上 下
64 / 305
2021’4

咲夜。人の寿命が見える私と、来年までに死ぬ彼の話。

しおりを挟む
木立 花音 様作

【あらすじ引用】
加護咲夜(かごさくや)、高校一年生。
 彼女には、不思議な能力があった。それは、他人の寿命が〝年数〟で見えること。彼女には大きな未練があった。それは、寿命一年である事を知りつつ見過ごしたことで、とある女性を救えなかったことだ。

 咲夜は高校の入学式の朝、屋上から空を見上げる男子生徒の姿を見かける。なんとなく視界の隅に入った彼、今泉京(いまいずみきょう)の寿命は──〝一年〟だった。

 先輩が来年までに死んでしまう運命を変えられた時、私が背負った罪の十字架も下りるのかな?
 次々現れる寿命一年の人物を救いながら辿り着いた世界で、ついに咲夜は彼の死の間際に直面する。

「先輩──!」

 伸ばしたその手は届くのか──。
 偽善か──それとも贖罪か。死神の目の使い方。

【物語は】
それはある真夏日のこと。主人公がある一角を見つめながら、自分の不思議な能力について思案する場面から始まる。そしてこの日、主人公が自分の不思議な能力はどんなものなのか理解した日でもあったのだ。
冒頭で彼女が見たのは過去の出来事であり、悪夢。恐らくその日からずっと、罪悪感を抱えたまま、生きてきたのではないだろうかと想像する。
主人公がその罪悪感から、解放される日は来るのだろうか?

【世界観・舞台・オリジナル設定について】
主人公の不思議な能力は、寿命が見えてしまうこと。どうやらそれは頭の上に表示されてしまうようで、彼女にしか見えない。その為、家族にすら信じて貰えず幻想や幻覚の類だと思われ、病院に連れていかれたこともあるようだ。

寿命が数字として見えることで、彼女は数字に執着してしまう癖がある。しかし、これは仕方がないと言えよう。そのせいで人間関係がうまく行かなかったとしても。
そして、この不思議な能力には見えること以外、付属されていることが無い。例えば詳細な時期や死因が分かるなど。こう考えると、中途半端な能力であり、人を救おうとしても難しいのではないかと思ってしまう。

そんな彼女には、両親でさえ信じてはくれないこの不思議な能力を、信じてくれる親友がいる。この世界の中で、彼女は主人公にとってオアシス的な存在なのではないかと感じた。

主人公は高校の入学式に寿命が一年の先輩に遭遇。寿命が一年であり、遭遇した場所が場所なだけに、自殺でもするのではと思ってしまう。彼はその時は否定しているが、だからと言って安心することは出来ない。
果たして主人公は、彼の運命を変えることが出来るのだろうか。

【主人公と彼女を取り巻く環境と、物語の魅力】
舞台は主に、学校。主人公は、寿命一年の先輩のことが気がかりのようである。しかし相手は、学年も名前も知らない人物。探さがすは大変そうだなと思っていると、この後彼女に転機が訪れることとなる。
話の流れから再会できたのは、色んな偶然の積み重ねのように感じた。

この物語は寿命が見えてしまう為に、見過ごした命に対して罪悪感を抱えている少女が、主人公である。もし普通の人のように、寿命が見えることが無ければ、そんな気持ちを抱えずに済んだと思われる。
しかし見過ごしたことを悔いるのは分かるが、その死は彼女のせいではないのだ。このような背景により、全体に暗く重い話だと思いがちだが、そんなことはない。

彼女たちは一般的な高校生と同じような、学校生活を送っている。なので、物語の中には笑いも含まれるし、不思議な能力以外のことで、当然ながら悩みを抱えることもある。特に人に言うことのできないことを誤魔化す時は、大変そうだなと感じた。あまり詳しく言ってしまうと、ネタバレになってしまうので、ここに書くことは出来ないが。

この後、主人公は自分の能力について新たな発見をすることになる。これもまた、部活の説明を聞いた後だったから遭遇したと考えると、ある意味運命の悪戯と言えるのかも知れない。
この出来事は、”寿命が見えるだけ”と思っていた主人公にとって希望の光となるのだ。

【物語の見どころ】
情景や状況がしっかりと目に浮かぶ丁寧な描写が印象的な始まりから、彼女の独白、罪の意識が夢によって明確になる。まだ小学生であるにも関わらず、しかも直接の死因が自分にあるわけでもないのに、主人公は重い十字架を背負うように、過去を引きずることになる。
彼女は過去の罪から逃れたいのだろうか、それとも誰かを救うことで過去の罪から救われたいのだろうか。この物語は不思議な能力を持ったために、他人の命を救いたいと強く願う少女の日常を描いた物語なのではないだろうか。

もし、自分が同じ能力を持っていたのだとしたら。
恐らく、彼女と同じことしたのかも知れない。
彼女と同じように、救えた命を救えなかったことで悔やみ続けたのかも知れない。自分に立場を置き換えて考えることのできる、主人公の気持ちを想像しやすい物語だと感じた。
この物語の最大の見どころは、入学式に出逢った寿命一年の先輩を救えるかどうかにあると思われる。

