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12──彼らの事情【社長】

1 異質な環境、憎しみの代償

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「ある意味、父と阿貴は同じなんです」
 見合いの場から救い出した阿貴の義姉は遠江にそう言った。
 事情を聴くべく彼女に面会を申し出た遠江。社長という肩書が功を奏したのか意外にもあっさりと面会を許された。

「それは一体どういう意味なのでしょうか?」
 彼女はこれから分家で匿われることになっている。父のことが終われば自由の身。そのまま分家で世話になるなら肩身の狭い思いをするかもしれない。
 そう思った遠江は彼女が望むのであればわが社にどうかと誘いをかけようとも思っていた。
「父は両親を憎んでいます。いえ、雛本一族を」
 雛本一族はいわゆる世襲家系。彼女の父は長男の家系の長子。我が一族には独特のしきたりがあるという。
「本家を継ぐ者は分家から娶る、妻を迎えるというのがしきたりなんです」
 それはつまり、恋愛婚ではないということなのだろう。

 望まない婚姻をさせられたことで両親を憎んでいるということなのだろうか。そしてそんなしきたりを守っている自分の一族を。
 だが男という生き物は感情よりも本能的な生き物だと遠江は思っている。 よっぽどの理由がなければ自分に尽くしてくれる女性に好意を持つものだ。特に彼女の母はとても見目麗しい。大きな子供が何人もいるようには見えなかった。
 もっともそのように努力をしているのかも知れない。
 要は異性愛者の男性ならば、ふらっと心が動いてしまいそうな女性ということである。
 ならば恨んでいる理由は二つ考えられるだろう。
 一つは異性愛者ではなく、同性愛者という場合。
 もう一つは、好いた相手がいたという場合だ。

 恨んでいる理由を知るべきだと考えた遠江は、彼女にそのことについて聞いてみた。
「父は恐らく異性愛者だと思います。少なくとも同性愛者ではないでしょう。女性と交際していますし」
 不倫して子供を作っている以上、カモフラージュとは考え辛いだろうか?
 もっとも、性欲は愛とはイコールにはならない。その為、そこに愛があったかは定かではないだろう。
「好いた相手がいたかどうかについては……」
 そこで彼女は口ごもった。
 あらゆる可能性について考えていた遠江ではあったが、
「これは本家内の一部で噂されていることですが」
 前置きをされて飛び出した言葉に驚く。
「父は実の妹……つまり叔母のことを愛していたと。憶測に過ぎませんが」

 叔母とは和宏たちの母、優麻のことである。
「叔母が家を出てから父はおかしくなったと伺っています」
 ということは、阿貴のことを不憫に思っただけでなく責任を感じて引き取ったということなのだろうか。
 こればかりは本人に確かめるほかない。
 兄弟、姉妹に恋心を抱くことはあり得ないことではない。
 人間とは異質な生き物だ。
 群れをなす生き物は通常、敵から身を守るためや協力して狩りをするために群れているに過ぎない。自活できるにも関わらず家族や一族と生活を共にし続けるのは人間ならでは。

 人間のみのルールは時として自由の弊害になったり、苦痛に耐えることにもなる。共存するために必要なものもあるが、一族特有のルールは異質なものが多いと感じる。
 いずれあの一族の家長となる彼女の父は孤独だったのかもしれない。
 それが恋慕かどうか定かではないが、妹だけが心癒される場所だったとしても不思議はない。

「父は自由になりたいのかもしれません。我が一族から」
 そしてと彼女は続ける。
「自分を置いて出ていってしまった妹を恨んでいるのかも」
「つまり、このことを解決できるのはその妹さんだけだと」
「少なくとも、わたしはそう思っています」
「そのことを彼女には話したのですか?」
「いいえ。憶測に過ぎませんので」

 彼女の父は今回のことで最愛の妹を敵に回したことになる。
 憎しみの代償は十分に払っているのではないか?
 
「そのこと、話してみていただけませんか?」
 彼の味方をするつもりはないが、話すことが解決の糸口になるのではないかと遠江は感じていた。
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