで」
ツンとして返事をすると彼は、肩を竦めた。背が高くて、サラサラの金に近いストレートの髪。ひと言で言えば男らしいイケメンだ。引き締まっていて、胸板もある。
咲夜は中性的だといわれるので正直彼の体格は羨ましいと感じる。もし彼のようだったら久隆も振り向いてくれたのに、などと思ってしまうのだ。
「へえ」
余裕なところも。大人だなと思う。
「よくおモテになりますね」
嫌味の一つも言ってないとやってられない。咲夜の嫌味に彼はただ、ため息をついた。
「じゃあ、俺行くから」
「待てよ。俺も戻る」
そういうと彼はポケットから小銭を出して自動販売機に投入した。
今時珍しいなと、その仕草を見ていたのだが。
「ん? どした?」
片手をポケットに入れたまま取り出し口からペットボトル取り出す彼に、見惚れてしまっていた。何でもない仕草なのに。何でもさまになるのだなと、余計イラついた。
「なんでもない」
「なんでそんなツンツンしてるんだよ」
聖は横に並びながら不思議そうに問う。
「むしろ、なんで普通に居られるのか謎」
「そんな事言われてもな」
聖は困った顔をした。
「俺、大里の恋人とセックスしてるんだけど?」
「知ってる」
「久隆を取りたいと思ってるし」
「わかってる」
「なんで平気なんだよ」
咲夜がイラついて聖を見上げると、壁に押し付けられる。
「じゃあ、どうして欲しいんだよ」
耳元で囁かれ、背中に何かが駆け昇った。
「殴られたいのか?」
そこで咲夜は聖の胸板を押し、じっと彼の瞳を見つめると、
「眼中にないみたいでムカつくんだよ!」
と噛みついた。
しかし……。
「何言ってんだよ」
聖はフッと笑うと咲夜から離れ部屋に向かって歩き出す。
聖にまったく相手にされてないと思った咲夜は、悔しくなって慌てて彼を追いかけたのだった。
「んんッ……ああッ」
対面騎乗位で三度ほど熱を放ったところで久隆はぐったりとした。咲夜は優しく抱きしめながらスピーカーに手を伸ばす。
流れ出す”trying Times”。優しい旋律が部屋を包んで、咲夜はため息をついた。久隆の体温は、触れているととても落ち着く。
──何度好きだと言われても、心が満たされない。
ねえ、ホントに俺の事が好き?
性交のうわ言。咲夜はそんな風に解釈して目を閉じた。そっと彼の背中を撫でれば、ちゃんとここに居ることを感じられるのに。
──心が満たされないから寂しい。
髪を撫でれば久隆が顔を上げた。まだ繋がっている部分を引き抜かなければいけないのに動きたくない。久隆が首を傾げた、どうしたの? というように。咲夜はただそっとその唇に口づける。
──どうしたら、君は手に入れられるの?
君が欲しいよ。
ちゅっと軽く、もう一度口づけて彼を見つめた。
「優しい曲。咲夜みたいだね」
ニコッと笑う彼が愛しい。
──ねえ。もし、大里より先に出逢っていたなら……。
君は俺を愛してくれた?
聞けるはずのない問いは沈黙の闇に溶けていく。不意に彼が両手で咲夜の頬を包んだ。そして彼から口づけをくれる。
「どうしてそんな悲しい顔をするの?」
久隆からの問いに答えられるはずなどなかった。彼の肩に顔を埋め苦しげに吐き出す。
「久隆が好きだよ」
と。
「!」
今度は彼が咲夜の後頭部を優しく撫でた。いいこいいこと、言うように。
「大好きだよ、咲夜」
──彼のくれる甘い響き。
どうしたら信じられるのだろう?
どうしたら救われるの?
