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21──彼と彼の義兄【平田】
5 彼の思想に触れて
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平田は和宏を眺めながら阿貴のことを思い出す。
彼の瞳は明らかに恋をしている目だった。それを思うとやはり優人の反応は薄いような気がしてしまう。
大して面白くもない映画を見つめる和宏を眺めながらそんなことを考えていると。
「平田君はどんなの観るの」
和宏に突然声をかけられて平田は慌てた。
「どんな……アクションとかですかね」
「そうなんだ」
現在彼が観ているのは恋愛もの。
恋愛ものの面白さはいまいち分からないが、よくある三角関係のてんやわんやもののようだ。
「なんで世の中ってスパダリとか三角関係とかが好きなんでしょうね」
「世界は見た目至上主義だからでしょう? 最も、アメリカはちょっと違うみたいだけれどね」
和宏の返答に納得してしまっている自分がいる。
「三角関係に関しては好きとかよりも、その方が話が作りやすいからだと思うけれどね」
初めから伏線があって三角関係になる話は、それなりにハラハラドキドキはするだろう。しかし取って付けた様に、突然ライバルが現れることには不快感しかない。話を続けるために無理やりそうしたとしか思えないのだ。
「平田君の着眼点はなかなか良いと思うよ」
和宏の穏やかな声。
付き合いが長くなってくるとわかることは多くなる。彼は基本、他人を貶さない。肯定する人だ。ナチュラルに人を褒めるのは性格なのか、それとも下の兄弟の面倒をみていたためか。
「シンデレラストーリーが人気な点についてはどう思われます?」
「シンデレラストーリーねえ」
平田の質問にチラリと背後に視線を向ける彼。
再びTVモニターに視線を戻すと、
「例えば日本が格差社会でなかったなら、流行らなかったと思うよ。以前からそこそこ人気だけれど、人気の理由は時代で違うと思うな」
と和宏。
シンデレラストーリーとは、平凡または貧困や惨め境遇から短期または長期間を経ての出世譚のことである。出世の仕方は様々。自分の手で地位を築くものもあれば金持ちから見初められるなど。
つまりは自ら這い上がったり、他人の手によって引き上げられるような物語を指す。
格差社会だから人は夢を見る。
他力本願な人間は『いつか王子様が』と夢見ることもあるだろし、自己の力を信じるのであれば『実は自分には才能があるだ』となることもあるだろう。
だが人間のほとんどは凡人であり、仮に才能があったとしてもそれを開花させることのできない人がほとんどだろう。
「専業主婦を推進していた頃と働くことを促す現代は価値観が違うだろうしね」
人は以前に比べ、現実主義に傾いていると彼は言う。
それ自体は悪いことではないが、物語の受け捉え方は違ってくる。
「そもそも、平凡でなんの取り柄もない人が突然資産家に見初められるなんてことはありえない。人は何らかの魅力を感じて人に惹かれるものだから」
”それが容姿ではないということは納得できる”と彼は続けて。
「異世界ものなどを考えてみて。彼らの魅力と言うのは何らかの特技や文明なんだよ。現代からそれを異世界に齎すから魅力的に映るし、そこに面白さがある」
伊達に仕事でつまらない映画を観ているわけではないのだなと平田は感心した。ちゃんと面白さが何か分かっているからつまらないものにもそれなりにレビューを書くことが出来る。そういうことなのだろうと思った。
「たぶん、今の人たちがシンデレラストーリーに惹かれるのは『頑張っていればいつか報われる』と信じたいからだと思うんだ」
「努力が報われないなんて悲しいですもんね」
平田の言葉に”そうだね”と彼は笑う。
以前の和宏は信念を持って仕事に向き合っていたはずだ。
築き上げたものを全て壊され、自由を奪われた。
自由を取り戻したとは言え、未だにトラウマから一人で外に出るのを怖がっている。そしてつまらない映画を観ることを強いられている状況。
これは報われたと言うのだろうか?
