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2:交わらない想い
3 素直になれないワケ
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****side■優紀
「はあ……」
ベランダで一人、優紀は手すりに上体を被せ、ため息をついた。
──全部、自業自得なのに。
全部自分の思い通りになっても、その代償として失うものもある。
ちゃんと納得していたはずなのに。
二人が両想いなことを知りながら、引っ掻き回したのは自分。結果、自分の思い通りになっていると言っても過言ではない。一つの誤算を除いては。
「これって……」
優紀は身体を反転させると、スマホに目を落とす。それは裕也からのメッセージ。彼はちゃんと約束を守ってくれていた。
──もう止めることはできない。
散々邪魔してきたんだ。
諦めることが出来たなら、どんなに良かっただろう。そんなことが出来ないから、ここで指を咥えて見ているしかないのだ。恐らく、理人は拒まないだろう。
今までだって、そうだった。彼は求めれば与える人。少なくとも、自分と裕也に対しては。
優紀は理人が裕也に抱かれている姿を想像して、唇を噛みしめた。元より勝ち目のない勝負だ。今まで裕也を食い止めることが出来たのは、彼の性格によるものが大きい。その彼が行動すると宣言したのだ。止められるわけがないし、止めるのは卑怯だ。
『俺は、お前の好きが理解できない』
押し殺した声で、理人はそう言った。
『何を考えているのか、どうしたいのかも分からない』
理人の家に二人を送り届けた先で。
理人は裕也を先に行かせると、じっとこちらを見つめていたが、険しい顔をして近づいてきた。そして言われた言葉がそれだ。
彼が怒っていることは分かっている。一貫性のない優紀の言動に怒りを感じているのだ。
『俺のことが好きだと言いながら、他の奴と二人きりにするのは平気なのか?』
”それとも……”と彼は続けて。
『ハナから何も起きないと安心してるのか?』
理人の質問に、優紀は答えることが出来なかった。余計なことを言わなければきっと、もっと早い段階で二人は付き合っていただろう。自己都合で先延ばしにさせたに過ぎない。
『以前も言ったが、俺は裕也が好きだ。余計なことをするなと言うなら、自分の気持ちに素直でいても良いということだろ?』
理人が裕也に好きだと言えば、進展するだろう。今ならまだ、阻止することはできる。だがその行動は、後悔しか生まない。好きな人の笑顔を奪ってまですることじゃない。
『決めるのは理人だ』
『お前の気持ちを聞いている』
優紀は黙って目を伏せた。答えることを拒否したのである。
『そんなに俺を怒らせたいのか?』
理人の声が震えていた。
『もういい。好きにする』
彼は黙ったままの優紀に背を向けると、マンションの中に姿を消した。
優紀はしばらく、そのまま俯いていた。しかしそうしていても埒は明かない。今回は邪魔はしないと決めたのだ。自分の決めたことを何一つ守れないようじゃ、理人の気持ちを自分に向けるのは夢のまた夢だ。
──俺は理人に気にかけて欲しいわけじゃない。
自分を好きになって欲しい。
自分を選んで欲しい。
そのために、一旦引く。
「決めたんだよ……」
”誤解を解くために、自分の気持ちを言うよ”という裕也からのメッセージを眺めながら、優紀は呟いたのだった。
「はあ……」
ベランダで一人、優紀は手すりに上体を被せ、ため息をついた。
──全部、自業自得なのに。
全部自分の思い通りになっても、その代償として失うものもある。
ちゃんと納得していたはずなのに。
二人が両想いなことを知りながら、引っ掻き回したのは自分。結果、自分の思い通りになっていると言っても過言ではない。一つの誤算を除いては。
「これって……」
優紀は身体を反転させると、スマホに目を落とす。それは裕也からのメッセージ。彼はちゃんと約束を守ってくれていた。
──もう止めることはできない。
散々邪魔してきたんだ。
諦めることが出来たなら、どんなに良かっただろう。そんなことが出来ないから、ここで指を咥えて見ているしかないのだ。恐らく、理人は拒まないだろう。
今までだって、そうだった。彼は求めれば与える人。少なくとも、自分と裕也に対しては。
優紀は理人が裕也に抱かれている姿を想像して、唇を噛みしめた。元より勝ち目のない勝負だ。今まで裕也を食い止めることが出来たのは、彼の性格によるものが大きい。その彼が行動すると宣言したのだ。止められるわけがないし、止めるのは卑怯だ。
『俺は、お前の好きが理解できない』
押し殺した声で、理人はそう言った。
『何を考えているのか、どうしたいのかも分からない』
理人の家に二人を送り届けた先で。
理人は裕也を先に行かせると、じっとこちらを見つめていたが、険しい顔をして近づいてきた。そして言われた言葉がそれだ。
彼が怒っていることは分かっている。一貫性のない優紀の言動に怒りを感じているのだ。
『俺のことが好きだと言いながら、他の奴と二人きりにするのは平気なのか?』
”それとも……”と彼は続けて。
『ハナから何も起きないと安心してるのか?』
理人の質問に、優紀は答えることが出来なかった。余計なことを言わなければきっと、もっと早い段階で二人は付き合っていただろう。自己都合で先延ばしにさせたに過ぎない。
『以前も言ったが、俺は裕也が好きだ。余計なことをするなと言うなら、自分の気持ちに素直でいても良いということだろ?』
理人が裕也に好きだと言えば、進展するだろう。今ならまだ、阻止することはできる。だがその行動は、後悔しか生まない。好きな人の笑顔を奪ってまですることじゃない。
『決めるのは理人だ』
『お前の気持ちを聞いている』
優紀は黙って目を伏せた。答えることを拒否したのである。
『そんなに俺を怒らせたいのか?』
理人の声が震えていた。
『もういい。好きにする』
彼は黙ったままの優紀に背を向けると、マンションの中に姿を消した。
優紀はしばらく、そのまま俯いていた。しかしそうしていても埒は明かない。今回は邪魔はしないと決めたのだ。自分の決めたことを何一つ守れないようじゃ、理人の気持ちを自分に向けるのは夢のまた夢だ。
──俺は理人に気にかけて欲しいわけじゃない。
自分を好きになって欲しい。
自分を選んで欲しい。
そのために、一旦引く。
「決めたんだよ……」
”誤解を解くために、自分の気持ちを言うよ”という裕也からのメッセージを眺めながら、優紀は呟いたのだった。
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