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1:真実を知らない理人

3 二人の誓い

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****side■優紀ゆうき

 俺たちはあの日、一八歳になるまでは手を出さないと約束した。
 あれから数年。約束はもう、無効なはずだ。

「んで、理人とはヤッたのかよ?」
 優紀は自室でベッドに寄りかかり、スマホを耳にあてていた。
『何をいっているんだ。そんなことするわけないだろう』
 通話の相手は幼馴染の裕也。相変わらず奥手な奴だなとため息をつく、優紀。
『告白すらしてないよ』
 彼は心なしか、元気のないように感じる。
「なんで? あれだけチャンスがあったのに。どういうことだよ、それは」
 先日、自分の前から理人を無理やり連れ去った裕也。”いつになく積極的じゃないかよ”と思っていたのだが、どうやら相変わらずのチキンらしい。
『いや……それがさ。理人に”なんで恋人作らないんだ”って聞かれて、優紀のことが好きだと言ってしまった』
「はあ?! お前、バカなのか?」

──なんでそんな、ややこしいことになっているんだ?

 優紀も彼もずっと理人のことが好きだった。それが恋愛感情なのだと気づいたのは、中等部の時。そして二人は誓いを交わしたのだ。抜け駆けはしないと。十八歳になるまで手は出さないと。

 初等部の時は体格差のなかった三人。中等部に上がり、見る間に二人は身長が伸び、理人との体格差が広がった。それまで変化のなかった三人に変化が訪れる。意外にも、最初に異性から告白を受けたのは自分たちではなく、理人だった。それが、理人を利用して二人に近づく為だということに気づいたのはどちらが先だったか。

──理人を利用した女に裕也がキレてんの見て、気づいたんだったよな。
 あいつもそうなんだって。
 せっかくチャンス譲ってやったのに、なにやってんだ? コイツ。

『バカとか言うなよ。傷つくじゃないか』
 裕也はため息交じりに。
「なんでそんな嘘ついたんだよ」
 優紀からした意味不明な嘘だ。誤解させてどうしたかったのか、理解に苦しむ。
『抜け駆けしないって約束したし。あいつの気持ちが優紀に向くのが、嫌だったんだよ』
「はあ?! だからってそんな嘘つくなんて……アホだろ」
 馬鹿正直で不器用な裕也。ライバルながら塩を贈りたくなってしまう。
『自分でもそう思うよ』
 自分のついた嘘のせいで、手を出せないのだ。優紀は額に手をやった。バカすぎる。

──理人が好きなのは裕也。
 こんくらいハンデあったほうがいいのか?

 負けるつもりはないが、そんなことを思ってしまう。
「で、お持ち帰りしてナニしてたんだよ」
『人聞きの悪い言い方はやめろよ。一緒にジムに行っただけだ』
「ずりい。俺も誘えよな」
 エスカレーター式とは言え、一応大学受験はある。受験の時期に身体が鈍りはじめ、ストレスの溜まっていた三人は、その頃から同じスポーツジムに通っていた。
『んじゃ、行くか?』
「今からかよ」
『ああ。理人も誘わないと拗ねるかな?』
 裕也の言葉に優紀は卓上カレンダーに視線を向ける。
「理人は今日、バイトだろ」
『そうか……』
 ガッカリしたような彼の声。本来なら自分よりも近い場所にいるはずの裕也。自分のついた嘘のせいで形勢逆転とまではいかなくても、気の毒だ。

──策士策に溺れる、ってか?
 責任の一端は俺にもあるんかな。

「バイト終わったら飯に誘う」
『それはいいな』
と裕也。
「それまでジムで時間潰そうぜ」
『了解』
 ”じゃあ後ほど”といって通話を終える。何故自分はライバルに協力しているんだと思いながら。
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