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9──社長遠江の辿った真実【社長】
4 社長遠江の駆け引き
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調べていて分かったことは二つある。
それは和宏が優人に想いを寄せている可能性。
そして、阿貴が本当に好きな相手は優人だということ。
──早々に引き離すべきだ。
傷の舐めあいでもしているならまだ救いもあるが。
和宏の近況の写真を見る限りでは幸せとは程遠いと感じた。
そして実際に会って、酷く爛れた生活をしていることを実感したのだ。
──あんなものを持たされて。
その身を差し出すとでもいうのか?
そこまでして君は阿貴から逃れたい?
救えるものなら救ってやりたいとも思った。
けれども、彼を救えるのは自分ではない。自暴自棄になって自分自身を傷つけることは望まないし、させはしない。絶対に。
和宏がこんな風になった元々の発端を作ったのは自分。
作らせたのが阿貴であったとしても、責任は自分が取らねばならない。
雛本優人をここに呼んだのは、賭けだった。
もし優人に覚悟があるなら、彼に委ねればいい。
ただいたずらに傷つけるつもりなら、和宏は自分が。
『君は、和宏が阿貴とどんな関係なのか知っているの?』
その質問に、優人は答えを返すことはなかった。その間、遠江はじっと彼を観察する。彼は分からないのではなく、答えたくないのだと気づく。
その意味はなんとなく理解したつもりだった。
自分から決定的な言葉を述べたくないのだ。認めたくないということは、認めないに等しいということ。
──恋人という関係がどんなものかくらい、彼は知っているはずだ。
あれだけ色んな相手と交際を繰り返したのだから。
遠江にはその理由を知ることはできなかったが、あれから新たに知ったこともある。それは彼が【鉄壁の理性】と呼ばれていることだ。
誰からも恨まれていないのは、彼女たちと肉体関係になかったから。
そういうことなのだろう。
そして彼は、元カノから呼び出されれば応じる。別れた後も、食事などには行く関係だったようだ。
経験がないことをどう思っているのだろうか?
堂々としているとは言い難い彼の様子を伺う。
気になったので、彼の唯一の同性の友人についても調べてはみた。
さぞかし気が合い、仲の良い関係なのかと思ったら、すこし変わった関係のようだ。同じ大学の中では有名な二人組らしく、いろんな噂を聞けたとのこと。
『しかし、どうやって調べたんだね?』
興信所などに依頼したわけではないことくらいは分かっている。
『餅は餅屋と言いますからね。潜入調査ですよ』
人に犯罪はご法度と言っておきながら、どうやらK学に潜入し調べたようだ。
彼は前髪をおろせはそこそこ学生でも通用するだろう。
なにせ数年前は学生だったのだから。
『私《わたくし》もK学だったので勝手は分かっていますから』
彼はOBとして恩師に会いに行ったついでですよと、眼鏡をくいっとあげた。
その眼鏡が伊達だということは遠江も知っている。
『随分楽しそうだねえ』
と面白そうに彼を眺める遠江。
『何事も楽しまなければ損ですよ、社長』
『ああ、まあそうだね』
彼は不敵な笑みを浮かべると『失礼します』と言って踵を返した。
──”呼べば来る、便利な男”ねえ。
秘書との会話を思い出していた遠江はもう一度、優人をじっくりと眺める。
プライドが高く、無口と言った印象の青年だ。
遠江の前ではニコリともしない。確かに容姿は整っているが、何故彼がそんなに女性の心を掴むのか理解しがたい。
容姿だけで人を寄せ付ける人間なんてそういない。
人は表情や仕草に惹かれる生き物なのだ。
彼は意図してなのか、遠江の質問にはあまり答える気はないように見える。
『あなたの望みはなんです?』
彼に問われ、遠江はハッとした。
優人は和宏をとっとと連れて帰りたいのだ。焦るその理由はどこにあるのだろうか?
──早く連れ帰らないと阿貴に取り返されるとでも?
