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1話『一つに繋がる糸と運命』
3 理想が高い?
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****♡side・聖
『今日の習い事はなんだよ』
「ペン字と絵画」
呆れを含んだ久隆の声に、聖は抑揚のない声でポツリと返す。
習い事の休憩がてらにかけた電話の相手は、いつだって変わらない態度。
そんな時は自分ばかり夢中な気がしてしまう。
「久隆に会いたいよ……」
思わず口を出てしまった言葉に、彼が息を呑むのが分かった。きっと馬鹿だと思われているのだろう。
しまった、と思ったが遅かった。
そもそも久隆は聖がたくさんの習い事をしていることに対して好意的ではない。
そして聖は好き好んでたくさんの習い事をしているのだ。彼に逢う時間がないほどに。
だから逢えなくても自業自得。それなのに『会いたい』などと言えば彼が怒るのも無理はない。久隆に好かれたい一心で頑張ってはいるが、完全にストレスになっている。そんなことに気づかれようものなら、また怒らせてしまうだろう。
びくびくしていると、
『何時に終わるんだ?』
予想外の言葉が返ってくる。
「あと三十分くらい」
『迎えに行くよ』
冗談かと思った。彼がそんなことを言うなんてと。
久隆が聖に対して塩なのは今に始まったことではない。
自分に対して媚びてくる者はいくらでもいるが、彼にとっては聖の容姿も育ちも魅力にはならないのだろう。だからこそこうして彼に好かれるために頑張るしかない。
「あれ? いつものお迎えまだなの?」
声をかけてきたのは、よく習い事先で会う他校の生徒であった。名を【片倉葵】という。とても可愛らしい子である。
「ママの車でついでに送ってあげようか?」
「ううん、ありがとう」
「大里でしょ? K学園の」
よく知っているなあと思ったが、制服で分かるし習い事先で名前も呼ばれる。こっちが彼を知っているように、相手が聖の名前くらい知っていてもおかしくはなかった。
「大里っていっぱい習い事してるんだね」
「そっちもだろ」
「俺は、仕方なく。大里はやっぱり家柄がいいから?」
聞かれて聖は首を横に振る。
「じゃあ、趣味?」
「ちがうよ、好きな人に好かれたいから」
素直な気持ちを告げれば、驚いた顔をされる。
「随分と理想の高い人なんだね」
と。
──理想が高い?
それは大里にとって意外な言葉であった。
「な、なあ。それってどういう意味?」
「どういう意味って、そのままの意味だけど」
”色んなことが出来ないと好きになって貰えないってことなんでしょう?”と彼は続けて。
そこで聖は久隆に言われたことを思い出す。
『何になりたいんだよ』
久隆にとって習い事は職に繋がる何か。だから彼はそういったに違いない。
『久隆の旦那』
と答えた自分に対し、彼は『馬鹿なのか?』と呆れ顔をしていたはずだ。自分はあの時、本気で言ったことに対してバカ扱いされたと傷ついた。だが葵の言葉の意味を考えると違う受け取り方ができる。
つまり……
『俺の旦那になるのにそんなに習い事は必要なのか?』
と言うことだ。
となると、『そんなに必要ないだろ。馬鹿なのか?』というのが正しい解釈なのだろう。
──それでも自分には自信がない。
他の人を魅了するスペックは久隆には通用しないのだから。
葵は”色んなことが出来ないと好きになって貰えないってことなんでしょう?”と解釈したが、”色んな事ができないと自信が持てない”と言うのが自分。
「大里」
「うん?」
「好きな人に振り向いて欲しくて努力することは間違ってないと思うよ」
”でもね”と彼は続ける。
「そこまでしなければならないの?」
「これは俺の……俺自身の問題で」
「大里が望んでしていることなら止めないけど、そのままの自分を愛してくれる人を好きになった方が幸せだと思うよ」
