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1:真実を知らない理人
6 誤解の原因
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****side■優紀
「おい、裕也。お前のせいで、俺まで疑われているんだが?」
優紀は手洗いに立った理人の背中を、見送りながら。
「分かってる。悪いと思ってるよ」
「なんで二人きりになれる時間作ってやったのに、誤解を解いてないんだよ」
優紀は裕也に視線を移しながら、水の入ったグラスに手を伸ばす。
「そんな話できる雰囲気じゃ、なかったんだよ」
裕也は項垂れている。
──何があったんだ?
優紀は片手で頬杖をつくと、項垂れる彼を眺めていた。ここへ来る前、スポーツジムから理人のバイト先の近くにある駐車場へ向かった。
『あんな嘘ついてどうするつもりなんだ? このままじゃ、理人はどっちとも付き合わないだろうな』
という優紀の言葉に、
『そうだな』
と裕也は静かに返答した。
『このまま誤解させたままでいたら、理人は俺たちをくっつけようとするはずだ。理人はそういう奴だよ』
『分かってる』
──理人の気持ちなんて、本人が自覚する前から知ってた。
邪魔する代わりに、応援もした。
裕也に抜け駆け禁止の約束をさせたのは、時間稼ぎだった。
三人でいる時間を伸ばすために。
せめて高校を卒業するまで、変わらない関係でいたかった。二人が両想いなのは知っていたから。なのに自分にもチャンスが回ってきてしまったのは想定外だ。裕也があんな嘘をついていると知っていたなら、告白なんてしなかったのに。
『俺、ここで待っているから。迎えついでに誤解を解いて来いよ』
『ありがとう、優紀』
俺たちは親友。恋のライバルであっても、それは変わらない。もし二人が恋人関係になったとしても、親友だ。少なくとも自分はそう、信じてきた。
「チッ……。お膳立てしてやったのに、なんでしくじってんだよ」
ほんとは邪魔したいと思いながらも、理人の気持ちを優先する自分。辛くないわけがない。それなのに、この目の前の男は、自分よりも質が悪い。
「理人、泣いてたから」
「は? 何泣かしてんだよ」
「俺じゃないよ」
「お前以外に犯人いないだろ」
──理人が好きなのは、裕也。
本人に言ってしまえば、背中を押すことはできるだろう。
しかし今自分が立っているのは、裕也と同じスタート地点。
もしかしたら、巻き返せるかもしれない。
「ひでえ……」
嘆く裕也を優紀はじっと見つめた。
──理人は今、俺に疑問を持っているはずだ。
好きだと言いながら、理人の恋ばかり応援する俺に。
憐れんでいるはずだ。
こんなチャンス逃せない。
汚い手ではあるが、彼の自分への気持ちが同情でもいいと思った。だが、誤解をさせたまま横から搔っ攫うのは、良心が咎める。親友を騙して、蹴落としてまで手に入れたものを、本当に自分のものだなんて信じる勇気は自分にはない。
──それは間違っている。
今も充分間違っているとは思うけれど。
無茶苦茶だとも思うけれど。
「互いのためにも、早いところ誤解を解いてくれよ」
と優紀。
「ああ……」
相変わらず項垂れたままの裕也を視界に入れつつ、ふと手洗いの方向に視線を向け、ハッとした。
「ちょっと、待て」
──理人は俺たちを二人きりにするために席を立ったんじゃ?
そうだとしたなら……。
「おい、裕也。事態は深刻だ」
「は?」
優紀の言葉に顔をあげ、ぽかんとこちらを見る、裕也。
「理人は俺たちをくっつける気だ」
「いや、その予想は……」
”ついているだろう?”と続ける彼に、
「すでにそのために動いているようだ」
と告げる優紀。
「なんだって?!」
──いくら何でも、行動に移すの早すぎだろ!
「おい、裕也。お前のせいで、俺まで疑われているんだが?」
優紀は手洗いに立った理人の背中を、見送りながら。
「分かってる。悪いと思ってるよ」
「なんで二人きりになれる時間作ってやったのに、誤解を解いてないんだよ」
優紀は裕也に視線を移しながら、水の入ったグラスに手を伸ばす。
「そんな話できる雰囲気じゃ、なかったんだよ」
裕也は項垂れている。
──何があったんだ?
優紀は片手で頬杖をつくと、項垂れる彼を眺めていた。ここへ来る前、スポーツジムから理人のバイト先の近くにある駐車場へ向かった。
『あんな嘘ついてどうするつもりなんだ? このままじゃ、理人はどっちとも付き合わないだろうな』
という優紀の言葉に、
『そうだな』
と裕也は静かに返答した。
『このまま誤解させたままでいたら、理人は俺たちをくっつけようとするはずだ。理人はそういう奴だよ』
『分かってる』
──理人の気持ちなんて、本人が自覚する前から知ってた。
邪魔する代わりに、応援もした。
裕也に抜け駆け禁止の約束をさせたのは、時間稼ぎだった。
三人でいる時間を伸ばすために。
せめて高校を卒業するまで、変わらない関係でいたかった。二人が両想いなのは知っていたから。なのに自分にもチャンスが回ってきてしまったのは想定外だ。裕也があんな嘘をついていると知っていたなら、告白なんてしなかったのに。
『俺、ここで待っているから。迎えついでに誤解を解いて来いよ』
『ありがとう、優紀』
俺たちは親友。恋のライバルであっても、それは変わらない。もし二人が恋人関係になったとしても、親友だ。少なくとも自分はそう、信じてきた。
「チッ……。お膳立てしてやったのに、なんでしくじってんだよ」
ほんとは邪魔したいと思いながらも、理人の気持ちを優先する自分。辛くないわけがない。それなのに、この目の前の男は、自分よりも質が悪い。
「理人、泣いてたから」
「は? 何泣かしてんだよ」
「俺じゃないよ」
「お前以外に犯人いないだろ」
──理人が好きなのは、裕也。
本人に言ってしまえば、背中を押すことはできるだろう。
しかし今自分が立っているのは、裕也と同じスタート地点。
もしかしたら、巻き返せるかもしれない。
「ひでえ……」
嘆く裕也を優紀はじっと見つめた。
──理人は今、俺に疑問を持っているはずだ。
好きだと言いながら、理人の恋ばかり応援する俺に。
憐れんでいるはずだ。
こんなチャンス逃せない。
汚い手ではあるが、彼の自分への気持ちが同情でもいいと思った。だが、誤解をさせたまま横から搔っ攫うのは、良心が咎める。親友を騙して、蹴落としてまで手に入れたものを、本当に自分のものだなんて信じる勇気は自分にはない。
──それは間違っている。
今も充分間違っているとは思うけれど。
無茶苦茶だとも思うけれど。
「互いのためにも、早いところ誤解を解いてくれよ」
と優紀。
「ああ……」
相変わらず項垂れたままの裕也を視界に入れつつ、ふと手洗いの方向に視線を向け、ハッとした。
「ちょっと、待て」
──理人は俺たちを二人きりにするために席を立ったんじゃ?
そうだとしたなら……。
「おい、裕也。事態は深刻だ」
「は?」
優紀の言葉に顔をあげ、ぽかんとこちらを見る、裕也。
「理人は俺たちをくっつける気だ」
「いや、その予想は……」
”ついているだろう?”と続ける彼に、
「すでにそのために動いているようだ」
と告げる優紀。
「なんだって?!」
──いくら何でも、行動に移すの早すぎだろ!
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