そんなことはさせはしない。
”僕は君たちの味方だ”と仮に今ここで言ったところで、優人は信じてはくれないだろう。そう思った遠江は逆に阿貴を利用しようと思ったのだった。
それは和宏が優人に想いを寄せている可能性。
そして、阿貴が本当に好きな相手は優人だということ。
──早々に引き離すべきだ。
傷の舐めあいでもしているならまだ救いもあるが。
和宏の近況の写真を見る限りでは幸せとは程遠いと感じた。
そして実際に会って、酷く爛れた生活をしていることを実感したのだ。
──あんなものを持たされて。
その身を差し出すとでもいうのか?
そこまでして君は阿貴から逃れたい?
救えるものなら救ってやりたいとも思った。
けれども、彼を救えるのは自分ではない。自暴自棄になって自分自身を傷つけることは望まないし、させはしない。絶対に。
和宏がこんな風になった元々の発端を作ったのは自分。
作らせたのが阿貴であったとしても、責任は自分が取らねばならない。
雛本優人をここに呼んだのは、賭けだった。
もし優人に覚悟があるなら、彼に委ねればいい。
ただいたずらに傷つけるつもりなら、和宏は自分が。
『君は、和宏が阿貴とどんな関係なのか知っているの?』
その質問に、優人は答えを返すことはなかった。その間、遠江はじっと彼を観察する。彼は分からないのではなく、答えたくないのだと気づく。
その意味はなんとなく理解したつもりだった。
自分から決定的な言葉を述べたくないのだ。認めたくないということは、認めないに等しいということ。
──恋人という関係がどんなものかくらい、彼は知っているはずだ。
あれだけ色んな相手と交際を繰り返したのだから。
遠江にはその理由を知ることはできなかったが、あれから新たに知ったこともある。それは彼が【鉄壁の理性】と呼ばれていることだ。
誰からも恨まれていないのは、彼女たちと肉体関係になかったから。
そういうことなのだろう。
そして彼は、元カノから呼び出されれば応じる。別れた後も、食事などには行く関係だったようだ。
経験がないことをどう思っているのだろうか?
堂々としているとは言い難い彼の様子を伺う。
気になったので、彼の唯一の同性の友人についても調べてはみた。
さぞかし気が合い、仲の良い関係なのかと思ったら、すこし変わった関係のようだ。同じ大学の中では有名な二人組らしく、いろんな噂を聞けたとのこと。
『しかし、どうやって調べたんだね?』
興信所などに依頼したわけではないことくらいは分かっている。
『餅は餅屋と言いますからね。潜入調査ですよ』
人に犯罪はご法度と言っておきながら、どうやらK学に潜入し調べたようだ。
彼は前髪をおろせはそこそこ学生でも通用するだろう。
なにせ数年前は学生だったのだから。
『私《わたくし》もK学だったので勝手は分かっていますから』
彼はOBとして恩師に会いに行ったついでですよと、眼鏡をくいっとあげた。
その眼鏡が伊達だということは遠江も知っている。
『随分楽しそうだねえ』
と面白そうに彼を眺める遠江。
『何事も楽しまなければ損ですよ、社長』
『ああ、まあそうだね』
彼は不敵な笑みを浮かべると『失礼します』と言って踵を返した。
──”呼べば来る、便利な男”ねえ。
秘書との会話を思い出していた遠江はもう一度、優人をじっくりと眺める。
プライドが高く、無口と言った印象の青年だ。
遠江の前ではニコリともしない。確かに容姿は整っているが、何故彼がそんなに女性の心を掴むのか理解しがたい。
容姿だけで人を寄せ付ける人間なんてそういない。
人は表情や仕草に惹かれる生き物なのだ。
彼は意図してなのか、遠江の質問にはあまり答える気はないように見える。
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彼に問われ、遠江はハッとした。
優人は和宏をとっとと連れて帰りたいのだ。焦るその理由はどこにあるのだろうか?
──早く連れ帰らないと阿貴に取り返されるとでも?
そんなことはさせはしない。
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