それは正論だと思った。けれども自分は久隆を諦めることなんてできない。
それだけは……。
『今日の習い事はなんだよ』
「ペン字と絵画」
呆れを含んだ久隆の声に、聖は抑揚のない声でポツリと返す。
習い事の休憩がてらにかけた電話の相手は、いつだって変わらない態度。
そんな時は自分ばかり夢中な気がしてしまう。
「久隆に会いたいよ……」
思わず口を出てしまった言葉に、彼が息を呑むのが分かった。きっと馬鹿だと思われているのだろう。
しまった、と思ったが遅かった。
そもそも久隆は聖がたくさんの習い事をしていることに対して好意的ではない。
そして聖は好き好んでたくさんの習い事をしているのだ。彼に逢う時間がないほどに。
だから逢えなくても自業自得。それなのに『会いたい』などと言えば彼が怒るのも無理はない。久隆に好かれたい一心で頑張ってはいるが、完全にストレスになっている。そんなことに気づかれようものなら、また怒らせてしまうだろう。
びくびくしていると、
『何時に終わるんだ?』
予想外の言葉が返ってくる。
「あと三十分くらい」
『迎えに行くよ』
冗談かと思った。彼がそんなことを言うなんてと。
久隆が聖に対して塩なのは今に始まったことではない。
自分に対して媚びてくる者はいくらでもいるが、彼にとっては聖の容姿も育ちも魅力にはならないのだろう。だからこそこうして彼に好かれるために頑張るしかない。
「あれ? いつものお迎えまだなの?」
声をかけてきたのは、よく習い事先で会う他校の生徒であった。名を【片倉葵】という。とても可愛らしい子である。
「ママの車でついでに送ってあげようか?」
「ううん、ありがとう」
「大里でしょ? K学園の」
よく知っているなあと思ったが、制服で分かるし習い事先で名前も呼ばれる。こっちが彼を知っているように、相手が聖の名前くらい知っていてもおかしくはなかった。
「大里っていっぱい習い事してるんだね」
「そっちもだろ」
「俺は、仕方なく。大里はやっぱり家柄がいいから?」
聞かれて聖は首を横に振る。
「じゃあ、趣味?」
「ちがうよ、好きな人に好かれたいから」
素直な気持ちを告げれば、驚いた顔をされる。
「随分と理想の高い人なんだね」
と。
──理想が高い?
それは大里にとって意外な言葉であった。
「な、なあ。それってどういう意味?」
「どういう意味って、そのままの意味だけど」
”色んなことが出来ないと好きになって貰えないってことなんでしょう?”と彼は続けて。
そこで聖は久隆に言われたことを思い出す。
『何になりたいんだよ』
久隆にとって習い事は職に繋がる何か。だから彼はそういったに違いない。
『久隆の旦那』
と答えた自分に対し、彼は『馬鹿なのか?』と呆れ顔をしていたはずだ。自分はあの時、本気で言ったことに対してバカ扱いされたと傷ついた。だが葵の言葉の意味を考えると違う受け取り方ができる。
つまり……
『俺の旦那になるのにそんなに習い事は必要なのか?』
と言うことだ。
となると、『そんなに必要ないだろ。馬鹿なのか?』というのが正しい解釈なのだろう。
──それでも自分には自信がない。
他の人を魅了するスペックは久隆には通用しないのだから。
葵は”色んなことが出来ないと好きになって貰えないってことなんでしょう?”と解釈したが、”色んな事ができないと自信が持てない”と言うのが自分。
「大里」
「うん?」
「好きな人に振り向いて欲しくて努力することは間違ってないと思うよ」
”でもね”と彼は続ける。
「そこまでしなければならないの?」
「これは俺の……俺自身の問題で」
「大里が望んでしていることなら止めないけど、そのままの自分を愛してくれる人を好きになった方が幸せだと思うよ」
それは正論だと思った。けれども自分は久隆を諦めることなんてできない。
それだけは……。
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