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3話【人として生きること】
1 塩田を好きな理由
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****♡side・電車
「なんだ。暗闇痴漢プレイをするんじゃないのか」
「するわけないでしよ! そんなこと」
塩田の発言にぎょっとしつつも、土産物屋でアザラシの赤ちゃんの抱きまくらを掴む。
「それはどうするんだ?」
と塩田。
電車の手元を見ながら。
「肌触りが良いから、枕代わりに」
と電車。
彼はふうんと言って、腕組みをしていた。
「これから帰宅するの、気が思いやられるね。課長が待っているんでしょ?」
水族館から出て、駐車場へ向かう二人。
「なんかさっき、母からメッセージが届いて父と皇が戦っているらしい」
──何それ、どういう状況?!
「戦っていると言っても、殴り合ってないから大丈夫」
(大丈夫なことあるか!)
「そんなわけで、帰ってもややこしくなるから泊ってこいってさ」
と塩田。
「そ、そうなんだ」
電車はサ○ヤ人のような塩田の父を思い浮かべながら。
「鍋食いに行くぞ、紀夫」
可愛い魚たちを見た後なのに本気で魚を食べる気らしい。
車に乗り込むと、いつもは電車任せな塩田がカーナビに手を伸ばす。
地元というだけあって、この辺には詳しいようだ。
電車は彼の綺麗な指が、目的地のマークをつけるのを見ていた。
「なんだよ、そんな顔して」
と彼。
「ねえ、塩田」
「ん?」
「凄く当たり前のこと言うけれど」
チラッと彼に視線を送って。
「塩田は一人っ子でしょ? 俺と結婚したら、子孫残せないけどいいの?」
同性婚可能な世の中になっても、一度は考えることだ。
同性愛に嫌悪する人は何処にだっているし、生産性がないという人もいるだろう。しかし本人たちだって、一度は立ち止まって考えるものなのだ。
だからこそ他人が口出しをすべきではないと思うし、本人たちが良く考えて選ぶべきだと思う。
けれども、全性愛者《パンセクシャル》やバイセクシャルならまだしも、同性愛者が異性愛者になることはないし、異性を愛することはない。
「紀夫は、子孫を残すために産まれてきたのか? 子孫を残す義務を負わせるために子を作るのか?」
”そんなのただの奴隷だろ”と彼は言う。
自分が望まない婚姻が苦痛なように、望まない性交もまた地獄でしかない。
人間には感情があるから、単なる本能で生きることはできない。
「人は自由だ。自由意志が認められている。仮に俺たちが子孫を残さなくとも、人類は滅びたりはしない」
人を殺すのは人。
そして、子を産んだところで他人を慈しむ人類でなければ、その子は続いてはいかない。
「そして俺たちが子を残そうとも、人類は滅びる」
子を成すというのは、ただの生産行為ではない。
ちゃんと人として育てることの出来る者の元にあってこそ『人間』となるのだ。人間の形だけをしていても、人間とは言わない。
人とは自由意志によって、人らしく生きようとした時はじめて『人間』になれるのだ。
「俺は『人間』だから、後悔しない道を生きる」
塩田はそう言って、じっと電車を見つめる。
お前もそうだろう? と言うように。
きっと彼にとてつもなく惹かれるのは、『自分の意思で生きているから』なのだろうなと思った。
シートベルト締め、アクセルを踏む。
人間とはとても残酷な生き物なのだ。
自らの自由は求めるくせに、他人に不自由を強いる。
だが少なくとも隣で窓の外を眺めている恋人は、自分の考えに置いて自由意志で行動し他人の自由を尊重する。
「塩田」
「うん?」
窓の外を眺めていた彼がこちらに面を向けた。
「大好きだよ」
と告げると彼は
「俺もだ」
と言ってフッと笑ったのだった。
「なんだ。暗闇痴漢プレイをするんじゃないのか」
「するわけないでしよ! そんなこと」
塩田の発言にぎょっとしつつも、土産物屋でアザラシの赤ちゃんの抱きまくらを掴む。
「それはどうするんだ?」
と塩田。
電車の手元を見ながら。
「肌触りが良いから、枕代わりに」
と電車。
彼はふうんと言って、腕組みをしていた。
「これから帰宅するの、気が思いやられるね。課長が待っているんでしょ?」
水族館から出て、駐車場へ向かう二人。
「なんかさっき、母からメッセージが届いて父と皇が戦っているらしい」
──何それ、どういう状況?!
「戦っていると言っても、殴り合ってないから大丈夫」
(大丈夫なことあるか!)
「そんなわけで、帰ってもややこしくなるから泊ってこいってさ」
と塩田。
「そ、そうなんだ」
電車はサ○ヤ人のような塩田の父を思い浮かべながら。
「鍋食いに行くぞ、紀夫」
可愛い魚たちを見た後なのに本気で魚を食べる気らしい。
車に乗り込むと、いつもは電車任せな塩田がカーナビに手を伸ばす。
地元というだけあって、この辺には詳しいようだ。
電車は彼の綺麗な指が、目的地のマークをつけるのを見ていた。
「なんだよ、そんな顔して」
と彼。
「ねえ、塩田」
「ん?」
「凄く当たり前のこと言うけれど」
チラッと彼に視線を送って。
「塩田は一人っ子でしょ? 俺と結婚したら、子孫残せないけどいいの?」
同性婚可能な世の中になっても、一度は考えることだ。
同性愛に嫌悪する人は何処にだっているし、生産性がないという人もいるだろう。しかし本人たちだって、一度は立ち止まって考えるものなのだ。
だからこそ他人が口出しをすべきではないと思うし、本人たちが良く考えて選ぶべきだと思う。
けれども、全性愛者《パンセクシャル》やバイセクシャルならまだしも、同性愛者が異性愛者になることはないし、異性を愛することはない。
「紀夫は、子孫を残すために産まれてきたのか? 子孫を残す義務を負わせるために子を作るのか?」
”そんなのただの奴隷だろ”と彼は言う。
自分が望まない婚姻が苦痛なように、望まない性交もまた地獄でしかない。
人間には感情があるから、単なる本能で生きることはできない。
「人は自由だ。自由意志が認められている。仮に俺たちが子孫を残さなくとも、人類は滅びたりはしない」
人を殺すのは人。
そして、子を産んだところで他人を慈しむ人類でなければ、その子は続いてはいかない。
「そして俺たちが子を残そうとも、人類は滅びる」
子を成すというのは、ただの生産行為ではない。
ちゃんと人として育てることの出来る者の元にあってこそ『人間』となるのだ。人間の形だけをしていても、人間とは言わない。
人とは自由意志によって、人らしく生きようとした時はじめて『人間』になれるのだ。
「俺は『人間』だから、後悔しない道を生きる」
塩田はそう言って、じっと電車を見つめる。
お前もそうだろう? と言うように。
きっと彼にとてつもなく惹かれるのは、『自分の意思で生きているから』なのだろうなと思った。
シートベルト締め、アクセルを踏む。
人間とはとても残酷な生き物なのだ。
自らの自由は求めるくせに、他人に不自由を強いる。
だが少なくとも隣で窓の外を眺めている恋人は、自分の考えに置いて自由意志で行動し他人の自由を尊重する。
「塩田」
「うん?」
窓の外を眺めていた彼がこちらに面を向けた。
「大好きだよ」
と告げると彼は
「俺もだ」
と言ってフッと笑ったのだった。
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