ずっとグルグル考えてるんだよ。
「咲夜?」
不思議そうに声を掛けてくれる彼を強く強く抱き締めた。
まるで自分のものだというように。
誰にも渡すものかと言うように。
**・**
「久隆」
「うん?」
「ずっとこうしていたい」
頬を撫で、ちゅっ口づけると彼は困った顔をして、
「もっと、する?」
と。
きゅっと奥を締め付けてくる久隆に、咲夜は再び口づけた。
「もう少しこのままで」
「ん……」
久隆の匂いは咲夜を落ち着かせた。彼の髪を何度も撫で久隆の耳を噛む。
「あ……ッ」
「これ以上はしないから、怯えないで?」
「そんなんじゃ……」
久隆はむぎゅっと咲夜に抱きついた。愛しいというように彼の髪に口づける。
「交流会、宿泊の準備した?」
後頭部を撫でながら二泊三日の旅行の準備について問う。
「うん。浴衣とかあるからあまり荷物いらないんだって」
「そっか」
「咲夜も行くんでしょ?」
「うん」
聖と久隆を二人きりにしておきたくはなかった。
──大里は恋人だ。
自分が邪魔なのはわかっている。
でも。独り占めなんて許さない。
久隆は俺のものだ。
両家の者が認めた関係なんだ。
好かれている自信はない、けれども久隆が自分のものだという確信だけはあった。
聖が何を考えているのかまったく分からない状況で不安だけが募っていく。昼間、久隆と買い物中にチラリと見た週刊誌の記事には二人の噂話が載っていた。噂だと断言するのは父たちの話からだ。
しかし、あれを見ていなければここまで不安になることもなかった。
『大崎グループ次男と大里グループの長男は……』
いずれ婚姻する仲であると。二人の様子を見ている限り、付き合っていることを内緒にしているように見えた。まさか二人が交際を家族にカミングアウトするつもりでいるとは、思いもしなかったのである。
**・**
「何怒ってんだよ」
交流会先の旅館で久隆と聖、咲夜は同じ部屋となった。どこでもモテる聖に何故かイラつく。
聖が誰かに親しげに声をかけられるたび久隆が寂しそうな顔をするから。繋いだ手にぎゅっと力を入れ、感情を我慢する彼に咲夜は切なくなる。
咲夜は久隆を一人残して自動販売機に飲み物を買いに来た。
紅茶を二本購入し、腕に収めたところで聖に声をかけられる。
「怒ってないよ。もともとこういう顔なんで」
ツンとして返事をすると彼は、肩を竦めた。背が高くて、サラサラの金に近いストレートの髪。ひと言で言えば男らしいイケメンだ。引き締まっていて、胸板もある。
咲夜は中性的だといわれるので正直彼の体格は羨ましいと感じる。もし彼のようだったら久隆も振り向いてくれたのに、などと思ってしまうのだ。
「へえ」
余裕なところも。大人だなと思う。
「よくおモテになりますね」
嫌味の一つも言ってないとやってられない。咲夜の嫌味に彼はただ、ため息をついた。
「じゃあ、俺行くから」
「待てよ。俺も戻る」
そういうと彼はポケットから小銭を出して自動販売機に投入した。
今時珍しいなと、その仕草を見ていたのだが。
「ん? どした?」
片手をポケットに入れたまま取り出し口からペットボトル取り出す彼に、見惚れてしまっていた。何でもない仕草なのに。何でもさまになるのだなと、余計イラついた。
「なんでもない」
「なんでそんなツンツンしてるんだよ」
聖は横に並びながら不思議そうに問う。
「むしろ、なんで普通に居られるのか謎」
「そんな事言われてもな」
聖は困った顔をした。
「俺、大里の恋人とセックスしてるんだけど?」
「知ってる」
「久隆を取りたいと思ってるし」
「わかってる」
「なんで平気なんだよ」
咲夜がイラついて聖を見上げると、壁に押し付けられる。
「じゃあ、どうして欲しいんだよ」
耳元で囁かれ、背中に何かが駆け昇った。
「殴られたいのか?」
そこで咲夜は聖の胸板を押し、じっと彼の瞳を見つめると、
「眼中にないみたいでムカつくんだよ!」
と噛みついた。
しかし……。
「何言ってんだよ」
聖はフッと笑うと咲夜から離れ部屋に向かって歩き出す。
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