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3話【人として生きること】
4 そんなものは不要だ!
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****♡side・塩田
──俺のマンションに入り浸っていたのに、俺で性欲を発散していただと?
うーむ……悪くない。
腕を組み、仁王立ちでホテルの前に佇む塩田と、若干前かがみの電車。悪くはないが変態だなと思いながら隣の恋人に視線を向けると、ギアとやらはOFFの様だ。これで一安心か?
だが前かがみ気味なのが、少し気になる。
このまま強行突破すると出禁を食らいそうだなと仁王立ちのまま、どうしたものかと思案する塩田。いいアイデアなど浮かぶ予定もないが。
「なんで前かがみなんだ? 治まったんだろう?」
ここは原因を本人に聞くのが一番であろう。空気を読む気のない塩田は単刀直入に彼に質問をしてみた。
「あ、いやちょっと。塩田のヤラシイ姿を思い出して」
「こんなところでか?」
何を思い出そうが個人の自由だが、場所は弁えていただきたい。そんなことを思いながら、周囲に視線を走らせる。
「あともう少しでホテルの中だというのに、ここでないとダメなのか?」
やはり打開策は見つからない。
思わず責める様な形になってしまった塩田に、
「ここじゃないとダメってことはないけれど」
と言葉を濁す電車。
「ここは持ち込み可だったよな? コンビニにでも寄ろう。歩いているうちにギアが治まるかもしれないし」
大した案ではないが、雑誌を購入したいと思っていたところなのでそう提言してみる。
「ああ、うん。いいね」
と電車。
「ダメだったら、後はひっぱたくしか……」
「それはちょっと嫌かな」
遠慮せずとも良いんだぞ? と言いながらスマホで地図を確認する塩田。
ホテルの近くには大抵コンビニがあるものだ。
「あった。行くぞ、紀夫」
少し前かがみの彼の手を取り、先に歩き出す塩田。
コンビニまではすぐそこだった。
「観光系統のものを買うの? 地元なのに?」
雑誌コーナーでどれを買おうか迷っていると、隣に来た電車がそんなことを言う。言われてみればそうだが、地元でデートなどしたことはない。
「ここにしょっちゅう来るわけではないなら、もっと住んでいるところに密着したものの方がいいんじゃない?」
彼の言うことは一理ある。
「確かにそうだが、沿線を考えると定番になるぞ?」
都内に限れば中身は定番。SNSやTVなどで見かけるところばかり。あえて買う必要もないだろう。
塩田が雑誌を眺めながら唸っていると、
「近所の地図にでもしたら?」
と彼。
「それならカーナビで十分じゃないのか?」
「まあ、そうだねえ」
むしろ自分たちに必要なのは、転職情報かもしれない。
そんなことを思いつつ雑誌に手を伸ばしたが、
『塩田、あのなあ。いくら優秀でも、塩田みたいに上司への口のきき方がなっていなくても許されるのは(株)原始人くらいなもんなんだからな』
という課長唯野の言葉を思い出し塩田は断念する。
口の利き方がなってなくても働けるところは『転職情報雑誌』には載ってないに違いない。
「どうしたの? 塩田」
手を引っ込めた塩田に首を傾げる電車。
「いや。お前のギアはどうだ?」
むしろ株などで儲ければ、口の利き方は問題じゃない。株だ! 投資だ! とそちらの方へ手を伸ばす塩田。
「ギアは大丈夫。後でマックスに入れる準備も万端」
「そうか、それは良かった」
「塩田は?」
「俺は株と投資に目覚めたところだ」
「兜透視?」
塩田は雑誌を棚に戻すと、頷こうとしたがニュアンスが違うことに気づき躊躇う。
「マジシャンでも目指しているの? 一流じゃないと食べていくのは難しいと思うけれど」
彼はそんなことを言いながら、ファッション雑誌に手を伸ばす。
それを見た塩田は彼の手を掴んだ。
「何、塩田」
「俺たちに、ファッション雑誌は不要だ!」
「え?」
「俺たちは、見た目ではなく中身で勝負する。そう決めたじゃないか」
”え? いつ?!”と塩田を二度見する電車。
ファッション雑誌を買うことを阻止した塩田は、”どうせバナナ模様しか着ないんだから、そんなの必要ないだろ”と思いつつ彼の手を引きコンビニを後にしたのだった。
──俺のマンションに入り浸っていたのに、俺で性欲を発散していただと?
