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10──それでも君が好き【義弟】
2 倍返しですか?
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「平田に電話して、部屋に戻る途中でバッタリ会ったから少し話をしていただけだよ、兄さん」
隣に横を向いて腰かけた和宏を落ち着かせるように、優しい声音で言葉を繋ぐ優人。
彼にとって和宏がどれほど大切なのか思い知る。
「ここだと目立つし、部屋戻ろうか?」
和宏がコクリと頷くのを待って優人が片手をあげた。店員に会計の旨を告げ、その場でスマホの画面を差し出す彼。
「売店寄っていい?」
店から出ると優人が阿貴の方に視線を向け。
「何か飲み物買っていかないと、お茶しかないしさ」
「うん」
優人は隣の売店へと。
「ついていかなくて良かったの?」
わざわざ着替えたのだろうか? 両手をポケットに入れ隣でじっと優人を見つめていた和宏はスラックスにワイシャツという恰好だった。
阿貴に質問されて、こちらに視線を移す彼。
「ん」
短く返答した和宏は阿貴と話すことを嫌がっているようには感じなかった。ただ、店内に流れる曲に耳を傾けているように感じる。
「あ、あのさ」
そこで思い切って和宏に言葉をかける阿貴。
「今、遠江と暮らしていて。それで、その……もう、あんなことしないし」
再びこちらに視線を向けた和宏。
「酷いことしてごめん」
阿貴の言葉も謝罪も感情のない瞳で見つめている。
「謝って許されることじゃないのはわかってる」
「あのさ、阿貴」
抑揚のない声。
「俺の恐怖は阿貴にはわからない。だから放っておいて。謝罪なんて聞きたくない」
”なかったことにはならない”と冷たく言い放たれ、一番怖い相手が本当は誰だったのか理解した。
「お待たせ。どうかした?」
優人は三人分の飲み物を持って店の外にでると、二人を見比べ不思議そうに首をかしげる。
そこで何故彼が二人きりにしても平気だったのか気づく。
心配しなくても、以前の和宏は存在しないのだ。
以前の和宏には弱みがあった。しかし今の彼には弱みなどない。だからその心の隙に入ることなどできはしない。
和宏がどんな人なのか、優人は知っている。
──優人が警戒しているのは、遠江だけなのか?
「行こう」
優人が手を差し出すと和宏がそれを掴んだ。
イチャイチャしているのを見せつけられるのかと思うと阿貴はげんなりした。こういう仕返しの仕方は非常にこたえる。
だが本当の地獄はそこからだった。
──この兄弟は……。
思わず心の中で呟いた阿貴。
二人の部屋に招き入れられた阿貴は、優人にも現状を説明した。和宏と違い優人は”ま、いいんじゃないの”という投げやりな反応。
和宏は浴衣に着替えると、優人の膝枕でウトウトしている。
「俺はね、阿貴がもう兄さんに手を出さなければそれでいいよ」
彼の髪を撫でながら。
わざわざ部屋に招き入れたのは、二人の仲良さを見せつけるためだったのだと気づく。二人の間にもう、入る隙はないのだとわからせるために。
「確かに阿貴は、兄さんに消えない傷を残した。でも結果的にはキューピットなんだから」
言って彼は、
「兄さん、あっちで寝よう?」
と和宏に優しく声をかける。
状態を起こした彼をひょいっと抱え上げると奥の布団のところへ。
「見てなよ、阿貴」
そして彼が阿貴に見せたもの……それは。
気づけば阿貴は部屋を飛び出していた。
目の前で繰り広げられる、二人の愛の営み。それを見続けることはできなかった。
──ああ、もう! なんで反応してるんだよ、俺。
兄さん、あんな声出すんだ……。
耐性がないわけではないが好きな人が欲情する姿を見て、興奮を抑えることができず頭が混乱した。完全にキャパオーバー。
何もかもがどうでも良くなっていた。
ズルズルと壁伝いに座り込み、顔を覆う。
他人の営みを見て興奮する自分は変態だろうか?
部屋に戻りたいが熱を冷まさないと、それこそ通報されそうだ。もっとも、こんな時間に廊下を歩いている客など居なさそうだが。
隣に横を向いて腰かけた和宏を落ち着かせるように、優しい声音で言葉を繋ぐ優人。
彼にとって和宏がどれほど大切なのか思い知る。
「ここだと目立つし、部屋戻ろうか?」
和宏がコクリと頷くのを待って優人が片手をあげた。店員に会計の旨を告げ、その場でスマホの画面を差し出す彼。
「売店寄っていい?」
店から出ると優人が阿貴の方に視線を向け。
「何か飲み物買っていかないと、お茶しかないしさ」
「うん」
優人は隣の売店へと。
「ついていかなくて良かったの?」
わざわざ着替えたのだろうか? 両手をポケットに入れ隣でじっと優人を見つめていた和宏はスラックスにワイシャツという恰好だった。
阿貴に質問されて、こちらに視線を移す彼。
「ん」
短く返答した和宏は阿貴と話すことを嫌がっているようには感じなかった。ただ、店内に流れる曲に耳を傾けているように感じる。
「あ、あのさ」
そこで思い切って和宏に言葉をかける阿貴。
「今、遠江と暮らしていて。それで、その……もう、あんなことしないし」
再びこちらに視線を向けた和宏。
「酷いことしてごめん」
阿貴の言葉も謝罪も感情のない瞳で見つめている。
「謝って許されることじゃないのはわかってる」
「あのさ、阿貴」
抑揚のない声。
「俺の恐怖は阿貴にはわからない。だから放っておいて。謝罪なんて聞きたくない」
”なかったことにはならない”と冷たく言い放たれ、一番怖い相手が本当は誰だったのか理解した。
「お待たせ。どうかした?」
優人は三人分の飲み物を持って店の外にでると、二人を見比べ不思議そうに首をかしげる。
そこで何故彼が二人きりにしても平気だったのか気づく。
心配しなくても、以前の和宏は存在しないのだ。
以前の和宏には弱みがあった。しかし今の彼には弱みなどない。だからその心の隙に入ることなどできはしない。
和宏がどんな人なのか、優人は知っている。
──優人が警戒しているのは、遠江だけなのか?
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優人が手を差し出すと和宏がそれを掴んだ。
イチャイチャしているのを見せつけられるのかと思うと阿貴はげんなりした。こういう仕返しの仕方は非常にこたえる。
だが本当の地獄はそこからだった。
──この兄弟は……。
思わず心の中で呟いた阿貴。
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和宏は浴衣に着替えると、優人の膝枕でウトウトしている。
「俺はね、阿貴がもう兄さんに手を出さなければそれでいいよ」
彼の髪を撫でながら。
わざわざ部屋に招き入れたのは、二人の仲良さを見せつけるためだったのだと気づく。二人の間にもう、入る隙はないのだとわからせるために。
「確かに阿貴は、兄さんに消えない傷を残した。でも結果的にはキューピットなんだから」
言って彼は、
「兄さん、あっちで寝よう?」
と和宏に優しく声をかける。
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