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4話【幻想ではない愛を】

6 新たな刺客?!

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****♡side・電車でんま

「で、あとはどうする気なんだ?」
 新たな刺客はなんと同僚の板井。
 彼は我が苦情係、課長唯野の忠犬などと言われている。
 その為こちらの味方に付く可能性が低いと考えた塩田はあえて課長が自分にどんな指令をくだしたのか説明をしたようだ。
 それは電車も知らなかった内容であり、塩田がなぜ辞表を叩きつけたのか納得のいく内容でもあった。
 案の定、常識人で真面目な板井は『それならやめたくなるのも無理はない』と二人に言ってくれたのだった。

「ついてくるの?」
「そもそも俺はこの件に関してはどちらの味方もする気はない。たださ、辞めるのは違うと思ったから、課長からの”連れ戻すという任務”を遂行する為にここへ来た。事情も知ったし、二人だけでは戻り辛いと思うから最後までつき合うよ」
と電車の質問に返答した板井。
 それに、と彼は続ける。
「二人がどう思っているのかは知らんが、俺は二人のこと単なる同僚ではなく親友だと思っているから。こんなことが理由で辞められるのは嫌だな」
「板井、さすがだ」
 何故か彼の言葉に塩田がそんな風に反応した。
「あとすべきことといえば、婚姻届けを出すことだな」
「じゃあ、役所へ向かおう」
 こうして三人を乗せたワゴンは役所へ向かうことになった。

「しかし、課長がそんな指令を出すとはな」
 車内では今回の発端になったことについて板井と塩田が話をしていた。
「幻滅したか?」
と塩田。
 板井は課長のことを慕っている。
 こんな非人道的とも言える指令を出したことを知ったのだ。彼への評価が変わったのかもしれないと塩田は懸念しているのだろう。
「どうかな。人にはいろんな面があるだろ」
 ”それもまたあの人の一面なんだろ”と、彼。
「俺は人柄や仕事ぶりに関して尊敬しているが、人を作るのは良い面ばかりとは限らないと思う」

 人は体験や環境によって思想や性格、行動が決まってくる生き物だと思う。
 例えば怖い想いをした人はそれがトラウマになり、同じような状況に合わないように慎重になったり避けたりするだろう。
 反対に良い想いばかりしてきた人間は怠慢になるかも知れない。
 痛い目に合うことによって人は反省し、言動を改める機会を得ることが出来る。だが中にはその機会を得ることがなく大人になり、周りに迷惑をかけてばかりの人も存在はするのだ。

 何が良いか悪いかを別として、今見ているその相手は現在の姿になるまでにいろんな体験をしてきたということなのだ。
 まっさらな人もいれば、信じられないくらい黒い歴史まみれの人もいるに違いない。
 だが、良い部分だけを見てその人を評価し好きになる人は、悪い部分を見ただけで評価を覆すだろう。それは単に自分に都合の良い像を評価しているだけに過ぎない。そういった人間こそが薄っぺらなのだと言える。

 そんなことを語り合う塩田と板井を眺めながら、今まで二人が仲の良いことを不思議に思っていた電車はなんとなく納得した。
 二人は価値観が似ているから仲が良いのだと。

「どうかしたのか? 紀夫」
 ニコニコと二人を眺めていると塩田がぎゅっと電車の手を握った。
「ううん。気が合うんだなって思って」
「いつ何時も紀夫が俺の一番だぞ。安心しろ」
 ヤキモチでも妬いていると思われたのだろうか。彼が真剣な眼差しをこちらに向ける。視界の端では軽く握った拳を口元にあて、板井が笑っていた。
「あ、うん。大丈夫」
 ”一体何がだ?”と言われそうな相槌を打つ電車。
 案の定、塩田が眉を寄せ”何言ってんだ? お前”とでも言いたそうな表情をしている。電車は困り果てて板井に視線のみで助けを求めた。
「やっぱり、見ているだけで飽きないな。お前らは」
「は?」
 板井は助けどころか、さらに塩田に怪訝そうな表情をされる。
「板井がわけのわからないことを言っているぞ。何か言ってやれよ、紀夫」
「何かって、何を?」
「何かは何かだよ」
 さらにカオスな状況と化したのだった。
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