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11──独占欲に支配され【実弟】
2 のんびりとした午後
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買い物を終えた優人はご機嫌だった。
その足でアンティークカフェに向かう。
「こんなところあるんだな」
和宏は喫茶店を見つめそんな言葉を漏らした。
「今、増えてるらしいね。レトロ喫茶」
ドアを開け中に兄を促す。窓際の席に案内され席に着くとメニューを開く。手書き文字なのだろうか、太さがまだらな丸っこい文字でメニューが書かれている。
「お前、また愛想振りまきやがって」
兄は頬杖をつくとため息をついて。
そんなつもりはなかったが、先ほど案内してくれた女性がこちらをチラチラと見ていた。
『末っ子はアイドル気質よね』
姉の佳奈が言っていたことを思い出す。
「俺が好きなのは、兄さんだけだよ」
「そうやって……」
”まあ、優人がモテるのは今に始まったことじゃないけど”と言って和宏は窓の方に視線を向けた。
愛想を振りまいてしまうのは無意識だと思う。
兄も姉も両親も、優人が笑えば嬉しそうにした。だからニコニコしていればみんなが可愛がってくれる。
家でしていることは外でもでるし、自分は何より平和主義。
ステンドグラスを眺める兄の横顔をぼんやりと眺める。
「優人は何にするんだ?」
ステンドグラスを眺めていた彼がそう言いながらこちらに視線を戻した。
「あ、えっと。ホットサンドとアイスティーにしようかな」
正直、モテたいなんて思ったことはない。兄に対して持つ感情が恋愛感情だと気づいてからは、兄にしか興味はないのだ。
無意識に愛される行動をしているというのなら、なおさらそれは末っ子気質というものだろう。
「兄さんは何にするの?」
「そうだな。ホットドッグにしようかな」
兄の指先に目をやると、
「辛そうだね、それ」
と感想を述べる。
和宏はどちらかと言うと辛党。ただし、バカみたいに辛い物が好きと言うわけではない。
「ピリ辛って書いてあるな」
優人は手を挙げて店員を呼ぶと、スープとサラダのつくセットで注文をした。
「に、しても。俺たちはいつ解放されるんだ?」
兄はもう、旅館に滞在することにすっかり飽きてしまったようだ。
「今朝の母さんの話だと先に帰ってもいいようなことは言っていたよ」
「そうなんだ」
ホッとした表情を浮かべる兄。
「親族会議に関しては打ち合わせのみって言っていたし、会議自体は本家で行われるでしょ?」
「らしいな」
”帰る?”と尋ねると”帰ろうか”と彼。
「帰って家探しでもしようか、優人」
「うん、いいね」
ニコッと笑ったところに注文の品が運ばれてくる。とても美味しそうだ。
「やっぱり海が近い方がいいのか?」
兄はホットドッグを食べ終えると口元をナプキンで拭いながら。
現在優人が暮らしているマンションは海の近く。窓やベランダから海岸が一望できる。
「海を眺めるのは好きだけれど、近くなくてもいいよ」
”就職するなら、駅が近い方がいいでしょ”と続けると、
「そのことなんだがな」
と兄。
「片織にエッセイを書かないかって誘われてる」
「へえ、そうなの」
「大して稼げるわけじゃないけれど、金には困ってないし」
あれだけ遠江に貢がれているのだ、それはそうだろう。
「職に就きたいだけなら、ぜひ検討してくれだそうだ」
”税金は納めているが無職じゃ体が悪いしな”と。
片織は和宏が書評の仕事をしていた時の担当だ。融通をきかせてくれたのだろう。
「いいと思うよ」
気心が知れた相手が仕事仲間なら反対する理由はない。
「だが、在宅勤務になるぞ?」
兄は一体何を気にしているのだろうか。
「いいじゃない。家にいてよ」
まんま長子気質の和宏が甘えられると喜ぶことくらいわかっている。
「兄さんが在宅なら、大学の近くに借りようよ」
”そしたらもっと一緒にいられるし”と付け加えれば、兄がフッと笑う。甘えん坊だとでも思われたのだろうか。
「そうだな。通うのが楽になるのは悪くないだろう」
兄はそう言うと目を細める。
