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2:交わらない想い

1 鈍感な自分

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****side■裕也ひろや

──自分の嘘が招いたことじゃないかと言われてしまえば、それまでなのだが。

『なんで、自分の気持ち殺してまでお前に協力してやっているのに、こんなことになるんだよ』
 優紀は目に涙をためてこちらを睨んでいた。
『お前、悪質すぎるよ』

──直情型の優紀と自分が今まで仲良くやってこられたのは、俺が応戦しなかったから。

 手洗いに理人を探しに向かう優紀を見送って、裕也は額に手をやる。優紀がなんでも思ったことをぶつけてくるのは、信頼と言うよりも自分がそれに対して噛みついたりしないからだと思っていた。しかし、全てではなかったことを知った。彼なりに配慮して、我慢もしていたということだ。

──”自分の気持ちを殺して”……ん? 

 裕也は優紀の恨み言を反芻はんすうし、違和感を持った。彼がなぜそこまでするのだろうか、と。確かに抜け駆けは無しだと言ったのは優紀だ。それに乗ったのは自分。平等をそこまで貫く理由は何処にあるんだろう。
 単純に考えれば、そうしなければならない何かがあるということ。

──なぜそこまでする?
 何故……。

 さらさらと何かが、手の中から零れ落ちていくような気がした。幼馴染で、なんでも言い合える関係だと思っている。だから彼を理解しているつもりでいた。彼の怒りをそのまま受け止めたら、変わらない関係でいられると信じていた。それは理人を巡って恋のライバルとなった後も、変わらないと信じていたのだ。

 ここへ来てその認識が、間違っているのではないかと思い始めている。自分の知らないうちに少しずれているのではないかと。

『なあ、理人は優紀のこと好きか?』
 優紀の前から連れ去った理人を、屋上まで引っ張って来た裕也はそう彼に質問した。理人は、裕也の質問にその場で固まった。
 それが何故かなんて、考えずにいた。
『裕也』
『うん?』
『嫌いだったらツルんでないだろ……何言ってんの、お前』
 あの時、理人は怒っていたのだろうか。読めない表情をしていたことだけは覚えている。
『俺が優紀と二人でいたから怒ってんのか?』
『いや。怒ってないよ』
 裕也はフェンスに寄りかかると、理人の方に手を伸ばす。

──嫉妬なのだろうか?
 嘘をついてしまったから、理人に気軽に触れるのが躊躇ためらわれる。

『……この状況は誤解されるんじゃないのか?』
 理人の髪に触れようとしたところで彼からそう言われ、裕也の手が止まる。
『お前は優紀が好きなんだろ?』
『それは……』

 どうしてあの時、否定できなかったのか。誤解を解くチャンスだったはずなのに。

──俺はきっと壊れてしまうのが嫌だったんだ。
 ……この関係が。

「裕也?」
 裕也が頭を抱えていると、ざわめきの中ふいに心配そうな声。ゆっくりと顔を上げると、いつの間にか理人が傍らに立ち、こちらを覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
「ああ」
 冷たい瞳でこちらを黙って眺めていた優紀は、やれやれというように肩を竦めると、向かい側の席にドカッと腰掛け、わざとらしく大きなため息をつく。

──こりゃ、まずいな。
 酷く怒っているようだ。

 理人は気を利かせて離席をしていた。ただそれだけのことなのだが、そうなった原因を作ったのは自分。いつまでも誤解を解くことのできない自分に、優紀がイラついているのは分かっている。そしてイラつきを通り越して、呆れさせていることも。

──フォローが必要だな……。
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