平田は心の中でため息をつくとやりきれない気持ちになったのだった。
彼の瞳は明らかに恋をしている目だった。それを思うとやはり優人の反応は薄いような気がしてしまう。
大して面白くもない映画を見つめる和宏を眺めながらそんなことを考えていると。
「平田君はどんなの観るの」
和宏に突然声をかけられて平田は慌てた。
「どんな……アクションとかですかね」
「そうなんだ」
現在彼が観ているのは恋愛もの。
恋愛ものの面白さはいまいち分からないが、よくある三角関係のてんやわんやもののようだ。
「なんで世の中ってスパダリとか三角関係とかが好きなんでしょうね」
「世界は見た目至上主義だからでしょう? 最も、アメリカはちょっと違うみたいだけれどね」
和宏の返答に納得してしまっている自分がいる。
「三角関係に関しては好きとかよりも、その方が話が作りやすいからだと思うけれどね」
初めから伏線があって三角関係になる話は、それなりにハラハラドキドキはするだろう。しかし取って付けた様に、突然ライバルが現れることには不快感しかない。話を続けるために無理やりそうしたとしか思えないのだ。
「平田君の着眼点はなかなか良いと思うよ」
和宏の穏やかな声。
付き合いが長くなってくるとわかることは多くなる。彼は基本、他人を貶さない。肯定する人だ。ナチュラルに人を褒めるのは性格なのか、それとも下の兄弟の面倒をみていたためか。
「シンデレラストーリーが人気な点についてはどう思われます?」
「シンデレラストーリーねえ」
平田の質問にチラリと背後に視線を向ける彼。
再びTVモニターに視線を戻すと、
「例えば日本が格差社会でなかったなら、流行らなかったと思うよ。以前からそこそこ人気だけれど、人気の理由は時代で違うと思うな」
と和宏。
シンデレラストーリーとは、平凡または貧困や惨め境遇から短期または長期間を経ての出世譚のことである。出世の仕方は様々。自分の手で地位を築くものもあれば金持ちから見初められるなど。
つまりは自ら這い上がったり、他人の手によって引き上げられるような物語を指す。
格差社会だから人は夢を見る。
他力本願な人間は『いつか王子様が』と夢見ることもあるだろし、自己の力を信じるのであれば『実は自分には才能があるだ』となることもあるだろう。
だが人間のほとんどは凡人であり、仮に才能があったとしてもそれを開花させることのできない人がほとんどだろう。
「専業主婦を推進していた頃と働くことを促す現代は価値観が違うだろうしね」
人は以前に比べ、現実主義に傾いていると彼は言う。
それ自体は悪いことではないが、物語の受け捉え方は違ってくる。
「そもそも、平凡でなんの取り柄もない人が突然資産家に見初められるなんてことはありえない。人は何らかの魅力を感じて人に惹かれるものだから」
”それが容姿ではないということは納得できる”と彼は続けて。
「異世界ものなどを考えてみて。彼らの魅力と言うのは何らかの特技や文明なんだよ。現代からそれを異世界に齎すから魅力的に映るし、そこに面白さがある」
伊達に仕事でつまらない映画を観ているわけではないのだなと平田は感心した。ちゃんと面白さが何か分かっているからつまらないものにもそれなりにレビューを書くことが出来る。そういうことなのだろうと思った。
「たぶん、今の人たちがシンデレラストーリーに惹かれるのは『頑張っていればいつか報われる』と信じたいからだと思うんだ」
「努力が報われないなんて悲しいですもんね」
平田の言葉に”そうだね”と彼は笑う。
以前の和宏は信念を持って仕事に向き合っていたはずだ。
築き上げたものを全て壊され、自由を奪われた。
自由を取り戻したとは言え、未だにトラウマから一人で外に出るのを怖がっている。そしてつまらない映画を観ることを強いられている状況。
これは報われたと言うのだろうか?
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