──そう言えば、ルームシェアしている平田も長子って言ってたな。
平田に部屋を出ることを話さないと。
その足でアンティークカフェに向かう。
「こんなところあるんだな」
和宏は喫茶店を見つめそんな言葉を漏らした。
「今、増えてるらしいね。レトロ喫茶」
ドアを開け中に兄を促す。窓際の席に案内され席に着くとメニューを開く。手書き文字なのだろうか、太さがまだらな丸っこい文字でメニューが書かれている。
「お前、また愛想振りまきやがって」
兄は頬杖をつくとため息をついて。
そんなつもりはなかったが、先ほど案内してくれた女性がこちらをチラチラと見ていた。
『末っ子はアイドル気質よね』
姉の佳奈が言っていたことを思い出す。
「俺が好きなのは、兄さんだけだよ」
「そうやって……」
”まあ、優人がモテるのは今に始まったことじゃないけど”と言って和宏は窓の方に視線を向けた。
愛想を振りまいてしまうのは無意識だと思う。
兄も姉も両親も、優人が笑えば嬉しそうにした。だからニコニコしていればみんなが可愛がってくれる。
家でしていることは外でもでるし、自分は何より平和主義。
ステンドグラスを眺める兄の横顔をぼんやりと眺める。
「優人は何にするんだ?」
ステンドグラスを眺めていた彼がそう言いながらこちらに視線を戻した。
「あ、えっと。ホットサンドとアイスティーにしようかな」
正直、モテたいなんて思ったことはない。兄に対して持つ感情が恋愛感情だと気づいてからは、兄にしか興味はないのだ。
無意識に愛される行動をしているというのなら、なおさらそれは末っ子気質というものだろう。
「兄さんは何にするの?」
「そうだな。ホットドッグにしようかな」
兄の指先に目をやると、
「辛そうだね、それ」
と感想を述べる。
和宏はどちらかと言うと辛党。ただし、バカみたいに辛い物が好きと言うわけではない。
「ピリ辛って書いてあるな」
優人は手を挙げて店員を呼ぶと、スープとサラダのつくセットで注文をした。
「に、しても。俺たちはいつ解放されるんだ?」
兄はもう、旅館に滞在することにすっかり飽きてしまったようだ。
「今朝の母さんの話だと先に帰ってもいいようなことは言っていたよ」
「そうなんだ」
ホッとした表情を浮かべる兄。
「親族会議に関しては打ち合わせのみって言っていたし、会議自体は本家で行われるでしょ?」
「らしいな」
”帰る?”と尋ねると”帰ろうか”と彼。
「帰って家探しでもしようか、優人」
「うん、いいね」
ニコッと笑ったところに注文の品が運ばれてくる。とても美味しそうだ。
「やっぱり海が近い方がいいのか?」
兄はホットドッグを食べ終えると口元をナプキンで拭いながら。
現在優人が暮らしているマンションは海の近く。窓やベランダから海岸が一望できる。
「海を眺めるのは好きだけれど、近くなくてもいいよ」
”就職するなら、駅が近い方がいいでしょ”と続けると、
「そのことなんだがな」
と兄。
「片織にエッセイを書かないかって誘われてる」
「へえ、そうなの」
「大して稼げるわけじゃないけれど、金には困ってないし」
あれだけ遠江に貢がれているのだ、それはそうだろう。
「職に就きたいだけなら、ぜひ検討してくれだそうだ」
”税金は納めているが無職じゃ体が悪いしな”と。
片織は和宏が書評の仕事をしていた時の担当だ。融通をきかせてくれたのだろう。
「いいと思うよ」
気心が知れた相手が仕事仲間なら反対する理由はない。
「だが、在宅勤務になるぞ?」
兄は一体何を気にしているのだろうか。
「いいじゃない。家にいてよ」
まんま長子気質の和宏が甘えられると喜ぶことくらいわかっている。
「兄さんが在宅なら、大学の近くに借りようよ」
”そしたらもっと一緒にいられるし”と付け加えれば、兄がフッと笑う。甘えん坊だとでも思われたのだろうか。
「そうだな。通うのが楽になるのは悪くないだろう」
兄はそう言うと目を細める。
──そう言えば、ルームシェアしている平田も長子って言ってたな。
平田に部屋を出ることを話さないと。
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