彼の死因とは何だろうか。
主人公は彼を救えるのだろうか?
あなたもお手に取られてみませんか?
この物語の結末を、是非その目で確かめてみてくださいね。お奨めです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【投資初心者】20代OLがどうにか資産運用で稼ぎたい奮闘備忘録

カニ蒲鉾
エッセイ・ノンフィクション
大学卒業後、新卒で一般企業に入社、 2年目くらいで奨学金を一括返済、 パンデミックを経て貯金に目覚め、 紆余曲折を経てポイ活やNISA、株主優待など色んなものに手を出してみた20代後半OLの奮闘備忘録 ほぼ日記のように、どこどこの株がぁ〜あ〜と、ギャーギャー言ってます。 最近はマンションを契約したので住宅ローンや金利の事でも自分で調べて新たに知ったことがあるとギャーギャー言ってます。 あたたかいアドバイス頂けますとありがたいです。お気軽にコメントください。 株ガチ勢では無い知識の少ない初心者なのでなにとぞ温かい目で見守ってあげてください。

ど素人物書きは稼ぐことができるのか!?お小遣いくらいは稼ぎたい!

さち
エッセイ・ノンフィクション
タイトル通りです。色々な小説投稿サイトに投稿して、各サイトでどれくらい稼げたか、稼げなかったかを書いてみます。

あとさん♪の徒然なるままに備忘録

あとさん♪
エッセイ・ノンフィクション
徒然なるままに日暮らし パソ子に向かいて 心に浮かぶ どーでもいいあれやらこれやらを そこはかとなく書き尽くせば 怪しゅうこそ ものぐるおしけれ とかなんとか。日頃、思っていることとか、好きなものとか、ぼんやり考えていることとか、感じたこととか、作品の裏事情とか。日記的な、あるいはエッセイのようなものを適宜。 不定期更新。 ※創作裏話と食べ物に関する話以外は、『小説家になろう』にも投稿しています。

2017.12〜 ★ 死の連鎖の謎 [2023年12月31日完結]

鏡子 (きょうこ)
エッセイ・ノンフィクション
世界史、実話を元に書いています。 Wikipedia等の公のサイトからの転写は、ご了承下さい。 その際(転写する場合)は、 「○○○より転写します」 と、転載元を書きます。 個人的なサイトからはなるべく転載を避けますが、何か情報を転載する際は、URLを貼り付けるなどして、その方の著作権を守ります。 1519年に、神聖ローマ帝国選挙がありました。 その選挙前、僅か数ヶ月の間に、名のある有力な人物たちが、命を落としているのが実に不可解です。 1516年の、王の称号を持つ人たちの死も気になります。 ●権力ある人たちは、何故、政略結婚後に命を落とす人が多いのでしょうか? ●権力ある人たちは、何故、誕生月に亡くなる方が多いのでしょうか? 歴史的に名のある人物の、様々な 「死の真相」に迫ります。

たまのこぼれ話

アポロ
エッセイ・ノンフィクション
雑記です。架空の茶店でこぼれ話をするような。時々自分が謎すぎてびびることはありませんか。

★❸2017.05.09 〜 天使の約束 四

鏡子 (きょうこ)
エッセイ・ノンフィクション
「集まろう」って約束した天使たちが 集まりました。

ジンクス【ZINKUSU】 ―エンジン エピソードゼロ―

鬼霧宗作
ミステリー
本作品は縁仁【ENZIN】―捜査一課 対異常犯罪交渉係―の続編にあたります。本作からでもお楽しみいただけますが、前作を先にお読みいただいたほうがなおお楽しみいただけるかと思います。 ※不定期休載 基本的に毎日更新しますが、週に1日から2日ほどお休みをいただくことがあります。 平成。 今や過ぎ去りし過去となる時代。 累計で99人を殺害したとされる男。 名は坂田仁(さかたじん)。 これは、彼の若かりし時代に起きた、とある事件の話。 縁仁【ENZIN】―捜査一課 対異常犯罪交渉係―より10年以上の時を経て、ようやく続編開始。 【第一話 コレクター】《連載中》 全ての始まりは、彼が若き頃につるんでいた不良グループのメンバーが、変死体で見つかるという事件が起きたことだった。 特に殺害されたメンバーの第一発見者となった坂田は、その普段からの素行のせいで、警察や仲間内から犯人ではないかと疑いをかけられ、確証もないままに仲間内から制裁を受けることになってしまう。 そこに身を挺して助けに入ったのが、以前よりの悪友である楠野鐘(くすのしょう)だった。 坂田と楠野は、かつての仲間達をかわしつつ、坂田の身の潔白を証明するために犯人を探し始める。

幻詩(まぼろし)

1000
エッセイ・ノンフィクション
詩、ポエム等を載せていこうと思っております。 感想頂けますと幸いです。宜しくお願いします。

処理中です...