うーむ……悪くない。
腕を組み、仁王立ちでホテルの前に佇む塩田と、若干前かがみの電車。悪くはないが変態だなと思いながら隣の恋人に視線を向けると、ギアとやらはOFFの様だ。これで一安心か?
だが前かがみ気味なのが、少し気になる。
このまま強行突破すると出禁を食らいそうだなと仁王立ちのまま、どうしたものかと思案する塩田。いいアイデアなど浮かぶ予定もないが。
「なんで前かがみなんだ? 治まったんだろう?」
ここは原因を本人に聞くのが一番であろう。空気を読む気のない塩田は単刀直入に彼に質問をしてみた。
「あ、いやちょっと。塩田のヤラシイ姿を思い出して」
「こんなところでか?」
何を思い出そうが個人の自由だが、場所は弁えていただきたい。そんなことを思いながら、周囲に視線を走らせる。
「あともう少しでホテルの中だというのに、ここでないとダメなのか?」
やはり打開策は見つからない。
思わず責める様な形になってしまった塩田に、
「ここじゃないとダメってことはないけれど」
と言葉を濁す電車。
「ここは持ち込み可だったよな? コンビニにでも寄ろう。歩いているうちにギアが治まるかもしれないし」
大した案ではないが、雑誌を購入したいと思っていたところなのでそう提言してみる。
「ああ、うん。いいね」
と電車。
「ダメだったら、後はひっぱたくしか……」
「それはちょっと嫌かな」
遠慮せずとも良いんだぞ? と言いながらスマホで地図を確認する塩田。
ホテルの近くには大抵コンビニがあるものだ。
「あった。行くぞ、紀夫」
少し前かがみの彼の手を取り、先に歩き出す塩田。
コンビニまではすぐそこだった。
「観光系統のものを買うの? 地元なのに?」
雑誌コーナーでどれを買おうか迷っていると、隣に来た電車がそんなことを言う。言われてみればそうだが、地元でデートなどしたことはない。
「ここにしょっちゅう来るわけではないなら、もっと住んでいるところに密着したものの方がいいんじゃない?」
彼の言うことは一理ある。
「確かにそうだが、沿線を考えると定番になるぞ?」
都内に限れば中身は定番。SNSやTVなどで見かけるところばかり。あえて買う必要もないだろう。
塩田が雑誌を眺めながら唸っていると、
「近所の地図にでもしたら?」
と彼。
「それならカーナビで十分じゃないのか?」
「まあ、そうだねえ」
むしろ自分たちに必要なのは、転職情報かもしれない。
そんなことを思いつつ雑誌に手を伸ばしたが、
『塩田、あのなあ。いくら優秀でも、塩田みたいに上司への口のきき方がなっていなくても許されるのは(株)原始人くらいなもんなんだからな』
という課長唯野の言葉を思い出し塩田は断念する。
口の利き方がなってなくても働けるところは『転職情報雑誌』には載ってないに違いない。
「どうしたの? 塩田」
手を引っ込めた塩田に首を傾げる電車。
「いや。お前のギアはどうだ?」
むしろ株などで儲ければ、口の利き方は問題じゃない。株だ! 投資だ! とそちらの方へ手を伸ばす塩田。
「ギアは大丈夫。後でマックスに入れる準備も万端」
「そうか、それは良かった」
「塩田は?」
「俺は株と投資に目覚めたところだ」
「兜透視?」
塩田は雑誌を棚に戻すと、頷こうとしたがニュアンスが違うことに気づき躊躇う。
「マジシャンでも目指しているの? 一流じゃないと食べていくのは難しいと思うけれど」
彼はそんなことを言いながら、ファッション雑誌に手を伸ばす。
それを見た塩田は彼の手を掴んだ。
「何、塩田」
「俺たちに、ファッション雑誌は不要だ!」
「え?」
「俺たちは、見た目ではなく中身で勝負する。そう決めたじゃないか」
”え? いつ?!”と塩田を二度見する電車。
ファッション雑誌を買うことを阻止した塩田は、”どうせバナナ模様しか着ないんだから、そんなの必要ないだろ”と思いつつ彼の手を引きコンビニを後にしたのだった。
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