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2:交わらない想い
2 同じことをしているくせに
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****side■理人
──何がどうなってる?
「大丈夫か?」
こちらを見上げた裕也は、どう見ても大丈夫ではないように見えた。なのに彼は、
「ああ」
と返事をする。
その様子を見ていた優紀は呆れたように、彼の向かいの席に腰かけた。理人は裕也の隣の席を引きながら、先ほど手洗いで優紀に言われたことを思い出す。
『理人はさ、俺たちのことくっつけようとしてんのか?』
『え?』
そんなに早く気づかれると思っていなかった。
『頼むから、そういうのやめてくんね? 普段通りにして』
だが、彼からの言葉は受け入れがたいものだった。
『それを言うなら、優紀もそういうことすんのやめろよ』
洗面台に両手をついていた理人は、優紀を睨みつけて。
『俺とお前は同じだろ』
『理人……』
『やってること同じなんだよ』
理人は本気でムカついていた。好きだというくせに、裕也とくっつけようとする優紀。何がしたいのかわからないし、ゆっくり考えることもできない。
『優紀は、俺が裕也と付き合えば満足なのか?』
唇を噛みしめていた彼は、
『そんなわけないだろ』
と辛そうに言う。
──矛盾ばかりだな。
言っていることとやっていることがバラバラだ。
だからどうしたらいいのか分からないし、すごく気になる。
もし、それが目的なら……。
『お前の望みはなんだ』
怒りを含んだ声音に、優紀が息を呑むのがわかる。
『俺は……』
彼の唇から紡がれた言葉に理人は目を見開いた。
──何を考えているんだ?
意味が分からない。
「!」
テーブルの下で裕也に手を掴まれた理人は、現実に戻される。
「後で話がある」
と、自分だけに聞こえる声量で。
理人は頭痛がした。一連の二人の言動の意味が全く理解できない。もう、何を信じたらいいのか分からない。そんな理人が、状況を把握したのは一時間後のことだった。
「はあ?!」
優紀は理人の自宅に裕也を置いていったのである。話があると言われている以上、好都合ではあるが。
──これってつまり、泊まらせろって意味なんよな?
余計なことはするなと言ったはずなんだが。
片手を腰にあて、額に手をやっていた理人は、困った顔をしながら立ちつくす裕也を見上げる。
「話ってなんだ?」
「ああ」
”そのことか”というように彼は小さく微笑む。
「俺、嘘をついたんだ。そのせいでややこしいことになっている」
「ほう」
──どんな嘘か知らんが、一連の謎の言動に関係してんのか?
「俺は、優紀が好きだと言った」
「そうだったな」
どんなカミングアウトなのだろうかと思いながら、壁に背を預け理人は彼を見つめていた。しかし、彼の話はそこから進まない。口を結んだまま。
「で?」
一向に話が進まない為、しびれを切らした理人が先を促す。
「だから、それが嘘だ」
「……はあ?」
「以上」
そこで一方的に話を打ち切られ、理人はぽかんと口を開けたまま彼を見つめていた。
──裕也が優紀を好きと言うのは嘘。
……噓?
「ちょ、ちょっと待て」
「なんだ?」
と、生気の感じられない瞳が理人に向けられる。
「説明は?」
「しなくていいだろう」
自分と裕也の会話はいつだって簡潔であり、それを不便に感じたことはなかった。彼は結論しか言わない男。理人はそれをずっと心地の良いものだと感じていた。説明なんて求めたこともない。
そんなことをしなくても、今までは理解が出来たからである。そう、今までは。
「ああ。言い忘れていた。理人が好きだ」
「……は?」
──何がなんだって?
──何がどうなってる?
「大丈夫か?」
こちらを見上げた裕也は、どう見ても大丈夫ではないように見えた。なのに彼は、
「ああ」
と返事をする。
その様子を見ていた優紀は呆れたように、彼の向かいの席に腰かけた。理人は裕也の隣の席を引きながら、先ほど手洗いで優紀に言われたことを思い出す。
『理人はさ、俺たちのことくっつけようとしてんのか?』
『え?』
そんなに早く気づかれると思っていなかった。
『頼むから、そういうのやめてくんね? 普段通りにして』
だが、彼からの言葉は受け入れがたいものだった。
『それを言うなら、優紀もそういうことすんのやめろよ』
洗面台に両手をついていた理人は、優紀を睨みつけて。
『俺とお前は同じだろ』
『理人……』
『やってること同じなんだよ』
理人は本気でムカついていた。好きだというくせに、裕也とくっつけようとする優紀。何がしたいのかわからないし、ゆっくり考えることもできない。
『優紀は、俺が裕也と付き合えば満足なのか?』
唇を噛みしめていた彼は、
『そんなわけないだろ』
と辛そうに言う。
──矛盾ばかりだな。
言っていることとやっていることがバラバラだ。
だからどうしたらいいのか分からないし、すごく気になる。
もし、それが目的なら……。
『お前の望みはなんだ』
怒りを含んだ声音に、優紀が息を呑むのがわかる。
『俺は……』
彼の唇から紡がれた言葉に理人は目を見開いた。
──何を考えているんだ?
意味が分からない。
「!」
テーブルの下で裕也に手を掴まれた理人は、現実に戻される。
「後で話がある」
と、自分だけに聞こえる声量で。
理人は頭痛がした。一連の二人の言動の意味が全く理解できない。もう、何を信じたらいいのか分からない。そんな理人が、状況を把握したのは一時間後のことだった。
「はあ?!」
優紀は理人の自宅に裕也を置いていったのである。話があると言われている以上、好都合ではあるが。
──これってつまり、泊まらせろって意味なんよな?
余計なことはするなと言ったはずなんだが。
片手を腰にあて、額に手をやっていた理人は、困った顔をしながら立ちつくす裕也を見上げる。
「話ってなんだ?」
「ああ」
”そのことか”というように彼は小さく微笑む。
「俺、嘘をついたんだ。そのせいでややこしいことになっている」
「ほう」
──どんな嘘か知らんが、一連の謎の言動に関係してんのか?
「俺は、優紀が好きだと言った」
「そうだったな」
どんなカミングアウトなのだろうかと思いながら、壁に背を預け理人は彼を見つめていた。しかし、彼の話はそこから進まない。口を結んだまま。
「で?」
一向に話が進まない為、しびれを切らした理人が先を促す。
「だから、それが嘘だ」
「……はあ?」
「以上」
そこで一方的に話を打ち切られ、理人はぽかんと口を開けたまま彼を見つめていた。
──裕也が優紀を好きと言うのは嘘。
……噓?
「ちょ、ちょっと待て」
「なんだ?」
と、生気の感じられない瞳が理人に向けられる。
「説明は?」
「しなくていいだろう」
自分と裕也の会話はいつだって簡潔であり、それを不便に感じたことはなかった。彼は結論しか言わない男。理人はそれをずっと心地の良いものだと感じていた。説明なんて求めたこともない。
そんなことをしなくても、今までは理解が出来たからである。そう、今までは。
「ああ。言い忘れていた。理人が好きだ」
「……は?」
──何がなんだって?
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