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1話『一つに繋がる糸と運命』
4 傷ついた彼
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****♡side・久隆
聖の通う絵画教室からほんの少し離れた場所に車を停めてもらい、彼が出てくるのを待っていた。
聖は出てきたと思ったら同じ教室の子としばらくお喋りをしていて。
「久隆さま、声をかけなくて良ろしいのですか?」
運転手に問われ、
「少し待つよ」
と返事をすると俯いていた。
何の話をしているのか分からないが偉く真剣そうにも見える。とは言え、共通の習い事をしていればそれについて話をすることもあるだろう。そこは自分の入れない世界。
三分程度なのにえらく長く感じて、久隆はなんだかどす黒い感情に包まれるのを感じていた。相手の子のお迎えが来たのを確認して久隆は車を降りる。
「ごめん、またせ……」
「見てたの?」
最後まで言わせては貰えず、聖に腕をつかまれ引き寄せられて、久隆はその胸に抱き締められた。
──あの子と仲いいの?
楽しそうだったね。
言ってはいけないと言葉を飲み込む。
「今来たばかりだよ」
「なんで、嘘つくの? どうして声、掛けてくれなかったの?」
「……」
「久隆」
何故責められているのかわからない。
「声、掛け辛かっただけだ」
見上げれば口を塞がれる。
「んんッ」
歯を割って深く。
「今日、泊まっていってよ、俺の部屋に」
聖はじっと瞳を覗き込みそう言った。有無を言わせない強さがあって、頷くのがやっとだった。
──なにがいけなかったのか、分からないよ。
なにが君を傷つけたの?
ねえ、教えてよ
泣きたい気持ちで彼を見上げる。聖はマンションにつくまでただ隣の座席にすわる久隆の手を握り締めていたのだった。
「聖ッ……やめっ」
玄関に入るなり後ろから抱きつかれシャツの裾をたくし上げられる。
「イヤ?」
「ここじゃ、嫌だよ」
精一杯の抵抗。彼を傷つけたくなくて拒否できなかった。
「あ……」
軽々と抱き上げられて恥ずかしい気持ちになる。お姫様抱っこなんてと。久隆は見た目は可愛いが、自尊心の塊だった。
「聖、俺なにかした?」
「いや」
「じゃあ、どうしてそんな顔するんだよ」
ベッドにおろされ優しく抱きしめられると、どうしても知りたくなる。
「どんな顔?」
「傷ついた顔」
腕を解いた彼はじっと久隆を見つめるとそっとその頬を撫でる。愛しいというように。
「じゃあ、傷ついたんだろ」
「答えになってない」
抗議したって無駄なのかもしれない。彼は久隆の唇を奪うと背中を手の平で撫でる。暖かい手の平が背中を這うと久隆は彼にしがみついた。もっとというように。
「抱きしめてよ、聖」
唇が離れると久隆は彼を見上げて。
「ん」
まるで寒さを凌ぐように、暖め合うように抱き合って目を閉じる。
「聖が何を考えているのかわからないよ」
「別に、大したこと考えてない」
いつになく投げやりな聖。彼らしくなかった。それがこんなに不安になるなんてと。
久隆は心の中で深いため息をついた。
「なあ、聖。やっぱり父さんたちに付き合ってること話そうと思うんだけど」
それは彼との仲を深めるための選択。
不安になりたくないという気持ちもある。
「え?」
だが聖とおつきあいしていることは内緒にしているわけでも秘密にしているわけでもない。単純に仲を疑われたことがなくて言う機会を逃していただけに過ぎなかった。
公認の仲になれば何かが変わるだろうという期待もあって提案したが、彼が喜んでいるようには見えない。
「駄目なの?」
「いいけど、言うなら一緒に行くよ」
「何時空いてる?」
「両方いるのって金曜日の夜だっけ? 交流会で来週はいないから再来週かな?」
この判断が後に明暗を分けるなどとはこの時の二人には思いも寄らなかったのだった。
聖の通う絵画教室からほんの少し離れた場所に車を停めてもらい、彼が出てくるのを待っていた。
聖は出てきたと思ったら同じ教室の子としばらくお喋りをしていて。
「久隆さま、声をかけなくて良ろしいのですか?」
運転手に問われ、
「少し待つよ」
と返事をすると俯いていた。
何の話をしているのか分からないが偉く真剣そうにも見える。とは言え、共通の習い事をしていればそれについて話をすることもあるだろう。そこは自分の入れない世界。
三分程度なのにえらく長く感じて、久隆はなんだかどす黒い感情に包まれるのを感じていた。相手の子のお迎えが来たのを確認して久隆は車を降りる。
「ごめん、またせ……」
「見てたの?」
最後まで言わせては貰えず、聖に腕をつかまれ引き寄せられて、久隆はその胸に抱き締められた。
──あの子と仲いいの?
楽しそうだったね。
言ってはいけないと言葉を飲み込む。
「今来たばかりだよ」
「なんで、嘘つくの? どうして声、掛けてくれなかったの?」
「……」
「久隆」
何故責められているのかわからない。
「声、掛け辛かっただけだ」
見上げれば口を塞がれる。
「んんッ」
歯を割って深く。
「今日、泊まっていってよ、俺の部屋に」
聖はじっと瞳を覗き込みそう言った。有無を言わせない強さがあって、頷くのがやっとだった。
──なにがいけなかったのか、分からないよ。
なにが君を傷つけたの?
ねえ、教えてよ
泣きたい気持ちで彼を見上げる。聖はマンションにつくまでただ隣の座席にすわる久隆の手を握り締めていたのだった。
「聖ッ……やめっ」
玄関に入るなり後ろから抱きつかれシャツの裾をたくし上げられる。
「イヤ?」
「ここじゃ、嫌だよ」
精一杯の抵抗。彼を傷つけたくなくて拒否できなかった。
「あ……」
軽々と抱き上げられて恥ずかしい気持ちになる。お姫様抱っこなんてと。久隆は見た目は可愛いが、自尊心の塊だった。
「聖、俺なにかした?」
「いや」
「じゃあ、どうしてそんな顔するんだよ」
ベッドにおろされ優しく抱きしめられると、どうしても知りたくなる。
「どんな顔?」
「傷ついた顔」
腕を解いた彼はじっと久隆を見つめるとそっとその頬を撫でる。愛しいというように。
「じゃあ、傷ついたんだろ」
「答えになってない」
抗議したって無駄なのかもしれない。彼は久隆の唇を奪うと背中を手の平で撫でる。暖かい手の平が背中を這うと久隆は彼にしがみついた。もっとというように。
「抱きしめてよ、聖」
唇が離れると久隆は彼を見上げて。
「ん」
まるで寒さを凌ぐように、暖め合うように抱き合って目を閉じる。
「聖が何を考えているのかわからないよ」
「別に、大したこと考えてない」
いつになく投げやりな聖。彼らしくなかった。それがこんなに不安になるなんてと。
久隆は心の中で深いため息をついた。
「なあ、聖。やっぱり父さんたちに付き合ってること話そうと思うんだけど」
それは彼との仲を深めるための選択。
不安になりたくないという気持ちもある。
「え?」
だが聖とおつきあいしていることは内緒にしているわけでも秘密にしているわけでもない。単純に仲を疑われたことがなくて言う機会を逃していただけに過ぎなかった。
公認の仲になれば何かが変わるだろうという期待もあって提案したが、彼が喜んでいるようには見えない。
「駄目なの?」
「いいけど、言うなら一緒に行くよ」
「何時空いてる?」
「両方いるのって金曜日の夜だっけ? 交流会で来週はいないから再来週かな?」
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