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2023’11

一蓮托生(いちれんたくしょう)

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 大田康湖 様作

 手を取り合って、苦しい時代を超えて行け。
 胸が締め付けられるような愛、必死に生きる彼らの物語。

【物語は】
 太平洋戦争の終戦の二年後が舞台。
 主人公の『かつら』が闇市にて弟のズックを購入し勤め先に急いでいたところ、何者かに体当たりされその反動で購入したズックの包みを落としてしまう。
 それを拾ってくれたのが先日勤め先の一つで出会った青年だったのである。この再会が彼女に齎す運命とは?

【物語の舞台について】
 戦争にて家族を失い弟と二人、元は家のあった場所に焼け残りの木材やトタンで作ったバラックで暮らしていた。
 終戦から二年も経つのにこのような暮らしをしている人が多いことから、復興はなかなか進んでいないということが伺える。暮らしは豊かではないし、モノが欲しくても手に入り辛い。
 お金があっても、商品がなくて買えないという経験は現代でも経験したことがあるのではないだろうか?
 個人的には卵で経験をしたことがあるので、それが日常的にすべての分野において物資不足であることがどれだけ大変なことなのか想像はできる。

 この作品を読んでいて感じるのは、確かに悪い奴もいるが人々は助け合って生きているということ。同じ経験をしたからこそというのもあるが、心は豊かだったし慈愛に満ちているとも思う。家族が大切であるという心が痛いほど伝わってくるのである。

【横澤姉弟】
 主人公の苗字は横澤。
 この物語では主人公にぶつかってきた人物とその目的が、早々に明かされている。内容を知ると酷いなとも思うが、その手伝いをさせられている人物には同情もしてしまう。
 皆が皆、貧困で必死に生きていたのだ。そういう背景があったからこそ、弟は犯罪に巻き込まれてしまったのかもしれない。
 この姉弟は互いを思いやっていて、かつらは弟を一人前に育てるため仕事を掛け持ちし働いている。一方弟はそんな姉の苦労を知ってか鉄くず拾いをしてお金を稼いでいた。
 だが間もなく、健気に生きている二人を暗転させてしまう事件が起きる。

【物語の魅力や見どころなど】
 この作品はこの時代背景だからこそ考えさせられる部分もあるし、切なく胸が締め付けられる場面も多いと思う。
 皆が生きるのに必死だった。そういう経緯もあって見逃された部分もあるだろう。(これは主に作中の犯罪に関して)
 そんな中で描かれるヒューマンドラマである。
 
 物語から学ぶことも非常に多い。
 互いに心配をかけたくないという想いから、話さずにいたことですれ違い事件に発展していく。秘密を抱えていたのは何も横澤姉のみではない。
 二人はいろんな人物と関わり、次第に絆も築いていく。
 信頼関係を深めることができたから、最悪の結末を避けることができたのだろうとも思う。優しさだけでは解決できなかったこともある。
(何を指しているのかは、読まないと分からないかもしれないが)

 主人公の弟には非常に魅力的な印象を受けるが、必然性の繋がりによって彼の良さが引きたてられた面もあるようだ。
 その他にも、この時代に詳しくなくとも説明にて補足などがあるのでとても分かりやすい、想像しやすいのが特徴。
 作風に関してもかなり魅力的な作品だと思う。これは好みがあるかもしれないが、文学小説が好きな方にはぜひお奨めしたい。
 
 この時代を通して繰り広げられるヒューマンドラマ、ぜひあなたも読まれてみませんか? 
 恋愛も含んだ物語であり、家族愛、助け合いの精神、人を許すこと。ハラハラドキドキ、そして涙あり感動ありの物語。お奨めです。
 
(備考:46.蓮の花揺れてまで読了でのレビューです)
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